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【ショートエッセイ】一度経験してしまえば、なんてことないさ

子供の頃、雷が怖くて仕方がなかった。
ただでさえ怖いのに、"雷が鳴ったらおへそを取られる"って変な迷信を吹き込まれ、小さかったぼくには、世紀末がやってきたくらいの恐怖だった。

別に家の中にいれば何をされる訳でもないのに、何がそんなに怖かったのかと聞かれると・・・。
何だったのだろう?

夕立を思い浮かべてみると、外はそれまで太陽が照っていて明るかったのに、急に黒い雲に辺りが覆われ、一転して暗くなってしまう。
この段階で子供の心に恐怖が影をまとう。

遠くでゴロゴロと得体の知れない音が鳴り出す。
それもドラえもんの歌のような楽しい音色とは程遠い。
それが段々と音量を上げながら近づいてくるから、さらに恐怖心を煽る。
「ジョーズ」という映画で、サメが人を襲う時に登場するあの嫌な音響のように。

外はほとんど真っ暗なり、得体の知れない不気味な閃光が一瞬世界を照らしたかと思うと、日常生活ではあり得ない爆音が轟き渡る。

そう、雷が子供に恐怖を与える要因は、邪悪で巨大な得体の知れないものが襲ってきたような感覚に捉われることなんだろう。
それもじわじわと近づいてくるからタチが悪い。
小さかったぼくは"こっちに来ないで"って願ったものだ。

しかしちょっとしたきっかけで克服できた。
雷が鳴り響く中で、何食わぬ顔で遊んでいる年下の子供を見たからだ。
その子を見て、"これじゃダメだ"と思ったらもう怖くなくなっていた。

虚勢を張ろうとしたことは否めない。
それより大きかったことは、その子が"雷なんてたいしたもんじゃない"と自己暗示にかけてくれたことだ。
(落雷の危険性があるので、この表現はあまり適切ではないが)

人は得体のわからない未知のイベントに遭遇したとき、色んな意味の恐怖がつきまとう。
自己防衛本能ってやつだろう。
しかし多少の時間がかかったとしても、一回克服してしまえば、"何てことない"ことになる。

こうやって一つ一つ人は人生経験を積んでいくのだろう。
ぼくの人生経験の始まりは雷だったってことかあ。



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