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ポンチャックと仲良く。

暑さがしんどい季節になりました。クーラーは最高ですが、冷気は生命力も削いでしまうようで適度に熱がほしくなります。そんな我が儘な肉体にうってつけなのがポンチャック。聴くだけで疲労回復を促してくれるナイスな音楽について、ひとつ書いてみたいと思います。
ポンチャックを簡単に説明するなら、チープな電子音が特徴的なノンストップテクノ演歌といったところでしょうか。韓国が発祥の地とされ、代表的なアーティスト李博士(イ・パクサ)は、90年代に日本でも、そこそこ話題になりました。かくいうわたしも当時、電気グルーヴ絡みで、その名を知ったひとりです。
ちゃんと聴いたのは比較的最近で、きっかけは韓国映画でした。陽気な音楽をかけながら踊る人々がいるシーンを見る度「ありゃ何だ?」と思っていました。ポン・ジュノ監督作品「母なる証明」の凄まじいラストシーンを観たとき「ポンチャックだ!」と閃きました。ポンチャックはバスの中で中高年が踊るための音楽、そんな情報が頭の片隅にあったのでしょう。
その他、ハイキングにいくとき、ポンチャックマシーンなる装置を持って出かける方が多いそうです。そう、トップ画像のやつです。つい買ってしまいました。はじめましての曲が6533も詰まった夢のマシーン。音質は劣悪だし、変なところで曲が切れるし、まったくもってラブリーな子です。

李博士については、こちらの動画をご覧いただくのがよろしいかと存じます。数分後には「ジョワジョワ」と無意識に物真似してしまうこと請け合いです。ポンチャックの真髄は、彼の合いの手に宿っているといっても過言ではない!

昭和歌謡やJ-popのカバーをやっております。中には原曲のムードとかけ離れたアレンジも混ざっており、脱力、そして爆笑、真面目に生きすぎている我が身を顧みる絶好の機会を与えてくれます。
と、一見ふざけているように感じられますが、楽曲へのリスペクトが伝わってくるので、襟を正して頑張る気持ちにもなれます。

その他、わたしの持っている李博士の音源をご紹介します。

3作目、多分。

シンプルなオケとハイテンションな歌声。ジャケットの裏には1989年と記載がありますが、そのころから李博士の世界は完成していた模様です。14曲とクレジットがあるのに、何度聴いても曲の切れ目がわかりません。ライヴ録音と推測されますが、どこかこじんまりとしており、異様な熱気がサウナのごとく攻めてくるアルバムです。

お次はこちら。

何があった……

革命がありました。ポンチャック特有のいなたさはなく、もはや普通のカバー集。それでも、篠原ともえ「ウルトラリラックス」や、原曲に近いアレンジで電気グルーヴ「N.O.」が収録されています。ひところは三食ラーメン生活を送っていたほどの苦労人だけあって、義理堅いです。日本での2枚目となるアルバム「李博士のポンチャックで身長が5cm伸びた!」に収録されている「GABBA打令」も、ちゃっかり入っています。歪んだ李博士の声は、モデムがインターネット接続時に発していた嬌声より猥雑。発売は2001年、李博士がゼロ年代サイバーアジア代表となるためには、必要不可欠な再録だったのかもしれません。

他のアーティストも、ついでに、

花火?

こちらは某中古盤屋にて購入。サイケなインストポンチャック。あるいはカラオケ。謎多き作品です。ワンフレーズごとに音色を変えるシンセがカッコいい。ギラついた電子音は、さながら怪しいネオン街のごとく聴くものを誘いかけます。

それから、

懐かしい装いのギャルが眩しい。

正統派ポンチャックのコンピ。歌声の熱さは素晴らしいですが、クセがないので、ちょっと物足りないというのが正直な印象です。でも、いつか、これくらいが丁度いいと感じられる日がきたら、ポンチャックが馴染んできたことの証拠かもしれません。多くの音楽がそうであるように、ポンチャックも人々の生活から生まれたジャンル。ただ聴くだけでは辿り着けない領域が存在します。

そんなポンチャックの深みについて、示唆に富んだアプローチを見せてくれたのが、最近話題の250(イオゴン)です。

ナイス正装。

このアルバムは衝撃でした。本国からポンチャックの最新版が現れるとは、嬉しい悲鳴が出ました。ウゥルリッヒィー。日本盤CDは数多くの名作を手掛けてきた小鐡徹氏がマスタリングを担当しています。フィジカルは仕様を変えてくれるなんて心憎い。じっくり聴きこむ甲斐があります。
このアルバムには、少し昔の、だけど今はほとんど残っていない風景に、そっと想いを馳せるような感覚があります。シンセで奏でるトンチキなメロディもありますが、しっとりとした色気に浸るのも粋な聴き方だと思います。

そうそう、

Cola-tekとは紳士淑女むけディスコのこと。

面白かったのが、こちらのミックステープ。seeseaなる人物がA面を、DJ yesyesなる人物がB面を担当しています。
A面はのっけから音の外れた「あ〜りらん」が流れ、ポンチャック度の高いアシッドなテクノが堪能できます。B面は90年代のアジアンクラブサウンドが走馬灯のごとく流れます(倍速P-MODELも!)
こちらのミックステープも昔懐かしい雰囲気をテーマにしているような感触があります。その中でフィーチャーされるポンチャックは、どのような文脈なのか、大変興味深いところ。青少年むけにつくられながらも、ヤングの足は遠のき、シルバー世代の憩いの場として再誕したというコーラテック。ポンチャックや隣接ジャンルであるトロット(むしろこっちが主流か)というと、古きよきキャバレーのイメージですが、コーラテックでかかるポンチャックは、また違うものなんでしょうか。このテープで聴けるような感じなら、頭が白くなるのを待たずして、わたしも仲間入りが果たせそうです。

最後にまた李博士に戻りましょう。

ドーナツ屋台。

このアルバムは生演奏をバックに、民謡っぽい曲を歌っています。ディープ・パープルに心打たれロック歌手に憧れながらも、手っ取り早く仕事にするため民謡を歌っていたと控えめに語る李博士。ポンチャックの直線的なリズムと違い、スッタタスッタタと小刻みに鳴るスネアの上では、情感のこもった節回しが冴え渡ります。哀愁漂うブラスといい、ほぼ演歌です。
こうした歌が愛されていた現場に誰かがシンセを持ち込み、物は試しとディスコビートでやってみたところ大ウケしたのがポンチャックなら、製品と消費者の間に起きるマジックに興奮をおぼえます。かつて、ビジネスパーソンむけのツールとして開発されたポケベルが、女子高生の必須アイテムになったように、思いもよらぬ結びつきが世界を楽しく変える。ポンチャックを聴くと元気が出るのは、そうした偶然をルーツに持っているからなのかもしれない。妄想は尽きません。

こんな調子で、あちこち表面を撫でつつ、わたしはポンチャックを愉しんでおります。いつか韓国の地を踏むことができたら、ポンチャック用に魔改造された機材を買いたいなと思っています。あるらしいんです、そういうのが。でも使えるのかな、日本で。


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