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難関大受験のおすすめ参考書・勉強法(数学編)

私が思うに、数学ほど好き嫌いが分かれる科目はないだろう。一番好きという人も、一番嫌いという人も大勢いる。ある大学の研究によると、受験科目の中で生まれながらのセンスが最も問われるのが数学らしい。しかし、だからと言って苦手な人は悲観してはならない。所詮は高校数学だ。大学の数学科で学ぶような純粋数学とは比べ物にならないほど底が知れている。私も数学のセンスはあるわけではないが、東大や京大の大学別模試で偏差値80以上とれていたのだから、今点数が低くても今後の努力次第でいかようにも伸びるのだ。高校時代、数学が一番好きで、数学を武器にして京都大学理学部に合格した私が、数学のおすすめ参考書と勉強法をつらつら書いていきたいと思う。

先に言っておくが、私が受験生の頃は数学Cがなかった。当時数学Bにあったベクトルと数学Ⅲにあった複素数平面が合体してできたのが数学Cである。上記を頭に入れてご覧いただきたい。


参考書

長ったらしい説明の前に、使った参考書をまとめておこう。

  • 総合的研究 数学

  • 総合的研究 論理学で学ぶ数学 —思考ツールとしてのロジック

  • ハイレベル数学の完全攻略

  • 大学への数学 解法の突破口

かなり多く見えるが、問題数でいえば青チャート+一対一よりおそらく少ない。ところで上記の参考書に共通することは何かわかるだろうか。そう、全員(元)駿台講師なのである。意図したわけではないが、私は駿台と相性が良いのだろう。


総合的研究 数学

予め言っておかなばならないが、本書は改訂されておらず、絶版状態である。現時点での代わりの参考書としては、レベルは下がるが旺文社の『数学入門問題精講』がおすすめだ。ただ、数学は、改訂後も「確率分布と統計的な推測」が必修化し、分野の配列が変わっただけなので、旧課程の参考書で学ぶのもありである。

一見するとチャートに似ているが、中身は大きく異なる。チャートが典型問題とその解法の羅列に終始しているのに対し、本書は講義系の参考書で、数学という学問と正面から向き合って高校数学を論理的に説明している。Amazonに余りにも良いレビューがあり、それ以上のことを書ける気がしないので、引用する。

今までの自分がいかにチ◯ートなどの俗な問題集に翻弄されていたかに気づかされました。

数学は解法暗記だとする声も聞きます。確かにそうかもしれませんが、現行の教育課程では、なぜその解法に帰着するのか、置き換えをすることに何の意義があるのかを全く説明せず、そこに行き着く理由が「こうすると解けるから」という屁理屈以外のなにものでもないのです。

多くの高校生が数学を不得手とするのはこれが理由ではないでしょうか。

その点、本書は俗な問題集に載ってるような典型例題ではなく「本質」を理解していないと解けない問題が数多く載っているため、数学が得意だと思っている方も一度自分の力を試すためにやるのもいいかもしれません。所々にある生徒と先生のQ &Aも興味深くてとても参考になります。

何読の価値もある素晴らしい本だと思います。

https://www.amazon.co.jp/%E7%B7%8F%E5%90%88%E7%9A%84%E7%A0%94%E7%A9%B6-%E6%95%B0%E5%AD%A6I-%E9%AB%98%E6%A0%A1%E7%B7%8F%E5%90%88%E7%9A%84%E7%A0%94%E7%A9%B6-%E9%95%B7%E5%B2%A1-%E4%BA%AE%E4%BB%8B/product-reviews/4010377011/ref=cm_cr_arp_d_rvw_rvwer?ie=UTF8&reviewerType=avp_only_reviews&pageNumber=1

青チャートほどではないにせよ、計2000問ほど掲載されているので、演習量の不足は私は感じなかった。似たような参考書に『新数学Plus Elite』がある(あった)。こちらはさらに本格的な本だが、挫折しそうだったので手が出せなかった。

学参ではないが、高校数学を更に論理的に勉強したいなら『高校数学+α:基礎と論理の物語』がおすすめだ。ただし、問題は掲載されていないので、チャートなどの網羅系と併用する必要がある。


総合的研究 論理学で学ぶ数学 —思考ツールとしてのロジック

数学において、論理性や厳密性といったものは非常に重要である。なぜなら数学は、物理や化学などの具象的な存在を扱う「自然科学」と違い「形式科学」という分野に属される。形式的なもの、即ち抽象的な概念を扱っているのだ。つまり、自然科学では論理に多少の飛躍があろうが、実証的に正しければそれでいいという「いい加減さ」が許されるが、数学は論理的な不備がないこと以外に正しさが認められないのである。

