1. 風俗に愛の真似事を求めた。
風俗は違う。
お金を払った対価として、それなりに良い想いを提供してもらう。あちらも演技だと分かっているのだから、至極健全な気がした。
最初に利用したのは個人経営の店で、
待ち合わせ場所には、中肉中背の男が現れた。
見た目は普通の会社員。おそらく40代の、普通のおじさん。事前の顔合わせでは、お茶をしながら男性経験について聞かれたけれど、私はほとんどうわの空だった。
特段好みではなかったけれど、嫌いでもない。
だから私はほとんど考えることを放棄して、ラブホテルに向かった。そっと手を包まれて、ゾワッとした。1回目に会ったこの男は、途中でゴムなしを提案してくるような普通の男で、それきり会うことはなかった。女風の利用には、当然こういう危険も伴う。
それでも懲りずに別の店を利用したのは、
多分むしゃくしゃしていたからだ。
東京湾近くのホテルで、指名した男と会う。
大柄で優しいその人は安心感を与えてくれたけれど、何故だかわからない、私は一緒に添い寝しているのが苦痛で、『まだ隣で寝て居よう』という彼を追い出した。
拒否など、ほとんどされたことがないんだろう。やに下がったように見えた態度は、私の妄想だろうか。戸惑ったその顔は、今でも私の脳裏から消えない。
私はまた独りになって、バルコニーでレインボーブリッジを眺めた。
水辺は風が冷たい。
午前3時、レインボーブリッジの灯はすでに消えていた。
私をほとんど抜け出せない沼に引きずり込んだのは、この店で出会った2人目の男。毎日が刺激的で、いつか愛してもらえると信じて、自分を傷つけた私の追憶。
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梅雨の湿気が残る7月。
小田急ホテルセンチュリーサザンタワーの角部屋。
19時50分、部屋の電気を全部消し、音楽をかける。
20時の予約だから、そろそろ来るだろう。
ガラス張りの角部屋からは、慣れ親しんだ新宿の街が一望できる。
真っ暗な新宿御苑と、いつも違う顔を見せてくれるドコモタワー。
―コンコン。
軽くドアをたたく音がして、私は音楽を止める。
「はい」
『はじめまして、海です』
柔らかく、人に警戒心を与えない声。
扉を開けると、少年のような笑顔を浮かべた男が立っていた。
人たらし。
彼の第一印象。
私は彼を部屋に迎えた瞬間から、なんとなく、引きずり込まれると思った。
あの時私の中に込み上げた感情は、恐怖であり、諦めであり、憧れであり、歪んだ情念だった。
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