15. 午前4時、私たちの時間
ハル(海/尊)|女風で出会った私のパートナー。
シンジ|パーティーの主催者。作曲家。
かほちゃん|シンジのパートナー。職業女王様。
セナちゃん|ボーイッシュな赤髪の女の子。自傷癖あり。
シンジとかほちゃん、セナちゃんはよくパーティで一緒になったが、それ以外のメンバーは1度きりの人も多かった。
メンバーの1人がバルコニーから戻ってきたので、入れ違いで煙草を吸いに出る。普段は一切吸わないが、こういう時は吸うと気持ちが安らぐ。銀座の画廊にいた頃、オーナーが煙草を分けてくれたのが懐かしい。
ここからは、遮るものなく東京タワーが綺麗に見える。
もう雨もあがっていた。
高層階だからか、街の音は届かない。
夜中3時を回っていたが、車通りはまだ多い。
部屋に戻ると、ゲストルームから人が戻ってきていた。
初めてのパーティがお開きになる。
誰と交わったのか、あまり覚えていなかった。
何人かはそのままゲストルームに泊まるようだ。
皆に挨拶をして非現実的な現実から抜け出し、尊とまた別の非現実に帰る。近くに止めていた車に乗り込んで、新宿に帰る。
眠くはない。
ひどく冴えている。
『初めての会は、どうだった?厳しかったかな』尊が尋ねる。びっくりするほど、黙るしかなかった。本当に何も答えられなかった。もう少し気遣いの言葉が欲しかったけれど、仕方ない。
短いトンネルに入って、オレンジ色の光に包まれる。
子供のころから、異次元へワープするみたいで好きだった、トンネルの中。
『葵が頑張ったから、サプライズがあるよ』
なんだろう。いいホテルを予約してるとかだろうか。あるいは、これからまた別の「会場」に連れていかれるんだろうか。40代後半と思えない体力だ。
着いたのは、マンション裏の駐車場。
この日、尊は私を初めて自宅に招いた。
コンビニに寄って水とヨーグルトを買う。
あんな薄暗いタワーマンションを出て、暗い車内で話した後、コンビニの店内はほとんど暴力的な明るさだった。やましいことをした後だからか、こんな蛍光灯の灯に照らされると急に気まずくなる。
大通りに面したマンションのエントランスに入ると、尊はポストを開けて中を覗いた。私はその後ろ姿を、他人事のように見つめていた。
エレベーターに乗り込むと、尊は最上階のボタンを押す。
4階で風呂上がりのまま濡れた髪の若い男が乗り込んできた。おそらく歌舞伎町のホストだろう。小声で私たちに挨拶して、8階で降りていく。途中階で乗り込み、さらに上階に一体なんの用だろうか。
私たちは最上階で降りた。
自宅のドアを開けた瞬間、彼は私の耳に触れて首にキスを落とす。
『いらっしゃい、どうぞ入って』
午前4時前、これからが私たちの時間だった。
色んな人たちと交わって、尊の家へ戻る時間。
やっと彼のことを独り占めできる、朝方の1時間。
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