林 悟

文章を書く人。 絵は苦手ですが、専属の絵師がいますので絵をいただいた際は短いお話を添…

林 悟

文章を書く人。 絵は苦手ですが、専属の絵師がいますので絵をいただいた際は短いお話を添えて紹介いたします。 童話や詩、ショートショートなどのフィクションを短編形式で少しずつ投稿予定。 その他、日常の気付きや興味を持ったことをエッセイ形式できまぐれに投稿したりするかもです。

マガジン

  • 幻想文学の為のエチュード

  • 雑多なもの

    下書きやふと思ったことなどをまとめています。 あまり文章や構成などは意識せず、イメージや発想、記憶や知識の保管所として利用中。

  • 雨上がりの虹

  • 常昼の島の天使

  • 購読リスト

最近の記事

もう1つのPrologue

in principio erat Verbum, et Verbum erat apud Deum, et Deus erat Verbum はじめに言葉ありき、言葉は神とともにあり、言葉は神であった。 では、はじめの言葉とは何であったのか。それは不在か実在か、禁止か衝動か、それともその狭間に位置するものか。 別によいのだ。如何様に読み解いても構わない。鶏が先か卵が先か。どちらが先であれ、鶏の次には卵があり、卵の次には鶏がある。言葉は既にこの世界を満たしており、言葉は

    • Prologue

      Die Frage 幼少期に抱いた問いは、その人の人格形成に大きな影響を与える。それは、その後の人生すらも規定してしまうもの。あなたはこんな問いを抱きはしなかったか?図書館で借りてきた恐竜図鑑をめくりながらそれらが小惑星の衝突により絶滅したことを知ったときに。或いは庭で土弄りをして見つけた蚯蚓の血の色を気まぐれな残酷さと知的好奇心によって確かめたときに。 Warum ist überhaupt Seiendes und nicht vielmehr Nichts? 最も

      • 跳んでなんぼの人生っしょ

        ファール。 ファール。   野球ではなく、走幅跳のお話。 走幅跳では白い板を踏切足が越えてしまうとファール判定になり、記録は無効になってしまう。跳躍のチャンスは三回だから、二回ファールしても最後の一回で良い記録が出せれば無問題。しかし、三回連続でファールすると記録無しで失格になる。かといって、足を合わせにいくと、助走が遅くなって記録が落ちる。つまり、今、結構絶望的な状況ってわけ。 僕の中学校には陸上部がなかったが、陸上大会には毎年出場していた。辺鄙な田舎の学校あるあるで、市

        • ⑥雨上がりの虹

          世界は確かに不条理だ。しかし、世界にとっての不条理は俺なんだ。フィリップはそう思っている。二死一二塁。あの時と同じだ。しかし、タローは監督で、バッターは俺。 ソラリスが負けるのがX市の道理だろう。だが、俺の打球がその道理をぶち破る。停滞した日常に風穴を空けるのだ。 1球目。高めに外れてボール。2球目。これも外れてボール。3球目、緩いカーブを落とすことが出来ずこれまたボール。 フィリップは内心ブチ切れていた。なんという理不尽だ。今日打つとしたら俺だろう。しかし、ストライク

        もう1つのPrologue

        マガジン

        • 幻想文学の為のエチュード
          2本
        • 雑多なもの
          2本
        • 雨上がりの虹
          6本
        • 常昼の島の天使
          11本
        • 購読リスト
          3本
        • 仏教詩
          1本

        記事

          ⑤期待をしなけりゃ良かったのだろうか

          綾人は憂鬱であった。メランコリーの妙薬は何かないのだろうか。気の持ちよう、気の持ちよう、気の持ちよう、はぁ。パラノイア的な生活をあといつまで続けるのだろう。仕事は上手くいっていない。彼女とは別れていないが仲は冷めている。全てがそんな調子で停滞していて、でも日常を送るのに不都合はない。明日は同様にやってくるのである。不可解なことだ。停滞した日常の繰り返しは不条理で異常であるからこそ、気の持ちようで何とかするしかない。が、しかしうんざりだ。むしろ絶望に身を任せてどこまでも堕ちて見

          ⑤期待をしなけりゃ良かったのだろうか

          ④太陽ドーム

          その頃、X市は野球が盛んであった。プロの野球に必要なのはボールパークで、X市の野球場は太陽ドームという名前であった。立派な球場で、X市ばかりか、日本を代表する名球場として世界にまで名を轟かせたものである。 X市の野球人気がピークに達した頃、野球の世界大会が日本で開催されることが決まった。当然、太陽ドームは開催地の最右翼である。大会の形式としては、予選リーグありの本戦がトーナメント制で、準々決勝、準決勝、決勝のカテゴリー別に違う球場が割り当てられていた。X市の野球熱と市長の手

          ④太陽ドーム

          ③気の持ちようなど持ち合わせていない

          ラインハルトとフィリップはアメリカ人であった。自慢の金髪は湿気にやられてぺたんこになっている。気の持ちようだなんていう気の持ち方は彼らにはない。嫌なものは嫌である。 人間側が環境に合わせて自分の精神をチューニングし、受け入れてしまおうという考えは土台として精神治療的な手法であり、しかもその手法自体にある種のパラノイアが潜んではいないだろうか。気の持ちようを変えても、雨は変わらず降るのであり、問題が残っている限り憂鬱はまた繰り返す。と、ここまで明瞭に言語化された思考を持ち合わ

