見出し画像

続 ハラスメント 彼女が飛ぶ一歩前 涙が溢れて

会社を休んでから3日目だった。有給休暇を使ったから正確には2日しか休んでいない。
どんなにこの休みを正当化しようとしても、小学生風に言うとこれはズル休みだ。

私は幼い頃から真面目な性格だった。
小学生の頃は、先生の言うことをよく聞き、約束をきちんと守る子だった。母が「先生の言うことは聞くのに私の言うことは聞かないよのぉ」と近所のおばさんに話していたのを鮮明に覚えている。

先生の言うことを聞くのはいけないことなの?
だってお母さんはいつも「先生の言うことを良く聞きなさい」と言ってたじゃないの?
疑問だった。
母を愛し誰よりも信じていたからこそこれは謎だった。

もう一つ、幼い頃の私が抱いていた疑問がある。
近所や母の親しい大人は私のことをとても褒めてくれた。
でも母はいつも「そんなことないわよ、ちっともちゃんとしてなくて、まだまだ赤ちゃんで恥ずかしいわ」と私の頭を撫でながらその大人達に言った。

いつの頃からか私は、母が誰かと立ち話を始めると母の後ろに隠れ、ヒラヒラした母のスカートの裾をギュッと掴み俯くようになった。

すると母は立ち話の相手に対して「もぉこの子は挨拶も出来なくてホントごめんなさい」と言い私の頭を撫でた。
わたし挨拶くらい出来るもん! 
本当に出来るのに、、、と思い悲しくなった。

それと同時に、挨拶ができない末っ子赤ちゃんだけど誰からも可愛がられるような私が、母は好きなのだと思い自分を納得させていた。

あの時母は何故そんなことを言ったのだろうか。

承認欲求は、時に自分以外のものを通して求めることがある。自分の自己実現の為に子どもの教育に全力プレーする人などもそれだ。子どもにとっては迷惑な場合もある。

いくら血の繋がった親子でも,価値観は全く別物です。子どもは母親を見て学ぶ。お母さんはそのまた母親を見本にしているのだ。
時代背景も違うし、最も子どもは母親の鏡、

母親自身が自分を大切にしていなければ、鏡に映る姿(我が子)を否定してしまうでしょ。こんな筈じゃなかったと、、、。そして自分の人生の理想のレールに子どもを歩かせたがる。少しでもはみ出そうになるとハラハラしてイライラがつのる。

子どもの人生は子どもがが主役でなくてはならない。
母親は観客であればいい。
我が子は推しでいいのです。

母は、可愛いがられる私より、自分に注目して欲しかったのだろうか。

さて,ズル休み3日目(正確には有給使って2日)。もう一日休む為には更なる理由がなければならない。

最もらしい理由を・・・

言い訳を考えれば考えるほどまた鬱になる。
私をこんな気持ちにさせたのはあの上司なのに、
何故私が嘘をついてまで休まなくてはならないのか?
全ての原因は上司であり、わたしは誰よりも正しく生きている。

それなのに簡単に人を傷付ける方が会社から期待されて、わたしは休みが多い使えない人間だと思われてしまう。

あたり構わず大声で偉そうに人を見下す上司よりも、これまで10年間真面目に働いてきた私の方が大事にされるべきなのに。


腹の奥に押し込めていた切ない怒りが一息ことに膨らんで弾けそうになり吐き気がしてくる。


それを理由にして体調不良でもう一日休もうか?と考える。しかし今回は気持ちは軽くならなかった。

ふぅ しかたない行くしかないかな

そう腹を決めると、私にスイッチが入った。

支度して、駅まで無言で15分歩く。
いつもの電車に間に合った。いつもの車両に乗り、いつもの吊り革をキープした。
電車の中は寒いくらいクーラーが効いているが、私の背中にはまだ汗がツーっと絶え間なく流れて止まらない。

まもなく会社のある降車駅に降り立ち、いつもの時間に出勤した。

3日ぶりの出勤だから、色々な人に声をかけられ、その都度ひとことふたことズル休みの言い訳を返した。

やることは山積み、どれから手を付けるかその日の計画をまず立ててから取り掛かる。
テキパキとこなし、アシスタントに指示出しをし、夢中で働いた。3日分の最優先事項を完了し、午後からのスケジュールを調整していた時、

あのパワハラ上司に呼ばれた。

新規事業のことで私に頼みたいことがあると言われた。

私は心の奥にモヤモヤとした塊を感じた。

この人、まだ謝罪してない、、謝ってないじゃないの。なのにいけしゃあしゃあと私に指示するつもり?

全く反省すらしていないのがゆるせなかった。

仕事頼みたいなら、私にしたことを認めて今すぐ謝罪してよ!

しかし
叫びは言葉に出来ず、ゆっくりと飲み込んだ。

会社からは、本人には厳重注意しておきますと言われたが、だったら本人から謝ってくれてもいいじゃないか、なんでそんなに涼しい顔で何事も無かったように私に指示が出来るの?

私の心は一気に元の穴に突き落とされた。

まるで象の足枷だ。
長い間足枷を付けられていた象は、すでに足枷を外され自由になっても、いつまでもその場を離れられないのだ。

仕事が終わり駅前をぶらぶらしていると、
チリンチリンと、
どこからか聞こえてきた。
風鈴の音だ!
私はすぐに音の先を探した。
それは花屋の店先に1つだけ吊るされた青い綺麗な風鈴だった。
たった1つのこの小さな風鈴の音が、こんなにも私の心を惹きつけるなんて。

その細く淋しげな音に私の中の何かが共鳴して、涙が溢れて止まらなくなった。

私はまだ会社を辞められないでいる。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
ハラスメントはあってはならないことです。
今や企業のリスクマネジメントにおいて欠かすことの出来ないものとされています。
SNSコミュニケーションの現在は、レピュテーションリスクに備えることも必須となってきました。
まずは、当事者を作らない努力をすること。
そのためには、企業、経営者がまずハラスメントは許さないと言う姿勢をしっかりと公言してください。その上で、ハラスメント、メンタルヘルスの相談窓口を設けきちんと稼働させることです。さらにそれを従業者にわかりやすく告知すること。そしてハラスメントとは何かを教育することです。
これらを行うことで、経済的な損失も人材の損失も防ぐことができます。これが出来れば、従業者からの信頼を得、それは社会からの信頼に繋がります。今も昔も優れた経営者に共通するのは、「企業価値を上げる為には、まず人を大切にすること」です。

続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?