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【戦術白書】3戦目の大一番。デジャヴとツケ。

下位相手から上位対決へのギャップはあった。
それでも勝たなければならなかった。

降格圏のチームに連勝するのは弾みをつけることに繋がったはずだ。

対マジョルカは左サイドの連携確認と得点感覚復活に、対レガネスは組織守備の打開策発見に一役買ったはずだった。

それらがほぼ全く活かせなくなるとは思っていなかった。
確かにロペテギの修正力は流石としか言いようがない。一方で、セティエンのそれは発揮されることなく試合が終わった。

さらに、やはりこのレベルでのインテンシティに直面すると、バルセロナの致命的欠陥が火を噴くことも重々分かった。

①開始5分の動きが続けられれば

前半、セビージャは守備を4-4-2で構えてきた。後述するが、対中盤は相当タイトに、かつ徹底的に連動して選手間距離を一定に保とうとしていた。

開始2分の初っ端、左ハーフレーンにいたラキティッチから右大外のセメドへ大きく展開し、守備の裏を突いて縦へ侵入する。
左で保持している時間を比較的長くとり、ボールウォッチャーを増やした上で逆へ振った。
セメドを動かしたことでレギロンがチェックへ向かわざるを得ない。
セビージャの選手間距離は異常に広がった。
この隙をスアレスは見逃さない。セメドからパスをもらえるバイタルエリアまで一気に侵入し、そのままシュートへ持っていった。

さらに開始5分、やはりセメドが縦へ。
アルバの裏抜けを許してはならないという時点で、左サイドのピン留めは実質完了している。右からしつこく縦を狙うことで4バック両翼を走らせ、必然的に開く中央をアクセントとして狙う。レガネス戦とは異なり、早くからメッシは中央に位置取って組み立てに参加した。

開始から全力で動き出し、相手をハイペースな攻防に付き合わせる。入り方は文句なし。

前半8分、セビージャは受けに回りながらも、不意にポジトラを狙えるタイミングを一つ発見する。
バルセロナが中央でアクセントをつけようと中盤へボールを放り込んだ瞬間、背後から飛び込んできたクンデがインターセプトし、カウンターへ持ち込んだ。

これにより、中盤からのインターセプト→カウンターというオプションが、前半から試合を通して続けたプラン「逆サイドへ斜めに振るサイドチェンジで偏ったスペースを一気に刺す」に不意打ちの形で加わった。

それでもバルセロナが攻め続けられていたのは、相手の守備面から考えると①インターセプトの不確実さ②2列間の動き方が裏目に出た、の両方が相まってバイタルへ配球できたこと、メッシから繋がるパスコースが多分にあったことが大きい。

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特に②について、サイドはハッキリと動けていなかったが、バルセロナが中央で保持しているシーンでセビージャの中央4人が縦関係のツーマンセルとなり、上下を繰り返して刺しにくるシーンが一瞬あった。
このとき、各ラインの守備が一枚少なくなるため、スライドは必須になる。

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選手間距離を保ちたいセビージャはスライドが中途半端になる。序盤のバルセロナはハイペースでボールを交換することで侵入を狙っており、セビージャの2列目が飛び出した瞬間バイタルへボールを運ぶことでタイミングを外せていた。
上の例ではクンデの裏にスペースができ、パサーと裏抜け要因が揃っていればラインを超えることが大凡できていた。さらにインターセプトが目の前にぶら下がってインセンティブとなり、中央は二律背反に苦しめられて逆説的に出づらい状態にあった。

バルサが攻めきれなかったのは、決定的な瞬間に人口密度を上げに来るセビージャ守備陣と、奪ったボールを再度奪還されないよう処理するセビージャの対応に依る。
可能な限り逆サイドへ弾き飛ばすクリア、それを取られれば前からハメに向かい、ストーミング気味に相手ゴールへ迫る勢いを見せる。

バルセロナはこれに付き合う前に、攻撃時3バックへ変形するセビージャの裏を狙いたかった。35分、ノーファウルで処理されたとはいえ、奪還後に縦へ走ったラキティッチの動きを足の速い選手が肩代わりし、周りが連動していれば、先制の機会はあっただろう。

カウンターが散発的になっていたセビージャ。
息の根は前半で止めるべきだった。

②守備を修正したロペテギ。

後半、セビージャは守備時のフォーメーションを5-4-1に修正し、バネガを投入してきた。

5バックになったことでバルセロナ両サイドが縦へ侵入する状況を防ぎ、同時に組み立てによる守備崩壊のリスクを低減。
攻撃へ移る前段階として「どうやって防ぎ、その後どこへどうやって繋げるか」を明確化し、選手の向かう意識を「逆サイドを狙うカウンター」へ全振りした。セビージャ側の思考は後半開始前には整理されていたと言える。

