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【ショートエッセイ】一夏のフレア〜儚く小さな生命の輝き〜

あの時、ぼくと息子たちは幻想的な世界に包まれていた・・・。


20年近く前のこと。
息子たちはまだ小学生だった。

我が家の近くにビオトープがある。
山の中に人が立ち入らないようにして、自然を自然のままにしているエリアがある。

夏の夜に小学生たちが保護者といっしょに、1日だけ立ち入ることが許されるイベントがあった。
そのイベントの目的はただ一つ・・・。

小学校に集合してそこへは歩いて行く。
ゲートを抜けると、真っ暗で懐中電灯がなければとても足元が危なくて歩けない。

ぼくたちはナビゲーターに連れられて、どんどん山の中へと入って行った。
子供たちはとょっとした冒険気分。

ナビゲーターの人が小声で皆に何かを訴え始めた。
その声がよく聞こえない。
しかし皆が同じ方向を見ていた。
ぼくらも同じ方向に視線を向けた。

ホタルだ。

夜の闇に微かな光を灯しながら、三つの小さな光がゆらゆらと闇に漂っていた。

なんと幻想的なのだろうか。
ぼくたちは時間を忘れて、その光景を眺めていた。

豆球にも満たない小さな光。
弱々しい光だ。
でもそれは生命の輝きだ。

ふわふわと風に舞う綿毛のように、時に点滅させながら、光と光が交わっては遠ざかる。

その命は一夏だけで絶える。
しかし健気にも懸命に輝こうとする。
だから美しい。
だからパワーを感じる。

小さな光、でもそれはフレアのように力強い。

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