          ③気の持ちようなど持ち合わせていない

          ②渡る世間は気の持ちよう

          天気予報は必ずしも正確ではない。戦争でもあった日には的中率は大きく下がるのが普通だ。 X市の天気予報は今となっては世界で1番正確である。それは最早予報ですらなかった。自明。あまりにも自明。昨日の天気は雨であり、今日の天気は雨である。明日の天気も雨だろう。 雨量は少ないとはいえ、2年間雨が降り止まないとなると今頃X市は大洪水になっているはずだし、気温も相当下がっていないとおかしいのだが、そうはなっていない。これもまた奇異なことだ。 2年間雨の日が続き、しかも特に何も異常が

          ②渡る世間は気の持ちよう

          ①日常は異常の始まり

          「金星ってこんな感じなのかな。」 ぽつりとラインハルトは言った。 「金星にも雨は降るのか?」 やや義務的にフィリップは問い返した。 「現実世界の金星のことは知らない。レイ・ブラッドベリの小説の話だよ。」 「刺青の男だっけか。お前がよく読んでる本のタイトル。」 「そう。その中にある長雨っていう短編が金星の話なんだ。どうも、ブラッドベリの世界では金星はずっと雨が降る星ということになってるらしい。」 「だとしたら、クソみたいな星だな。」 Fxxkと、吐き捨てるようにフィリ

          ①日常は異常の始まり

          常昼の島の天使 [完]

          お風呂の中で私は目を醒ました 不思議なことに生きている チュン チュンと鳥のさえずり もう朝みたい うーんと伸びをする あれは夢の世界というよりは 無意識の世界と言った方がいいのかもね あの世界は私だけの世界 関係性の世界から閉じた私だけの世界 私はいい女だと思うわ 可愛いし 仕事もできたから だけど 私を突き動かす発作的な衝動に いつまでも耐えて生きることは無理だった だから私は関係性の世界で停滞するのをやめて とめどなく漂流して生きていくことにしたの 好きなことをし

          常昼の島の天使 [完]

          常昼の島の天使 ⑩

          私は絵筆を握っている 私は何をしたいのかしら 絵筆を握って考える 沢山の色を混ぜながら 考えて考えて 疲れてぼーっとしていたら 私がどうして漂流していたのかを思い出した 縛られたくない私 私とは他の誰かではないということ 他の誰かではないという区別によって 記号的に生じる私という現象 他の誰かの関係性に縛られることで 私という現象が立ち顕れる それを理屈として理解しながら思うの それでも私は関係の鎖から解き放たれて ただただ自由になりたいんだって 私だけの世界に逃げ

          常昼の島の天使 ⑩

          常昼の島の天使 ⑨

          私は絵筆を握っている やまなしの前で魔法をかけてあげるために 絵筆を握って考える いっそのこと島全体を海にしてしまおうか ジャングルを跳ねるのは楽しかったけれど 固い大地を漂うことは出来ない そうよ 私は森の女じゃないのよ じゃぁ 私は海の女だったかしら ぷかぷか海を漂ってきたけれど 私は海に沈もうとはしなかった 海にとって 私は異物で ぷかぷかずっと浮いていた 自由でひとりで楽しくはあったわね どこかで停滞するなんて真っ平 漂流するのが性に合ってる だけど私の心には

          常昼の島の天使 ⑨

          常昼の島の天使 ⑧

          私は絵筆を握っている 歌うことも好きだけれど 私の魔法といったらこれよね 私はただのプロの絵描き でもプロの仕事は魔法のようなものだもの 絵筆を握りながら私は考える 問題の本質はどうやるかではない 何をしたいか 例えばこんなのはどうかな やまなしに顔を描いてあげる 五感があればやまなしの世界は もっと良くなるかもしれない でも こんな話があったっけ 昔中国に七つの穴がない人が居た 目、耳、口、鼻がない人ってことね 彼の友人が善意で穴をあけたら 七つ開けたところで彼は息

          常昼の島の天使 ⑧

          常昼の島の天使 ⑦

          私はぷかぷか浮かばない だって私の下にあるのは固い大地 今の私は森の女 でも 少しだけ 海でのことを思い返してみる もしかしたら 私があの時やまなしを食べたから やまなしの声が聴こえるようになったのかも ただの幻聴という説が依然濃厚だけれども やまなしが話しかけてきた 「もしかしてあなたは天使さまなんですか」 「そうよ、私は天使、海の天使、今は森の天使だけどね」 「やっぱり、そうなんですね」 「当たり前でしょ、女はみんな天使だって知らない」 「それはよく分から

          常昼の島の天使 ⑦

          常昼の島の天使 ⑥

          不思議なことにジャングルを分け入っても 足に痛みを感じなかった ホントに私は森の女なのかも ぴょんぴょん ぴょんぴょん スキップしてジャングルを跳ね回る私 童心に帰ったみたい 急にその場でへたり込む そうよ私はお腹が空いていたのよ ぐぅーっとお腹が叫び出す 当たりを見渡せば見覚えのある 赤い皮の果物があった ぱーっと私は笑顔になって ぴょんぴょん ぴょんぴょん 小躍り小躍り 跳ね廻る いっただーきまーす やっと私はやまなしを掴んで 皮を剥こうとしたのだけれど

          常昼の島の天使 ⑥

          常昼の島の天使 ⑤

          いつまで経っても日が暮れないので 私は立ち上がることにした 海に背を向けて歩きはじめる やがてジャングルが見えて来た 砂浜に別れを告げて植物の世界へ 濡れた私の足跡がジャングルに続く 海にいた私の痕跡は 沈まぬ太陽によって そのうち消えてなくなるのだろう 今日から私は森の女になるのね そもそも私は海の女でもなかったのよ

          常昼の島の天使 ⑤