④太陽ドーム

その頃、X市は野球が盛んであった。プロの野球に必要なのはボールパークで、X市の野球場は太陽ドームという名前であった。立派な球場で、X市ばかりか、日本を代表する名球場として世界にまで名を轟かせたものである。

X市の野球人気がピークに達した頃、野球の世界大会が日本で開催されることが決まった。当然、太陽ドームは開催地の最右翼である。大会の形式としては、予選リーグありの本戦がトーナメント制で、準々決勝、準決勝、決勝のカテゴリー別に違う球場が割り当てられていた。X市の野球熱と市長の手腕が優れていたこともあって、決勝の開催地を勝ち取ったのは我らが太陽ドームである。

決勝はアメリカ対日本の好カードとなった。試合はまさに死闘。マウンドの哲学者の異名を持つラインハルトは序盤に1失点を許すもその後の打線を無安打に抑え、MVP級の活躍を見せていた。対する日本の投手陣も手強く、辛くもフィリップの1HRで同点にして以降、球場の電光板には0の文字のみが追加されていった。

12回裏。ここまで完投の活躍見せていたラインハルトにもようやく疲れが見えてきていただろうか。二死一二塁、ピンチの局面で日本の代打が登場する。登場したのは、背番号1番、怪我でスタメンにこそ選ばれなかったものの、日本球界を代表するレジェンドスラッガー、英雄タローであった。通称ウルトラマンである。

ラインハルト渾身のストレートはこの日最速の100mileを記録。しかし、それを上回るのがウルトラマンタローなのだ。ド派手な金属音が球場に鳴り響く。ベンチのフィリップが思わず立ち上がり、ボールを目で追った。伸びていく。太陽ドームの屋根にぶち当たり、しかも貫いていった。

厳密にはホームランではない。球場の特別ルールで、屋根に打球が当たった場合は一律に二塁打と記録することになっている。しかし、勝ち越しするには二塁打で十分だった。

2対1。12回まで続いた日米の死闘はウルトラマンタローの伝説的二塁打で幕を閉じた。あれから10年。太陽ドームはまだ存在している。しかし、X市の野球熱は低い。地元球団のソラリスは記録的な連敗を続けていた。

雨が降り続けて2年、ソラリスが負け続けて4年。敵チームはX市とソラリスを揶揄してこう言う。雨降り2年、負け4年。

今日の天気は雨。明日の天気も雨。明後日のソラリスの試合は負けである。全てがあまりにも自明。停滞した日常は続く。結局、気の持ちようで何とかするしかない。

綾人はそう思っていたし、X市全体でそういう空気が蔓延していた。しかし、ウルトラマンタローだけは違ったのだ。ソラリスの新監督、ウルトラマンタロー。英雄は太陽ドームに帰ってきた。かつて太陽ドームの屋根を貫いたように、停滞した日常を穿つ希望の光をもたらすために。

雨は止まないかもしれない。でも、ソラリスを勝たすことはできるはずだ。ソラリスの負けを気の持ちようで癒すなんてことはもうさせない。今年のソラリスは勝つのさ。

そのために、ウルトラマンタローは旧敵を呼び寄せた。ラインハルトとフィリップ。彼らはまだ現役のメジャーリーガーとして第一線で活躍していたにも関わらず、タローの招集を快く引き受けた。10年前の太陽ドームの試合が忘れられなかったからだ。

彼らの使命はライジングサン。
太陽ドームにお天道様を返すため、彼らはこの地にやってきたのである!

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