#8 中村くん

例の派遣バイトで出会った2歳くらい年下の青年。
色白ですらっとしたスタイルで、目の色とかを見ても、なんとなく色素が薄い系の男の子だ。そして#1小田さんのオキニである。
自分より年下の男の子とあまり話した事がなかった私は、初対面で二人だけの仕事の時、人見知りそうな彼の雰囲気に、今日一日を乗り切れるかと少し不安に思っていた。しかし、中村くんは話してみると、とても精神が落ち着いていながらユーモアもあり、物腰の柔らかなトーンで会話を楽しめる人だった。とても丁度いい温度感である。彼の方から程よく提供される話題に私は相槌を打ち、逆に私からの話題には彼が相槌を打ったり笑ったりしてくれた。彼の方から質問してくれることもあるし、私から何か振ってもフランクに包み隠さず答えてくれる。言葉のキャッチボールが上手いなと思った。特段大きな、爆発的なエピソードを持ち出したり、私の話に面白おかしく突っ込んで場を盛り上げようとするタイプではないけれど、この彼のさりげない静の?受の?コミュニケーション力のお陰で、その日一日を無理なく過ごせた安堵と嬉しさを、帰りの電車で思い返してしみじみした。こりゃお喋り関西人の小田さんが好きなのも分かる。

一緒に仕事をしたのは2回くらいな上、中村くんと私が話す話題は専ら職場の人たちの面白エピソード、特に韮崎さんという同じく派遣バイト先の男性の話ばかりなので、中村くん自身のエピソードはあまり記憶にない。

頑張って振り絞って中村くんのエピソードで覚えていることを。

中村くんは当時綱島で一人暮らしをしていた。
平日は他の仕事で週5で働き、このバイトはみんなと話に来る感覚で休日にたまに入っているそうだ。
そんな忙しい彼は毎朝何を食べているのだろう。尋ねてみると、毎朝食パンを食べているらしい。しかも最近はちょっといい食パンを買い、トースターで程よくこんがりさせたところにバターを塗って、そこにマーマレードジャムをつけて食べるのがお気に入りだそうだ。中村くんはたしか「毎朝食べるものだからこそ、ちょっといいものを食べて気持ちよく朝をスタートさせたい」と言っていた。なるほど。所詮朝食だからと適当に済ませるのではなく、一日の始まりを気持ちよく迎えるために、自分にとって少し贅沢をするのか。そういう考え方もあるのだなと感心した。

そして中村くんは下の名前が渋い。
ある日、スタッフの名前がフルネームで書いてある紙を見て、そこに書かれた中村くんの下の名前が読めず、他のスタッフと中村くんの下の名前当てクイズをした。キラキラネーム系の読めないではなく、昔のスター俳優についていそうな漢字が二文字並んだその名前は、人の名前でしか出会わない漢字で、その漢字が持つ意味も分からないし、これってこう読むんだっけ?と全員があやふやで苦戦した。結局正解者はいなかった。ここで正解は述べられないが、「やすのり」とか「よしまさ」とか「ただやす」とか、平成生まれにしては渋めの名前だった。


また何か思い出したら追記することとして、とりあえず一旦中村くんは終わりにしようと思う。

だって本当に韮崎さんの話とか面白いお客さんの話して笑ってただけだから…

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