〆香水と会話
「誕生日おめでとう」
「ありがと」
コロナが流行る前の話。
*
ゲームをしに行っただけだった。
でも、そういう風なことになるのも分かっていた。
出会い系サイトで会った彼から久々に連絡がきた。
「誕生日おめでとう」
私と彼の誕生日は1日違いだった。
「そっちこそおめでとう」
香水の匂いを思い出した。
「ありがとう」
「元気にしてた?」
「うん」
「今日の夜家くる?ゲームしよう」
「別にいいけど」
「けど?笑」
「布団は別々がいい」
「なに、泊まる気?笑」
「恥ずかしいからやめて笑」
「泊まってもいいよ」
「いいです、笑」
*
最近心が乏しくなったような気がする。
昔は、ちょっと優しくされただけで好きになった。
好きになると、連絡が待ち遠しくて仕方なかったのに、今はもう、連絡が途絶えてもなにも思わなくなった。ただ、既読無視じゃなくて未読無視なことに安心してしまう。まだ終わってないことに安心している私がいる。
「去る者追わず…かあ」
私は1人ベットでつぶやく。
*
私は男性とセックスをしたことがない。
「はやく、布団敷いてよ」
「捨てた」
「またそれ~?」
「いいじゃん、一緒に寝たらいいじゃん」
「やだよ」
「なんでほら、はやく」
腕を引っ張られて同じベットに入った。
私はこれをどこかで期待していたのかもしれない。
「緊張する、緊張して寝れない」
「じゃあなんかする?」
「やるのは無理」
「なんで?」
「付き合ってないから」
「えー、泊まる気満々だったのに?」
「もーその話いいから!」
その後キスをされた。口とほっぺに何度もされた。
「ちょっと…」
何もできないならホイホイ家に行かなきゃいいのに。
私は自分に言った。
セックスをする度胸は無いのに、抱き合うとかキスだけで得られるような優しさは欲しい。
私はわがままだ。
「こんなに段階踏んでくれる男いないからね」
「そうだね、やさしいね」
動くたびにふわっと感じる香水の匂い。お風呂上がりなのに。懐かしかった。
そのまま、一緒に寝て、朝になった。
朝から2人でゲームをした。夕方までした。
彼氏ができるってこんな感じなのかなと思った。
少し幸せだった。
*
思い出したくない日に着た服や下着は当分着ないのに、凄く戻りたい日に着た服は柔軟剤を多めに入れて洗濯をして何度も着てしまう。
もうあの日に着たピンクのブラウス、色落ちしてきたよ。
こんな自粛中なのに、私は香水と会話を思い出してまた会いたくなった。
つづく
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