この本は、数理論理学における述語論理について学び、それを用いて入試問題を解いてみよう、というコンセプトの本である。著者が駿台にいたころの夏期講習「数学的数学考究―または記号論理の主題による数学的変奏曲」の書籍版である。述語論理について説明すると長くなってしまい、本記事の趣旨とずれてしまうので、概要を知りたい方はこちらを読まれるとよいだろう。先程紹介した同著『総合的研究 数学』にも簡易な説明はあるが、本書はそれと比べ物にならないほど深い内容に触れている。

この本に書いてある通りに問題を解いてみて、なるほど論理的に解くとはこういうことか、と思い知らされた。今までこうすれば解けるからという理由でなんとなく解いていたものが、述語論理のレールに乗り、同値性を損なわずによりシンプルな考え方で解けた時、数学的に考えるとはこういうことなのか、と視界が開けるとともに、数学の世界の奥深さの片鱗を垣間見たのである。

本書の内容は、軌跡・領域や整数問題などの代数的な処理が必要な問題に対し絶大な効果を発揮する。また、受験の枠を超えてアカデミックな数学を学ぶ際にも、本書に書いていることはある程度理解しておく必要がある。数学を本気で学びたい中高生にとっては必携の本だろう。ただし、本書が大学受験レベルで必須かというとそうでもない。最近、東進から本書とほぼ同じ内容でややレベルを落とした『数学の真髄 —論理・写像―』が出版された。また、YouTuberの古賀真輝氏が書いた『総合的研究 問題文の読み取り方――数学Ⅰ・A・Ⅱ・B』と、東京出版の『大学への数学 数学を決める論証力』も本書とほぼ同じ内容である。


ハイレベル数学の完全攻略

米村明芳先生と杉山義明先生の共著書。どちらも私の恩師である。米村先生は数学の理論を厳密に捉え、定義と公理に基づいて解法の着想をエレガントに導き出す授業を、杉山先生は問題を精密に分析し、典型的な解法をベースとして解答に至るまでの思考過程をまるでパズルを解くかのように構築していく授業を行う。米村先生が上級者向け、杉山先生が中~上級者向けといったところか。皆も受けてみてほしいのだが、本当に素晴らしい授業である。

本書では、そんな二人の授業を凝縮したような濃密な解説が紙面で繰り広げられている。問題集のくせに下手な講師の授業よりも遥かにわかりやすく、奥深い。問題を解くために知っておかねばならない基本事項の確認から始まり、解法に至るまでの考え方、解答、別解、注意点、その問題の一般化、およびそれと関連がある問題の解説、その問題が意味すること、あるいは背景にある数学理論の説明…など多岐にわたる。前書きに記載の通り、まさに「1問を1問で終わらせない解説」であるといえよう。

問題のレベルも、簡単過ぎず難し過ぎずで良い塩梅だ。似たようなレベルでいうと河合出版の「やさしい理系数学」や東京出版の「大学への数学 新スタンダード演習」が該当する。惜しむらくは、これら2冊よりも問題数が少ないことくらいだろうか。しかしながら、本書は1問から最大限多くのことを学べるようになっているので、全く問題ではない。寧ろ、解法暗記に頼らず、原理原則から解法を論理的に導き出す力を鍛えてくれる良い問題集だ。中~上級者向けの問題集として文句なしの最高傑作だろう。

蛇足だが、東京出版の『真・解法への道!/数学IAIIB』も解答解説が非常に優れているのだが、数学ⅢとCの二次曲線・複素数平面がないのが玉に瑕だ。文系の生徒にとっては有力な選択肢に入るが。


大学への数学 解法の突破口

大多数の問題集は分野別に問題が配列された、いわゆる「縦割り」の問題集だ。大して本書は考え方・発想別に問題が配列された「横割り」の問題集である。他には『入試数学の掌握』がこれに該当する。掌握は突破口もよりさらにレベルが高く、内容が豊富である。しかし、掌握をやった人と突破口をやった私を比べても最終到達点は同じくらいなので、見比べてみて好きなほうをやるとよいだろう。

本書は、分野を跨いだ複合問題、すなわち典型的な考え方では太刀打ちできない難問に立ち向かうための問題集である。つまり、典型問題はある程度解ける前提で書かれているのだ。具体的には、先程紹介した『ハイレベル数学の完全攻略』は全問解けて当たり前、解答解説に書かれていることも人に説明できるレベルまで理解していることが望ましい。そして、そこまでで出来るのであれば過去問演習を積めば東大理系数学でも6~7割はとれる。つまり、本書はそこからさらに上を目指す問題集というわけだ。したがって、東大理Ⅰ志望であっても本書に取り組む必要性は正直低い。残された時間と他教科との兼ね合いを考えて取り組もう。

