#7 高梨さん

例の派遣バイトで出会ったアラフィフくらいの女性。
数回しか一緒になったことがないのでそこまで豊富な話題はないが、印象的なエピソードがいくつかある。

初めて会った時、高梨さんは腕や指にパワーストーンと思われるアクセサリーをたくさん身に付けていたので、「それってパワーストーンてやつですか?」と訊くと、「そうそう。」と応えてくれた。高梨さんはお世話になっているパワーストーンの売人?がいるらしく(なんて言ったらいいんですか)、昔からよくその人のところへ行って色々と相談をして、そのお悩み解決の手助けになるような、お守りとしてぴったりのパワーストーンを紹介してもらっていた。何年か前にその人が大森の駅ビルにお店を構えた時には、その人からパワーストーンを買いたい人達の長蛇の列がお店の外まででき、たしか4,5時間待ちだったとか言っていた。

高梨さんは他にも、何十年か前にテレビなどでも紹介されて有名だった「新宿の母」との異名を持つ占い師にみてもらうため、寒空の中4,5時間並んだらしい。

そのあとは、これまたテレビでも有名だったある占い師にハマり、本を全て買い真剣に読み込んだり、その占い師が登壇するイベントだかセミナーだかに参加するほどだったそうだ。高梨さんは占い師の言うことをちゃんと守ろうと突っ走ってしまう癖がある。
その占い師が販売した何万もするブレスレットを購入した時のことだ。そのブレスレットは大変ご利益のあるどこかのありがたい御神木で出来たもので、それを身につけるだけで厄払いの効果があるとのこと。家に届いたその日から高梨さんはそれを身に付けた。ところが翌日、そのブレスレットをつけた左腕がだんだんとが真っ赤になっていき、蕁麻疹のようなものができていった。これはやばいと思った高梨さんは急いで病院で診てもらうと、医者は言った。
「原因はこれです。」
医者はたしかに高梨さんの左腕にあるブレスレットを指差していた。
高梨さんは信じたくなかったが、自分でも薄々気づいていたので仕方なくその瞬間から外すこととなった。
「何万円もしたのにねぇ…私には合わなかったみたい」
そう語る高梨さんはちょっと名残惜しそうだった。
今では大事にどこかにしまっているらしい。

そんな高梨さんのことを#1小田さん#8中村くんは「高梨さんは病んでる」と笑っていた。病んでいるかは知らないが、私は変な宗教にだけはハマらないで欲しいなと思ったし、現状ちょっと面白いなとも思った。

ある日、そんな私たちを驚かせる事実が発覚した。
誰もが知る大手銀行がシステム障害を起こしネットやテレビで話題となった日。職場でもその話を皆でしていた。
「あぁいうのはねぇ、上の人間が何も分かってないのよ。」と高梨さんが口を開く。
「私そういうシステムの仕事してたの。」
話を聞くと、高梨さんはこの派遣の仕事をする前、誰もが知る超大手のIT企業でシステムの構築をするエンジニアをしていたそうだ。
私たちは驚いた。
「えー!!!こんなとこいる場合ちゃいますよ!!」
と#1小田さん。
そのあと高梨さんは例の銀行のシステム障害について、原因を推察して話してくれたが、ちょっと訳が分からなかった。まとめると、たぶんエンジニアももどかしいと思ってるとかなんとか。

高梨さんは、物凄い激務だったと当時を振り返った。
占いとかそういうスピリチュアルなものにハマってしまったのは、ずっとバリバリにパソコンと向き合う仕事をしていた反動だろうか。そのシステムの構築というのがどういうものなのか、私にはよくわからないが、英語や記号をたくさん打ち込んだりするやつのことかなと思う。無機質な画面とずっと向き合っていると、自然に身を投じたくなるものだろう。しかし高梨さんは地球の自然を飛び越え、宇宙の星の運動を心の拠り所としてしまった。

私は何事もバランスはうまくとっていかないといけないんだなと思った。

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