アイスホッケー日本代表・三浦優希の提言。日本人には“休む勇気”が必要
どんな場面においても、ベストのパフォーマンスを出せるかは本番までの準備にかかっています。
本特集企画「準備が8割。勝利のためのルーティーン」では、特にトレーニング・食事・睡眠・休養のサイクルがカギとなるアスリートのルーティーンを取り上げます。
第5回はアイスホッケー選手の三浦優希さん。高校生の頃に海外へ渡り、現在はアメリカを拠点に活躍しています。今回は海外挑戦までの経緯、そして異国の地での活躍を支える習慣について伺いました。
日本を飛び出し海外へ。決断の理由
私は1998年の長野五輪に日本代表として出場した父の影響で、アイスホッケーを始めました。中学生までは地元のチームでプレーして、早稲田実業高校へ進学しました。高校2年生の時にチェコに2週間留学したのですが、現地のU20のトップリーグの練習や試合に参加させていただく機会にも恵まれたんです。そして、日本に帰るタイミングで「チームに残らないか」と監督からお話をいただき、高校2年生の11月に高校を自主退学。本格的に海外での活動を始めました。
チェコに留学した理由をよく聞かれるのですが、小学生の時に一度チェコを訪れたことがあったんですよ。その時に見たアイスホッケーに憧れていて。「いつかこのリーグでプレーしたい」と思っていたんです。それが叶ったので、嬉しかったですね。
チェコで2年半ほどプレーした後、アメリカのU20のトップリーグにドラフトで呼んでもらい、活動の場をチェコからアメリカに移しました。アメリカのリーグで1年間プレーをした結果、Lake Superior State University(レイクスピリア州立大学)からオファーをいただいて、日本人アイスホッケー選手としては初めて、NCAA(全米大学スポーツ協会)ディビジョン1の舞台でプレーしています。
2021年4月に大学を卒業した後、一度日本に帰国して、今はアメリカでプロ選手としてチャレンジするための準備をしています。
チェコとアメリカでは、アイスホッケーのスタイルが大きく違います。チェコはパックを大切に扱います。サッカーでいうFCバルセロナのような、テクニック重視でパスを繋いで相手を崩していくスタイル。一方で、アメリカはいわゆるゴリゴリ系。とにかくパックを前に進めて、体を思い切り当てて、かなりハードなプレーが求められます。
アメリカに行くと決めた時、チェコのチームからもプロ契約のオファーをいただいていました。しかし、チェコのトップリーグで活躍している選手の多くが、10代後半から20代前半で、スキルの面で学べることの多いアメリカやカナダに挑戦しています。最終的にどこの国でプレーするにしても、北米でのプレー経験がキャリアに活かせると思い、アメリカ行きを決断しました。
シーズン中に、いかに疲労を溜めないかが勝負
アメリカでの一日の流れは、午前中に授業を受け、午後は14時から17時くらいまで、氷上練習とウエイトトレーニングをします。試合は19時に開始と決まっていたので、試合が終わって22時には帰っていました。
すごく恵まれた環境でしたね。日本ではリンクの数が少なく、フィギュアスケートなど他の競技との兼ね合いで、夜遅くに練習をせざるを得ません。アイスホッケーの練習時間がこんなに夜遅いのは日本くらいです。アメリカをはじめ、基本的にどの国も、各大学がリンクを持っているので、好きな時間に練習ができるんです。
日本ではユース年代のチームや、フィギュアスケートの選手が優先的にリンクを使うので、社会人や学生のアイスホッケーチームの練習はさらに遅い時間になってしまいます。僕はトレーニングがメインなので、朝起きて何かしなければいけないということもなく、睡眠時間を確保できています。一方で、学生は夜中の2時や3時まで練習した後、始発の電車で大学に行っていると聞いて驚きました。
アイスホッケーはコンタクトスポーツです。体を当てられる分、体力を消耗し、怪我のリスクも高まります。そのため、休養は練習と同じくらい大切だと思います。
日本人は、勇気をもって休むことが苦手なのかなと。シーズンスポーツでは、いかに疲れを溜めないかということが重要です。スタッツや動きから、どれくらい疲労が溜まっているのか分かります。また休養をしっかり取っている選手の方が、コンスタントにいい動きができていると思いますね。
海外の選手は、睡眠時間が長い印象があります。早く寝る選手が多い。スリープテック系の器具を付けて、睡眠の深さなどのデータをトレーナーさんに共有している選手もいました。
自動でデータが共有できる設定になっていて、朝になったらデータがトレーナーへ送信されるんです。寝付くまでに時間が掛かっていた時は、前日の何時にどんな夕食を食べたのか、その日の疲労度合いはどうだったのかなど、客観的なデータと選手の主観的な感覚を合わせながら話をしていましたね。
食事の面では、自炊をする選手も多くいました。スウェーデン出身の選手は、ヘルシー志向を常に持っていて、レストランに行った時も脂質の高いものは避け、魚や野菜を中心に注文をしていました。
出身国で、意識もかなり違うなと。僕が所属していたのは多国籍なチームで、ラトビア、ドイツ、フランス、ベラルーシ、スロバキア、日本、スウェーデンと、大体7〜8か国くらいの選手が所属していました。国ごとにさまざまな違いが見られて、面白かったです。あくまで僕のチームでの印象ですが、ヨーロッパの選手は比較的寝るのが早く、アメリカの選手は夜に遊んでいる選手が多いです(笑)。
練習が全てではない。休養こそが、パワーアップに繋がる
小さい頃から、とにかく練習しなきゃと思い続けていたタイプでした。そんな中、中学2年生の時に、オーバートレーニングが原因で腰椎分離症になってしまい、1年間ホッケーができなくなってしまったんです。そこで、「アイスホッケーが上手くなる」というゴールに到達するために、自分のパワーを“休む”ことにも使ってあげるのも重要だなと思うようになりました。
僕は昼寝がすごく好きで、ほぼ毎日2時間くらいしていました。試合の前も必ず最低2時間は昼寝をすると決めています。その後のコンディションも良かったので、自分には合っていると思いますね。
試合前のこだわりとしては、最低限の情報発信をするとき以外は、できるだけ液晶画面を見ないようにして、目を疲れさせないこと。やはり目の疲れは顕著にプレーにも反映されると感じます。ぐっすり眠るために、部屋を真っ暗にした上でアイマスクもして、良い体の状態で試合に臨んでいます。