売れない作品はすべてゴミクズなのか
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売れない作品はすべてゴミクズなのか

浜口倫太郎 作家

売れなかった作品やアクセス数が低かった作品というのは本当にすべてつまらないものなんでしょうか?

そんな疑問を持つエピソードが一つあります。

それは水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』です。もちろんゲゲゲの鬼太郎はご存じですよね。妖怪漫画の金字塔です。この作品がなければ妖怪というもの自体が、ここまでメジャーな存在にはなっていなかったと言われています。

でもゲゲゲの鬼太郎が最初はあまりの不人気すぎて、そのままいけば売れない漫画として消える運命にあったことはご存じですか?

水木さんは当初は貸本漫画家と呼ばれる漫画家でした。昔とは違って当時の子供はお金がありません。そこで貸本屋で漫画を借りて読んでいたんです。今だとレンタルショップもそうですよね。

その貸本向けの書き下ろし漫画を描く漫画家を、『貸本漫画家』と呼んでいました。水木さんはこのカテゴリーの作家でした。

ぶっちゃけ貸本漫画家はメジャーな存在ではありません。貸本漫画は出版物というよりも、おもちゃとか駄菓子みたいな扱いだったんです。

メジャー漫画家は手塚治虫や藤子不二雄、石ノ森章太郎のような少年漫画誌で活躍する漫画家で、水木さんのような貸本漫画家はマイナー漫画家という扱いを受けていました。

ところがある人のアイデアからこの流れが変わります。少年マガジン編集長・牧野武朗さんです。

牧野さんは漫画に原作・作画の分離方式を導入して、『エイトマン』『巨人の星』をヒットさせた名物編集長です。

そんな牧野さんは、少年マガジンに貸本漫画家を使って斬新な漫画を作ろうと考えました。ライバルである少年サンデーに、トキワ荘系のメジャー漫画家を押さえられていたという事情もあったんでしょうね。そこで抜擢されたのが水木しげるです。

水木さんを起用するかしないかで編集部はもめにもめたそうです。というのも水木さんの作風というのは、少年漫画とは真逆の怪奇色の強いものだからです。

けれど牧野さんは周囲の反対を押しきり、水木しげるを起用しました。そして『墓場の鬼太郎』が掲載されます。最初はゲゲゲの鬼太郎ではなく、墓場の鬼太郎というタイトルだったんですね。

しかしこれがまったく人気が出ない。不人気すぎて編集部内では貸本漫画家の登用自体がよくないんじゃないかという疑問が噴出したほどです。

やはり少年漫画誌は、手塚治虫の流れを組む明快でわかりやすいストーリーマンガではないとダメだ。そんな意見で占められました。

誰かが挑戦に失敗すると、「ほれ見たことか。そんなのできるわけないって反対しただろ」とやいのやいのいう人っていつの時代にもいるもんですよね。

ところがそんな意見を封じ込める現象が起きます。

そのきっかけは歌です。講談社の関連会社だったキングレコードから、「少年マガジンの主題歌集ができませんか」という提案があったんです。

雑誌に掲載されている漫画で主題歌集を作るって面白いアイデアですよね。その流れの中で、墓場の鬼太郎の主題歌も作られました。

その歌詞がこうです。「ゲッ、ゲッ、ゲゲゲのゲ……、朝は寝床でグーグーグー」というなんともふざけた歌ですが、若い世代以外は聞いたことありますよね。僕らが知っているゲゲゲの鬼太郎の歌です。

この歌がラジオの深夜放送で流れると大評判になりました。その人気ぶりに編集部は目を白黒させました。慌てて墓場の鬼太郎のタイトルを、『ゲゲゲの鬼太郎』に替えたんです。

そこから人気が急浮上。ゲゲゲの鬼太郎はアニメ化されて、戦後を代表する人気漫画となりました。

もしあの歌がなかったらと思うとぞっとしませんか。ゲゲゲの鬼太郎は消えていたかも知れないんです。その後の妖怪が登場するアニメや漫画もないかもしれません。

歌が作られていないときも、ゲゲゲの鬼太郎の魅力に変化はありません。でもそれは、最初の読者には受けいれられなかった。

それが歌のおかげで新規読者が流入し、その面白さが発見された。さらにタイトル変更のおかげもあって大ヒットに繋がりました。

売れない作品はすべて面白くないという意見の持ち主がいたら、このゲゲゲの鬼太郎のことをどう説明するんでしょうか?

不人気の作品が総じて面白くないわけではない。それはゲゲゲの鬼太郎が証明しています。

だから売れない、アクセス数がないからといって必要以上に落胆したり、「この作品はゴミクズだ」と作者が作品自体を全否定することはないんです。

ただその一方で、ちゃんと刺さる人に向かって作品を届けることが極めて大切だというのもわかります。

さあ作品が完成した。これは面白い。だから放っておいても勝手に売れるだろうということにはならない。特にコンテンツが洪水のようにあふれている現代はなおさらそうです。ゲゲゲの鬼太郎の歌ではないですが、何かしらの作品を広めるための工夫がいるんでしょうね。

ただいくら頭をひねっても、歌からヒットとは誰も考えなかったでしょう。もうこれは水木さんが持っていた運としか考えられない。歴史的な作品になるかどうかは、運があるかないかなんですよね。

その運を、ゲゲゲの鬼太郎は掴んだんだなと。芸人さんでも売れている人ほど売れる秘訣は運しかないと言いますが、本当にその通りだと思います。


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鮫だったら自分でかまぼこになって食べてもらいたいほど感謝!
浜口倫太郎 作家
作家、元放送作家、著書『ワラグル』『ゲーム部はじめました』『お父さんはユーチューバー』『AI崩壊』『22年目の告白』『廃校先生』他多数。作家志望の方向けにアイデア、ストーリーの作り方、自己啓発、歴史、本、漫画、映画、アニメ、ゲームなどについて話します。猫、ラーメンが好きです。