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散発的になっていたカウンターも、ポジトラへ移行した瞬間2列目の4人が一気に縦へ動き出し、レーンで厚みが出るように工夫が見られたことで改善された。左からの攻撃で後手を踏んだバルセロナは裏を取られ続ける。
これはプレスにも転化され、ネガトラ移行時に2列目の4人がタイミングをずらしながらボールへ次々アプローチを開始し、ホルダーを早々に囲って組立てのペースを乱してきた。

さらにバネガが入ったことで中盤での攻守連携が強化される。密集地帯をショートパスで抜け出す攻撃の選択肢が増え、守備ではジョルダンと連動してカットを狙う。
複合的に、バルセロナの組織守備の穴をガンガン突いてくる。

こうなるとバルセロナは難しい。
保持して5バックを組織的に崩す展開も、非保持で前を向かれてハイペースに巻き込まれる展開も正面から相手をしたくはない。一方的に消耗するからだ。
ボールを保持しながら省エネでも隙間を探しつつ、5-4-1最大の弱点である体力消耗を狙うか、レガネス戦のようにサイドから縦突破を狙うか・・・少なくとも、壁の耐久力にガチンコで挑んだ挙句どん詰まりする展開だけは避けたかった。

が、バルセロナの集中力は54分時点
既に切れていたと言っていい。

③「55分のデジャヴ」、そして何かが付いてくる。

おなじみのあのシーンがやってきた。

大一番、アンフィールド以来、クイックリスタートでやられるのはこれで3回目。
テア・シュテーゲンでなければオカンポスの一撃で沈んでいただろう。
さらにそのまま相手がレアル同等のインテンシティを発揮していたら、確実に最悪の事態が待っていた。

奇しくもクラシコが55分、今回の不意打ちが54分20秒。
暫定2位と3位に同じ穴を突かれている。
後半開始15分の集中力が散漫などという状態は、再三言うように絶対晒してはならなかった。

さらに今回、セティエンの交代カードの切り方で、バルセロナの弱点が一つ多く露呈された。

5枠使える交代枠を3枠しか使い切らないまま試合を終えたの背景に、大きく二つの理由があると思われる。

一つは単純な監督の采配能力。
3枠のうち2枠は81分からの交代で、リキ・プッチ投入に関してはどう考えてもタイミングを逸していた。
さらに言えば、レガネス戦で得た対5バック打開策(アンス・ファティの縦突破)を今回試さない手はなかったはずだ。
それを打つべきタイミングで、試せる段階で打たなかった。

もう一つは、選手の能力把握の機会不足。
今回、確かにセルジ・ロベルトとデヨングが居なかったのは痛かった。
サイドでの攻撃・守備の厚みと中央での支配力には少なからず影響があっただろう。
ただ、開幕前の2戦が格下であり、かつ下部組織から多く帯同させていたにもかかわらず、その場をトライアルとして有効利用しなかった。
もっと遡れば、今日までこなしてきた数ある試合で、彼らの真価を確かめてこなかった。その事実が、総力戦の様相を呈した状況下で「有望株はいるのに選手層は少ない」状態を突きつける。
トップレベルの試合における能力値が曖昧な選手を、高位相手の実戦で試すほどリスキーなこともない。
広く見ればセティエンだけの責任ではなく、昨今のバルサ全体としての弱点でもある。軽視してきたツケが回ってきた。

いくら「使える」と言われていても、
実戦で試していなければ何の意味もない。

後半に入って5-4-1に守備を修正したセビージャは、10分から15分おきに選手を交代して機能していない部分にテコを入れつつ、持久力が前提となる戦型を最後まで維持してきた。

粘られる試合に付き合わされたバルセロナは、縦への突破機会と推進力が前半と比べ格段に落ち、その間テコ入れもできず、疲労感が明らかな選手をなかなか交代させられない。結局最後まで出場していたスアレスは完全にガス欠であった。
前線守備が機能しない、前線での動きにキレがなくなった時点でピッチに居る意味はない。早い段階で交代してもよかったと思う。

また、「選手交代=監督のメッセージを伝達する機会」だと個人的には認識している。そういうことを含めて「修正力」だと思う。

散々試した連携以外の打開策をピッチに委ねれば、個の力か場当たり的な攻撃しか策はない。

結果、アルトゥールが右サイドからクロスを狙い続けたり、グリースマンが入っても左から仕掛けられる場面で戻したり、メッシはダイアゴナルに走り去っていったり・・・

ハッキリ言ってカオスである。

こんな状態で8月のCLにぶつかれば、悲惨なことになるのは火を見るより明らかだろう。
それどころか、次は今季の頭を叩かれたビルバオ戦、さらにセルタ戦を越えれば、今日の守備強度を凌ぐ堅守アトレティコ戦。

今回は試合の入り方、さらに前半はまだ良かったはずだ。
あの勢いを維持しながら早々に息を止める手筈を、早急に整えてほしい。


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