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【成果に繋がる実践UXリサーチ入門】なぜUXデザインにおいてリサーチが欠かせないのか

この記事はCreatorZineからの転載です。
https://creatorzine.jp/article/detail/1159

 UXデザインにおける大切なフェーズであることは理解しているけれど、どのように進めればいいかわからない。「定量リサーチ」、「定性リサーチ」という言葉は聞いたことがあるけれど実践できていない。本連載ではそんな方に向け、現場で使える具体的なリサーチの手法や業務への取り入れ方をお伝えしていきます。初回となる今回のテーマは「そもそもリサーチとはなにか」です。

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 こんにちは!UI/UXデザインカンパニー・アジケでUXデザイナーをしている佐藤李里(サトウリリ)です。この連載のテーマは、UXデザインの中でもとくにおざなりになりがちな「リサーチ」についてです。

 「リサーチってやらなければいけない気はするけど難しそうだし、お金と時間もかかりそう」という印象を持っている方もいるかと思いますが、この連載では、限られた工数でできる実践的な方法を紹介していきます。「やらない理由あれこれ」を抹消し、連載が終わる頃には皆さんが「まずは始めてみよう!」と思える状態になっていただけたらうれしいです。

大切なのは、自分とユーザーは違うという前提でユーザーを知ろうとすること


 そもそもUXデザインにおけるリサーチとはいったいどんなものなのでしょうか。

 『ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」―5つの段階で考えるユーザー中心デザイン』の著者、Jesse James Garrett氏は同書のなかで以下のように述べています。

user-centered design means understanding what your users need, how they think, and how they behave—and incorporating that understanding into every aspect of your process.

(訳)ユーザー中心デザインは、ユーザーのニーズ、考え、そして行動を理解すること。そしてその理解をプロセスの全ての側面に組み込むことだ。

※UXデザインやuser-centered designの違いについては諸説ありますが、ここでは本題からそれるため、同様の意味で使っています。

 また、UXの世界的権威であるニールセンノーマングループでも、「UX Without User Research Is Not UX」、つまりユーザーリサーチなきUXはUXではないという記事も書かれています。

 UXデザインというと、とかくペルソナやカスタマージャーニーマップなどに注目が集まりがちなようにも思いますが、まずはユーザーのことをよく理解することが必要であり、その方法がユーザーリサーチだと考えています。

 とはいえ、実際のデザインの現場では「時間がないのでリサーチはできないけれど、ユーザーの立場で考えて作っています」という状況になることも意外と多いかもしれません。ですが、リサーチせずにサービスを作ることは、以下のような状態に近いのではないでしょうか。

・「音楽が好き」という友人に自分の大好きなメタルバンドを教えてあげたら、「それはあまり興味がない」と言われた。
・友人の悩みを打ち明けられたので解決方法をアドバイスしたものの、反応がイマイチだった。
 これらに共通するのは、「相手のためを思って行動したものの、自分の価値観と相手の価値観が違ったので、相手には響かなかった」ということです。

 リサーチなしにユーザーのことを思って作るというのは、“自分の”想像上のユーザーに対して、その人に価値があると“自分が”思うものを提供することと同じ。それが本当に相手のためになっているとは限らないのです。そのギャップを解決せずにそのまま開発を進めリリース後に玉砕してしまったら、それまでデザインや開発に費やした多くの時間を無駄にしてしまいますよね。

 一方、まずは友人にどんな音楽が好きなのかを聞き、そのジャンルに精通するまで調査したうえでオススメを教えることができていたら。また、友人は悩みを解決してほしくて相談したわけではなく、ほかのことを期待していた、ということが想像できていたら――。より相手に刺さる価値を提供できていたのではないでしょうか。


 

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 人間同士は、思っている以上に理解しあえていないものです。とくに、サービスを作る側と使う側の理屈は大きく違うように感じる場面は多々あります。たとえ自分がそのサービスのユーザーだったとしても、自分はあくまで「ITを仕事にしており、ある程度のリテラシーを持ち合わせる人」や「そのサービスの機能を考える人」であって、一般ユーザーとは異なります。まずは自分とユーザーは違うという前提に立つこと。そして、ユーザーをよく知ろうとすること。これこそが、ユーザーにしっかり使ってもらうプロダクトを作るための第一歩なのです。

 リサーチは、早い段階でリスクを減らすためのものでもあります。時間がない場合には、リサーチではない別の部分を削りましょう。ユーザーは自分に“役に立つ”サービスを利用するのであって、おしゃれでも自分に“役に立たない”サービスには見向きもしないのですから。

ユーザーリサーチとマーケティングリサーチの違い


 リサーチといえばマーケターが行うマーケティングリサーチをイメージする方もいるかと思いますが、ユーザーリサーチとはいったい何が違うのでしょうか。

 マーケティングリサーチでは、おもに年齢や性別、年収、予算など属性ベースのデータを取得します。一方、ユーザーリサーチがフォーカスすべきなのは、ユーザーの背景や困りごと、それを解決するために検討している手段など、より詳細なユーザーの行動や課題に焦点をあてたデータになります。ここが、大きな違いと言えるでしょう。

 では、具体的にユーザーの行動や課題などを知るためにはどうすればいいのかというと、ユーザーリサーチには多くの手法が存在するので、状況に応じて必要な情報を得られるよう手法を理解し、それらを使いわけることが必要です。

 そのために知っておくべきなのが、ユーザーリサーチの分類です。一般的な軸として挙げられる3つをここでは紹介します。

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1. 質的調査(定性調査)と量的調査(定量調査)
調査によって取得できるデータの違いによってリサーチ手法を区別する方法です。量的調査は「何人がこのボタンをクリックした」というような「数字」で表せるデータを導き出します。一方、質的調査で生成できるデータは「言葉」です。量的調査はユーザー全体の傾向を知りたいときに使い、質的調査はなぜそのような行動をとったのか、など、細かいニュアンスや価値観を深く知りたいときに使います。

2. 意識調査と行動調査
調査する対象が、ユーザーにとっての意識なのか、それとも行動なのかによって区別する方法です。人間は言葉と行動が往々にして異なる生き物です。その事実を認識し、どちらが知りたいのかを意識して調査方法を選びましょう。

3. 生成的調査と評価的調査
アイディアを検討するための調査なのか、検討したプロダクトを評価するための調査なのか、によって分類する方法です。生成的調査はプロジェクトの初期にどのようなプロダクトを作るのかを検討するための材料に活用されます。一方評価的調査は、ある程度形にしたプロダクトが実際にユーザーにどう響くかを評価するために使われます。

 どんなシーンでどんな手法を使えば良いのか迷ったときには、上記の分類方法を軸に知りたい情報を検討し、適切な手法を見つけてみてください。

 そうは言っても、「いきなり適切な手法を見つけて実践していくのはなかなか難しい」。そう感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。次回以降は、プロダクトのフェーズに応じて、限られたリソースでできるリサーチの方法をご紹介していきたいと思います。お楽しみに!


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