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おもてから 想像できぬ ゆるがたり

『14歳からの文楽のすゝめ』 竹本織太夫 読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,600文字

・あらすじ

 表紙にある「文楽」とは日本の古典芸能、人形浄瑠璃にんぎょうじょうるりのことだ。

 時は幕末、植村文楽軒うえむらぶんらくけんらの一座が中心的な存在となったことで、以降は文楽の名でも呼ばれるようになったそうな。

 あえて「14歳から」とした本書を足がかりに、人形浄瑠璃のイロハを学んでみては如何だろう。

・レビュー

文楽と言われても

 ピンクの背景に黒文字のみで書かれた表紙。

 帯には世界中の著名人が14歳のとき、何をしていたかという解説が並びます。

 正直に言って、それらを見ただけでは本書が何についての本なのか、さっぱり分かりませんでした。

 人形浄瑠璃という古典芸能があるのは認識していましたけれど、短く「文楽」と呼ばれるとは知らず、俳句や短歌の一種だろうかと思いました。

 いざページを開いてみると、「今を生きる君たちへ」と題した前書きが目に飛び込んできます。

 くだらないことで友達とはしゃぐ日々もあるけど、ぶつかったりモヤモヤしたり、気分が落ちるときもある。

親や先生には相談できないし、インターネットで解決策は見つからないし。

「こんな風に悩んでるのは自分だけかも……」。

そう感じることもあるかもしれない。でもちょっと待って。

そんなときにこそ知ってほしい。

君と同じように悩んだり苦しんだりしながら一生懸命に生きた人たちのこと。

何百年経っても人の心って意外と変わらない。

それを知っているのと知らないのじゃ大違いなんだ。

3頁 今を生きる君たちへ
(文章の位置変更 済)

 このまま青春ドラマでも始まりそうな冒頭ですけれど、本書は人形浄瑠璃についての初心者用ガイドブックです。

 途中、声優で女優の石川由依と作者の竹本織太夫の対談が、巻末では文楽を作る人々が14歳で何をしていたかが語られます。さらに4コマのマンガによる江戸時代の解説があったりと、タイトルに偽りなしの10代に向けた内容となっています。

三者の作る人形芝居

 歌舞伎を人形で演じたのが文楽という理解でして、能や狂言とも近しい関係にあるようなイメージです。

 それらと文楽が違うのは「人形つかい」の存在で、語りを担当する「太夫たゆう」と演奏の「三味線」は他の古典芸能とも共通しています。

 では文楽が他の芸能よりも下位に位置するのかと言えば、それは正しくない気がします。

 歌舞伎、能、狂言は人間が演じる以上、良くも悪くも役者による味付けが入ります。

 演じるのが架空の人形であれば、見ている側の想像する余地が大きくなりますし、演者がめんを付ける能を親しみやすくしたような印象です。

現世ではアニメーションとなりて

 先日に原作、古川日出男の映画「犬王」を観ました。

 呪いによって異形の姿をした犬王いぬおうと、その呪いに関わりのある盲目の琵琶法師、友魚ともなの話なのですが、犬王は人の背丈の3倍もありそうな腕を持っています。

 そんな怪物じみた犬王だからこそ、普通の人間では不可能な舞を生み出せるのです。

 本書で紹介されている文楽には「卅 三 間 堂 棟 由 来さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい」という演目があり、登場人物の1人はやなぎの精とのこと。

 他の芸能でも「何々の化身」といった役がありますけれど、どうしても生きた人間の姿に引っぱられてしまいがちです。

 それを人形が演じることで、お伽噺としての形態を保ちつつ観ることが可能になります。

 先の「犬王」はアニメーションで作られているものの、綿密な当時の時代考証によって、あたかも犬王と友魚ら一座が本当に存在したのやもと想像します。

 人形によって架空の話を今に顕現させる、人形浄瑠璃こと文楽。

 色と線で作られた絵によって構成する、現代のアニメーション。

 その2つは遠いようで、表現しようとするものは共通しているような気がするのでした。





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