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「彼女」と私

性自認とか色々すっ飛ばして好きになったの、許されたかった

幼い私の生きがいは、ずっと、恋愛だった。誰かと恋をすることが、人生の彩りだった。
これは、人生で一番激情に駆られた恋の話だ。

 中学生の頃、好きな女の子がいた。彼女は親友で、とても告白なんてできなかったけれど、間違いなく恋焦がれていた。恋と呼ぶには高尚すぎる気持ちだった。でも、あの胸の高鳴りは恋でしか説明できないものだった。彼女は、私にないものを全て持っていた。綺麗な黒髪、大人っぽい顔立ち、高い背丈、優しい性格。そして、聡明な人だった。大好きだった。彼女のことが好きで、どうしていいかが分からなくって、私は何もかもを間違えた。
 恋心を自覚してすぐ、普通の接し方が分からなくなって彼女に冷たくするようになった。周囲にも「どうしたの?」とか「喧嘩?」とか聞かれたけれど、私は何も言えなかった。彼女も、仲の良かった友達が突然豹変したことでひどく戸惑っていた。今までも恋をしてきたくせに、相手が同性というだけで何もわからなくなるくらい、未熟な少女だったのだ。読んでいた百合漫画が見つかった時、「女の子が好きだなんて言わないでね。」と母に泣きながら怒られたことも私に大きな影響を与えていたと思う。いけないことをしているような気になって、とにかく私の頭はぐちゃぐちゃだった。
 私の彼女への気持ちは、最悪な形で終わりを迎えることになってしまった。縁を、切られてしまったのだ。原因は九割九分私にある。日に日に彼女への冷たさ、扱いのひどさが増していった。好きな子をいじめたい、みたいな単純な心理ではなくて、彼女を嫌いになりたい、という自分勝手な気持ちだけで、大好きだった彼女の心に深く傷をつけてしまった。多分、防衛本能のせいでほとんど覚えていないのだが、手を引っかいたり、「冷たくするのがマイブームなんだよね。」と本人に伝えたりしていた。本当に、絶縁されて当然のことばかりしていたと思う。
「ユマは、私のことが嫌いなの?」
そんなメッセージを見てやっと、取り返しのつかないことをしていたと我に返った。
「嫌いじゃないよ」「嫉妬していただけ」なんて言い訳がましく返したけど、「嫉妬だとしても私は傷ついたよ」とその言葉を最後に、彼女は私の目の前から消えた。廊下ですれ違っても目すらあわなくなって、私はその日から、ずっと希死念慮に取りつかれるようになった。毎日、誰かに死にたいと言った。毎晩、彼女と仲直りする夢を見て、目が覚めては絶望していた。三年以上、ずっと彼女の夢を見ていた。それほど後悔していたし、それほど好きだったのだと思う。

 実は、この身勝手な恋には後日談がある。三年以上たったある日、彼女の担任の先生に用事があって、彼女の教室に行った。そこで、彼女が声をかけてくれて、仲直りすることができた。あんなにひどいことをしていた私を許してくれるなんて、自分にはない優しさと寛大な心を持っていることを再確認した。そのあと一緒にカラオケも行ったし、今も連絡を取り合う中だ。今の私は、彼女に恋こそしていないものの、人間的に大好きであることに変わりはない。大人になっても、変わらず彼女と関わっていたいと願うばかりだ。彼女との出会い、別れ、そして再会がなかったら、今の私はいないのだ。

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