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【短編小説】 寝汗


あああああああぁぁぁっぁぁっぁぁあぁぁっぁぁああああああああ


最近は寝汗がひどいな。


朝。目を覚ました。



つけっぱなしのテレビから流れているニュースは今日も憂鬱なニュースばかりだ。


「本日未明、銃を所持してバスに立てこもりテレビ局に向かっていた犯人は勇敢な乗客のおかげで警察に確保されました。残念ながら負傷者も出ている状況です。新しい状況がわかり次第お伝えします。現場から以上です」


女性リポーターは緊張感を持って現場の状況を伝えている。


「事件が解決しました。これは許されることではありません。亡くなった人にご冥福をお祈りします。先日の刃物を振り回す事件に続き、若者達がこのような事件を起こす原因はなんでしょうか。那須原さん」


「そうですね。まずは若者の貧困にあるでしょう。そして貧困状態が続くと精神状態不安定となり、自殺する。もしくは死ぬくらいなら社会に対して何か報復してやろうと考えて実行する若者が増えているのでしょう。ただ一人一人の反抗動機は非常に様々なので一概に決めつけることはできません」



テレビ局でニュースの司会者とコメンテーターが会話をしている。


俺はシャワーを浴びて仕事の支度をする。

「はぁ…」


俺は今日も契約社員として仕事を全うする。本社の社員に頭を下げて仕事をするのは本当に辛い。特に本部長からのミスを1時間以上みんなの見せしめのための説教は胃がキリキリする。だが、俺の家族が4000万の借金を負っているから仕事は辞めるわけにはいかない。


正社員になることもできない。借金は返済の目処は立たない。家族は介護しなくてはならない。会社では虐められる。


この地獄はいつまで続くのだろうか。


夜11時、帰りのバス。

「今日も疲れたな。早く帰って寝たい」


「動くな。誰一人動くな!!」


そこには銃を持った私と同じくらいの年齢の若者がいた。若者は運転手に銃を突きつけている。


「これからテレビ局に向かえ」

「いや..そんな訳には…」

「早くしろ!!!」


銃を持った若者は床に発砲した。



「やめてーーーーーーーーーーーーーーー」


車内の女性が声を上げる。

「黙れ!!次叫んだら殺すぞ!!」

そう言って彼は叫んだ女性の頭上に再度発砲した。

女性は涙目に鳴りながら、唇を噛み締めて大きく深呼吸している。

「わかりました。わかりました。今すぐにテレビ局に向かいます。だから発砲はおやめください」

バスの運転手の言葉に納得したのか彼は発砲をやめた。

俺は危機的状況にも関わらずどこか他人事のように感じてしまった。そう今日のニューで目を覚ましたときのように。

そして彼の顔はとても私に似ている。

社会に怯えていて、どうすればいいかわからない。そして頼れる大人もおらず、ずっと搾取され続けた側の人間だ。

彼はきっとこの地獄のような状況で私と同じことを思ったのだ。

「どうせ死ぬなら、一矢報いてやる」

後ろからパトカーの音が聞こえる。しかしパトカーはある一定の距離を保ち後方を走り続けている。

「これ以上近づくな。近づいたら子供、女性から順番に殺していくからな。それからテレビ局まで誘導するのように道を開けろ」

彼がスマホで話している相手は警察だろうか。警察は指示に従っているように見える。

「お前、いい加減にしろ!!」

そこには60代くらいの恰幅の良いおじさんがいた。誰かに似ている。


「こんなことが許される訳ないだろ。俺達は降りる。他の乗客もこのバスから降ろせ!!」


終わったな。


「君にどんな不遇があったかわ知らない。ただ他人を巻き込んで命を奪うことが許されるわけないだろ。君ももうやめるんだ。今ならもう間にあう。一緒に警察へ行こうじゃないか」


私以外の他の乗客はおじさんのことをヒーローのような眼差しで見ていた。


「それ以上近づいたら撃つ」


「君は撃たない。大丈夫。怖いことなんてなにもないんだ」


一歩。


二歩。


彼に近づく。



三歩。




四歩。





パン





銃声が鳴り響く。


心臓を撃ち抜かれたおじさんは倒れ込み、床には血がべっとりと流れていた。


「お前みたいに若者利用して金稼いでるやつに、俺の気持ちがわかるかよ」


あぁ。俺だ。


本社の社員、50代の本部長。

俺を虐めるやつを夢の中で何度殴っただろうか。この本部長からの陰湿なイジメはいつまで続くのだろうか。なんでこんな時代に生まれたのだろうか。


彼は社会の道徳的に間違ったやり方で社会と闘っているのだ。


そして彼は俺だったかもしれない。


あぁぁ。今思うとクソみたいな人生だったな。


いつ死んでも良いって思ってたんだよな。そういえば。


ここで死んでもいいか。


俺は立ち上がった。そして撃たれたばかりでまだ温かいおじさんの遺体に近づいた。


そして俺はそいつに唾を吐いた。



彼は驚いていた。


「おい。お前、誰だ。やめろ。こっちに来るな」


彼は明らかに怯えている。



俺は少しづつ彼に近づく。


「本当に打つぞ。お前誰だ。命が惜しくないのか」



「惜しいものか。俺はお前だ」




俺は持っていた鞄を彼に投げつけた。同時に彼に向かって走り出した。体勢を一瞬崩した彼は運転手に銃を持っている腕を押さえつけられる。


ハンドルの握っていないバスは不安定に揺れる。そしてそのまま壁にバスはぶつかり彼も入り口のドアに体をぶつけた。


俺はそのまま彼の元に走り、思いっきり俺をぶん殴った。



あああああああぁぁぁっぁぁっぁぁあぁぁっぁぁああああああああ



※この物語はフィクションです。

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