‘すぺしゃる’の向こう側 (4)
愛を探しに出た ぼくとりゅう。旅の向こうに もっと大切なものが あった。本当の幸せを手に入れる方法を 見つけた ぼくの冒険物語。
4)じゅんび、ばんたん
夕ご飯を食べて、テレビを見て、おふろに入って、歯をみがいて、トイレに行って、最後に、ママに、「おやすみ」と言って、ギュっとした。いつもは、ギュっとしないから、ママは、「どうしたの。」と、おどろいていた。ぼくは、軽く「なんでもないよ。」と言って、子ども部屋に、歩いていった。
子ども部屋は、2段ベッドがあって、おにいちゃんが上で、ぼくが下。おねえちゃんは、自分の部屋があって、たつやは、小さいから、ママとパパといっしょに寝ている。おにいちゃんが、「電気、消すぞお。」と言った。ぼくは、窓の下のリュックサックをちらっと見て、「いいよ」と言った。じゅんびは、ばんたん。あとは、12時を待つだけだった。寝てしまわないよう、ぼくは、真っ暗な部屋で、必死に、好きな動物を、どんどん、頭にえがいていった。。。「犬でしょ。ねこでしょ。うさぎでしょ。きりんでしょ。ライオンでしょ。」 ふとんの中で、懐中電灯をつけて、めざまし時計の針をじっと見つめながら。
途中、2,3回、ふと、いねむりをしたけれど、家の動物、動物園の動物、アフリカの動物、魚、鳥、とかげ、へび、虫と、好きな生きものを、どんどん思いえがいて、とうとう本当に、動物が浮かばなくなって、好きな友だちとマンガのなかの人をさんざん思い浮かべているころに、やっと、12時がやってきた。ちなみに、12時になったときに、思っていたのは、テレビの昔話のアニメに出てくる、のほほんとしたりゅうだった。このりゅうって、羽がないのに、飛ぶんだと感心していたら、12時になった...。
ベッドから、そっと起きて、窓のほうに、静かに、気をつけて、歩いていった。今日は、満月で、カーテンの下のすきまから、月の光がもれていて、窓のすぐ下の床と、リュックサックが、ぼんやりと、明るかった。そっとリュックサックを持って、子ども部屋の外に出た。ろうかのつきあたりのガラス戸から、白くてきれいな月が見えた。12時のお月さまは、白いんだなと、ぼんやり思った。
ガラス戸のかぎをそっと開けて、ゆっくりガラス戸を開けた。10月のひんやりとした夜の空気が入ってきた。ぼくは、はだしで、ベランダに出た。おとなりの庭の金木犀の甘い香りと、湿った空気が、ふんわりと、鼻の中と、口の中に、入ってきた。ぼくの大好きなにおいだ。ぼくは、リュックサックを、背中にしょった。ぼくは、大きな息をすって、月を見て、小さな声で、「冒険、行きますよ。」とつぶやいてみた。
つづく…
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