本書の問題のレベルは意外にも幅広い。異様に簡単な問題もあれば、異常に難しい問題も掲載されている。本書の真に難しいところは、本書に書いてある考え方を本番で活かせるレベルで身に着けるために、膨大な量の問題演習が必要なところである。突破口にしろ掌握にしろ、横割りの問題集の特徴として、説明が詳しいがゆえに分かった気になってしまうのである。そして、模試などで学んだことを活かせずに挫折してしまう例がよく見られる。内容は非常に良いが、取り扱い注意の参考書だ。


過去問

注意しておかなければならないのが、東大・京大志望者は赤本の25ヵ年ではなく、駿台の『東大入試詳解』『京大入試詳解』を使うことだ。別に駿台を忖度しているわけではない。25ヵ年は問題が年度別ではなく分野別に分けられており、突破口で学んだことを訓練しづらい。また、本番を想定して年度別で時間を測って解く際にも余計な手間がかかるし、解説の質も入試詳解に劣る。少し値は張るが、鉄緑会の『東大数学問題集』もよい。
また、自身の志望校以外に、似たようなレベルの過去問を解くのもありだ。私は京都大学のほかに、東京大学、東京工業大学、大阪大学、名古屋大学の過去問もやっていた。ただし、あくまで自身の志望校の過去問が優先だ。時間に余裕がないのであれば手を付けないほうが良い。

共通テストの過去問は皆やるだろうが、まだセンター試験から変更されてから日が浅く、過去問が少ない。共テの過去問を完璧にやり終えたらセンターの過去問をやるようにしよう。予想問題や模試の過去問も悪くはないが、問題の質が違いすぎる。センターと共テでは出題形式は若干違うが、問題の根本は同じである。私の恩師も口をそろえて同じことを仰っていたので、これは間違いないだろう。




勉強法

勉強法といっても、特殊なことは何もない。ただひたむきに、学問と向き合い続けるだけである。

暗記するのは定義と公理だけ

数学は論理を積み上げる科目であって、暗記科目ではない。論理の出発点である定義と公理を除くすべての定理や公式は、すべてこれらに基づいて導出できる。だから、覚えなければならないのは定義と公理だけでなのだ。もちろん、時間が限られている入試のことを考えれば、重要なものや証明に時間がかかるものは覚えていたほうが良いだろうが、それでも何が何からどのようにして導かれるか、またそれが本質的に何を表すのか理解しておこう

しかし、最も重要なことは、定義を正確に覚えることだ。覚えた内容が数学的に間違っていたり、曖昧だったりすると、以後続くすべての論の正確性が失われてしまう。
例えば、数学Cで習う「ベクトル」の定義は「向きと大きさを持つ量」であり、有向線分として表される。しかし、これは所謂「幾何ベクトル」の定義であって、一般的なベクトルの説明にはなっていない。線形空間の元、というのが正確な定義である。こうみなすことで、平面ベクトルや空間ベクトルはもちろん、これらを一般化したn次元ベクトルや数列、関数、多項式もベクトルと考えることができる。
また、数学Ⅲで習う極限の定義に「限りなく近づく」とあるが、この記述は数学的に曖昧である。今日において、数列の極限はε‐N論法、関数の極限はε‐δ論法で厳密に定義されるわけであるが、これらの論法が確立される前は、本来成り立たない誤った命題が定理として扱われていたことも少なからずあったようである。特にε‐δ論法は関数の連続性についても厳密な定義を与え、微積分学の根底をなす重要な論法である。

正直、一般的な高校生にここまで厳密な理解を求めるのは酷な話であることは理解している。上記の内容は、それぞれ線形代数学と微積分学という、大学で習う数学の一分野である。さらに言えば、理学部数学科や物理学科の理論系、情報系の学科でもなければ数学を厳密に習うということは恐らくないであろう。しかし、数学において定義がいかに重要かだけでも認識し、公式暗記よりも一歩踏み込み、教科書の内容を正しく理解しようという、そんな学習を心掛けてほしいと思う。


初見の問題を大事にする

初見の問題というのは貴重だ。一度その問題を解いたらば、その問題はもちろん、似たような問題もすべて既知の問題になってしまう。そうすると、それらを次解くときは「前回ああすれば解けたから」「解答解説にこう書いていたから」というように、自身の考えではなく過去の経験で解くようになってしまう。無論それは悪いことではないが、東大や京大で出題されるような非典型問題に対応するためには、普段から初見の問題で思考訓練を積んでおく必要がある。だからこそ、初見の問題を前にしたときは、すぐに答えを見るのではなくじっくり考えてほしいのだ。解ける解けないではなく、考え抜く行為そのものに価値があるのだから。

