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あの味をきっと忘れない【夏の思い出】

我が家の庭は、小さい頃から父の大切な畑だった。

父は毎日汗水流して、小さな庭にいろんな作物を育てた。きゅうり、トマト、なす、かぼちゃ、ねぎ、スイカ、とうもろこし。いちご。などなど。

夏になると、とうもろこしが十数本ほど立ち並ぶ。

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私はとうもろこしが大好きだった。私より高く伸びた背、ふさふさの毛が風に揺れるのを見るとわくわくした。夏がくるぞー、っていってるような。

ぷっくりと黄色い実をつけだすともぎ取り、その日のうちに母が茹でる。まさに採れたて新鮮。

台所にはクーラーがなく、扇風機のみ。
母は暑い暑いと汗をかきながら、大きな鍋に湯を沸かして茹でる。

台所いっぱいに、とうもろこしの匂いが満ちあふれる。 

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やけどするくらい熱々、つやつやと光るとうもろこし。ぷりっとした実にガブリとかじりつく。熱い汁がしたたり落ちて、滑らかな甘さを無心でむさぼりついてるうちに、1本ぺろりと食べてしまう。

スーパーで買うとうもろこしでは、こうはいかない。 

今ならこれがどれだけ贅沢なことかがよくわかる。 

当時は茶の間にエアコンがなかったが、窓を開けると山からの風が降りてきて、じんわり汗がひいていく。

いびつだけど愛情たっぷり、採れたての野菜たち。
野菜苦手だから、とか言わないでもっと食べればよかった。


あれから何十年も経った。
庭はもう雑草だらけ。
父母とともに、朽ち果てていく庭。

そんな父ももう70代だ。
さすがに畑仕事はしていない。
あのとうもろこしは、もう二度と食べられないのだ。

夏の食卓には、とうもろこし。
何年もしみついた習慣で、私はスーパーに行くとよくとうもろこしを買う。

今は塩を振ってラップを巻いてレンジで加熱するだけで、おいしいとうもろこしが食べられる。でも、あの味とはどこか違う気がする。

とうもろこしといえば、「となりのトトロ」でメイちゃんが「とうもころし」といっていた。ぎゅっと抱えて走るメイちゃんに何度もキュンとした。そのとうもころしは、自分のためではない。病気のお母さんを元気にするために。

父も畑は趣味だったが、私たちが食べている姿を見て喜んでいたのかもしれない。自分が作ったもので誰がが笑顔になる。幸せな気分になる。それはきっと、父にとっても満ち足りた幸せな時間。

まだリフォームする前の古くさいキッチンに充満した、湯気ととうもろこしの匂い。

みんなでわあわあ言い合いながらのご飯の支度。

テーブルに並ぶのは父の作品たち。
あの時そこには確かに、幸せがあった。

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夏の想い出、2つめ投入〜٩( 'ω' )و 


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