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エッセイ「感覚」 2.食べる

 「好きな食べ物は?」「何食べたい?」
これらの類の質問は、非常に苦手である。と言うとあまり理解されないかもしれないが、とにかく苦手なのだ。
 普段から特別「食」というものにあまり興味を持たない私。だから、急に質問されても困ってしまう、というわけだ。好きな食べ物が無いわけでもないし、食べたいものが無いわけでもない。ただ特別それを相手に伝えるほどのものではない気がしてしまう。なんだか、畏れ多いのだ。

 そしてもう一つ困ったことに、誰かの前で食べることやこれが好き、あれが食べたいといったように、食欲を見せることが非常に恥ずかしい。人間誰しもが持つ、欲望というものを胸の奥底にしまっておくのが一番心地よい。
 誰もそんなこと気にしていないのは百も承知。しかしこの恥ずかしさを紛らわせる方法を見つけることができないのだ。もう24年もこの世界で生きているというのに。もうそろそろしっかりと生きる術を身に着けたいものだ。

 と、こんなことを書いていると珍しく腹の虫が鳴っている。私の腹の虫は私と同様恥ずかしがり屋なのかほとんど鳴くことがない。羨ましがられることも多いが、本当にこれで良いのか?と腹の虫に問いたくなるときもある。
 しかしまあ、今は幸い部屋に一人しかいないものだから、堂々と鳴いている。いよいよ無視できなくなってきた。さあ、何を食べようか。


『エッセイ「感覚」1.触れる』はこちらから読めます🐥

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