逆に、2回目以降解く問題では、時間を計り、できるだけ早く解答できるようにしよう。


問題を研究する

普段の問題演習において、問題はただ解くだけではもったいない。安易に解法暗記に走るのではなく多角的な視点から問題を研究していく姿勢が大事だ。簡単にではあるが、具体的な手順を述べよう。

  1. 問題を読んでから解法を思いつくまでの思考過程を確認する。

  2. 同値性を重視し、解法の論理性を可能な限り厳密化する。

  3. 別解を探したり、関連のある問題を整理したり、問題を一般化したり、背景にある理論を調べたりと、問題を深掘りする。

「1」は思考力や応用力を高めるのに役に立つ。分かりづらいが「確認する」とは自身の考えを曖昧なまま放置するのではなく、きっちりと言語化するという意味だ。解法暗記に頼らず、数学の原理原則から自然な解答を導き出せるようになると、初見の問題に対する対応力が飛躍的に上昇する。

「2」は参考書で紹介した『論理学で学ぶ数学』やその関連書籍を読んでいないと究めるのは少々難しいかもしれない。しかし、簡単に言えば教科書に忠実に解きましょうというだけのことだ。解法を模倣せよと言いたい訳ではない。拡大解釈しておかしな式変形や論理の言い換えをするなと言う話だ。そのために、普段から解けた問題であっても見直しをするようにしよう。新しい発見があることだろう。
「3」は、雑学知識を増やせと言いたいわけではない。問題という個々の「点」を「線」で結び、知識を体系的に整理してほしいのだ。しかし、これは正直独学では少々難しい。問題に関して知り尽くしている教師や塾・予備校の講師の授業を受けるのが一番良いのだが、ここまでしっかりと教えてくれる人はなかなか少ないのが現実である。特に地方では受けられたらラッキー位の確率でしかない。実際私も、質の高い授業を受けられたのは浪人して京都に出てきてからである。だからこそ、解説が丁寧な(式変形が丁寧などというレベルの話ではなく、問題を深堀りしてくれる)問題集を使ってほしいのだ。私が『ハイレベル数学の完全攻略』を強く勧めているのは、そういう意図があってのことだ。


計算を侮るな

計算力は問題を速く正確に解くために重要な要素だが、得てして生徒に舐められがちである。実際、計算ミスは軽く見られがちだ。しかし、計算ミスだろうがなんだろうがミスはミスである。難関大、特に京都大学や東北大学は僅かな計算ミスでも大幅に減点することで知られている。また、速く解くことが重要な共通テストで190点以上とれない生徒は計算スピードが遅いというのが、私自身の受験と、少ないながらも高校生に数学を教えてきた経験からくる自論である。

計算力は、急激に上げることができるものではない。普段から面倒な計算をサボらずにやり続ける事が重要なわけだが、それだけでは足りない。どのような計算でミスが多いかを分析しなければ、なかなかミスは減っていかないのだ。例えば私は分数が絡んだ計算でミスが多かったので、分数を見かけたら特別警戒していた。計算力の上昇が目に見えて分かるようになったのはそういったことをやり始めてからである。




最後に

数学は、他教科と比べて1問あたりの配点が大きい。だから、皆が解ける問題を落としてしまうと大きく遅れをとってしまうし、逆に皆が解けない問題を拾えれば大きなアドバンテージを得ることができる。だからこそ、私は皆に数学を得意になってほしいと思っている。

数学を得意になるためのあれこれは今まで散々書いてきたが、一番手っ取り早いのは数学を好きになることだと思う。数学の魅力は人類が発見した「数」という、一見すると平易な概念に恐るべき広大かつ深淵な性質が込められ、またそれらが自然や社会活動のあらゆる事象に多大な影響を与えているところである。加えて、数学を学ぶ際に必要な論理性と厳密性は、世の中のあらゆる事柄を正確に捉える「真実を見る目」を養うのに役立つ。数学は社会を生き抜くうえで役に立たないとの指摘もあるが、私はそうは思わない。なぜなら数学で得た知識や思考力は、以降の様々な学びの場で土台となっているからだ。

受験生は非常に忙しい時期であることは承知の上である。しかしだからこそ、学ぶことを楽しむ気持ちを忘れずにいてほしいと、私は思っている。
頑張ってください。


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