⑤期待をしなけりゃ良かったのだろうか

綾人は憂鬱であった。メランコリーの妙薬は何かないのだろうか。気の持ちよう、気の持ちよう、気の持ちよう、はぁ。パラノイア的な生活をあといつまで続けるのだろう。仕事は上手くいっていない。彼女とは別れていないが仲は冷めている。全てがそんな調子で停滞していて、でも日常を送るのに不都合はない。明日は同様にやってくるのである。不可解なことだ。停滞した日常の繰り返しは不条理で異常であるからこそ、気の持ちようで何とかするしかない。が、しかしうんざりだ。むしろ絶望に身を任せてどこまでも堕ちて見るのもありではないか。

そんな加速的破滅の気分を満たすのにピッタリだと思われてしまったのは不名誉なことにソラリスの試合であった。X市が今日も負けるのを見に行こうではないかと、綾人は考えたのである。

ガラガラの球場で綾人は試合を見ていた。0の数字が電光板に並んでいる。点が入る気配は全くなかった。点が入らなければ勝ちはない。ソラリスは今日も負けるのだろう。

しかし、今日のソラリスは何かが違うような気がした。俺の気の持ちようかなと綾人は訝しんだが、徐々に原因がわかってきた。あの見知らぬ外国人投手。いや、どっかで見たような気もするが、この外国人投手が粘っているのだ。まだ無失点。点を取られなければ負けはない。

綾人の視線にも自然と熱が篭もる。
しかし、8回表。今は軟投派投手として多彩な変化球を投げるようになったラインハルトのフォークだが、これが落ちきらない。甘く中心に入ってしまった投球は、バット一閃、的確に真芯で捉えられてしまう。

綾人の目から熱が消えた。人生そんなものだよなぁ。結局、不条理な世界の中で自分を騙し騙し生きていくしかないんだ。これも気の持ちようさ。ほら、元々絶望しに来たんだからこれでよかったんだよ。

意気消沈している綾人を他所に、試合はこれから9回裏を迎える。かつての太陽ドームに憧れたのはラインハルトだけではない。フィリップが打席で準備をしていた。

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