#1 小田さん

私がコロナ禍に派遣バイトをしていた時の先輩。
当時30代半ばくらいのすらっと高身長のゴリゴリ関西人男性。
バイトリーダー的な感じで日々のプチ責任者を任されていることが多かった。

クリスマスイブの夜に彼女とみなとみらいの実寸大ガンダムを見に行ったが、驚くほどの長蛇の列だったかなんかで諦めて山下公園へ。
前から彼女とはクリスマスプレゼントはなしでいいと決めていたそうだ。しかし山下公園のベンチに座り周囲を見渡すと、たくさんのカップルがいちゃつきながらプレゼントを渡しあっていた。ガチでプレゼントを用意していなかった小田さんは居心地が悪くなり、自分も何かしなければと思った。とっさにジャケットのポケットに指サックが入っていることを思い出した。その日の仕事中に深見さんから借りてそのまま持って帰ってきてしまった指サックである。小田さんは彼女に言った。
「目ぇ閉じて(目を閉じて)」
彼女は不思議そうに目を閉じた。
小田さんはその彼女の手を取り広げ、かじかむ掌にそっと指サックを置いた。
「目ぇ開けて(目を開けて)」
その声に彼女は目を開け掌に視線を移すと、そこには小さな指サックが一つ置かれていた。

そんなことがあり、後日小田さんは彼女から別れを告げられた。


そういえば小田さんはお台場で仕事があった時も、駅まで帰る道の途中で「あ、俺丁度ガンダム見に行くねん(あ、俺丁度ガンダムを見に行こうと思ってるんだ)」と言って、知らない横断歩道の方へ向かい歩いて行った。あれもたしか実寸大ガンダムだったはず。実寸大ガンダムをそんなに何度も見て何が面白いのかさっぱり分からないが、アイドルのファンが何度もアイドルのライブDVDを観るのと同じなのだろうか。実寸大ガンダムって動くのかな。

また、小田さんは若い男の子が好きなようだ。
大和くんという大学生の男の子や中村くんという20代半ばの男の子と同じシフトの時はいつもホクホクした嬉しそうな顔で自身のもつ面白エピソードをコテコテの関西弁で惜しげもなく披露していた。私の時とは大違いだ。
大和くんが就職し、この派遣会社を辞めることになった時、うなぎをせがむ大和くんの願いをノリで受け入れ、職場近くのうなぎレストランで奢ってあげたらしいが、昼休憩中だったため急いでいてちゃんと値段を見ずに注文し、食べ終わってさぁお会計!となり伝票を見たら2人で8000円と書かれていて「サブイボ立ったわ!!(鳥肌がたちましたよ)」と言っていた。わざわざ休憩中になんか行かなくてもバイト終わりか日を改めてご飯行けばいいのに。

大和くん亡き今、小田さんのオキニは専ら中村くんだ。中村くんがいる日の小田さんは、孫が久々にやってきたことに喜びを隠しきれずずっとこっちを見ながらニヤニヤしているじーさんかばーさんのようだ。ちなみに、中村くんが新型コロナワクチンを打つと遺伝子操作されるから打たない方がいいと話すのを聞いた小田さんは、自身も打たないことを決めたそうだ。

持ち前の関西弁とノリでみんなから慕われる30代男性の小田さん。この派遣会社でのバイト以外にも、海苔の営業か何かをしているそうだ。スーパーなどに行きこの海苔を置いてくださいとお願いしたり、店頭に立って接客販売したりもするらしい。その仕事中に接客したおばさんにえらく気に入られて後日2人でご飯を食べに行き、奢ってもらったことがあるらしい。

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