家賃20000,3階,洋式便所ウォシュレット付き!!!:751字

家賃次第ではここでいいかな。
そう思って扉を開けた。
大量の資料に囲まれた背広を着た幽霊が血眼になって書類に目を通していた。
血管とかあるタイプなんだ。
そんな事を思ってるとこちらに気づいた様だった。
「いらっしゃいませ!」
透明度に不釣り合いな元気な掛け声にたじろいで、
「ども」
小さく会釈する。
「本日はどう言ったご用件で!」
成仏しかねないほどの元気が鬱陶しい。
「せ、先日ですね、住んでいた学校が取り壊しになってしまってですね、」
自分の感情とは裏腹に、この幽霊に当てられていて言葉につまる。
「そういう事で尋ねて頂いたんですね!本日はご足労頂きありがとうございます!暑かったでしょう!冷たいお茶でもお持ちしますね!」
生前もこの職をやっていたのか、流暢に出てくる圧倒的な言葉数と熱量に押され気味だ。
不動産屋なんか初めて来た。
人体模型君の紹介がなかったら、こんな所がある事自体知らなかったし。
思ったより事務的なオフィスなんだな。
そんな事を思い返したり、考えたりしてたら返事も待たずにセカセカと作られてきたお茶が運ばれてきた。
お茶じゃなくてコーヒーだった。
カップから口を離すと同時に幽霊は切り出した。
「ではどういった物件をお探しでしょうか!」
「表に貼ってあった洋式便所で契約したいと考えてるんですが」
幽霊は目を見開いて
「お便所ですか!?」
机に乗せた手を真っ直ぐに伸ばして此方に前のめりだ。
椅子を少し引いて驚く私に気づいたのか、コホンと咳をして
「失礼ですが、お名前伺ってもよろしいですか?」
「トイレの花子さんと申します。」
幽霊は私のお腹辺りから始まり、つむじまでゆっくりと視線を上げていく。
「随分ご立派になられたんですね。」
「前の学校にはそれなりに長居させて貰いましたから。」
コーヒーには4尺程ある私の上半身が反射していた。

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