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その音色はしずかで、うるさい

『ありえないほどうるさいオルゴール店』 瀧羽麻子 読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,500文字

※ 2021/11/25 新エディタベータ版の機能、画像の説明文挿入を実施。

・あらすじ

 かつて海運で栄え、今も運河の流れる街中に、ひっそりとそのオルゴール店はあった。

 入り口を自分から開けて入るときもあれば、店主から客に声をかけるときもある。

 店では有名な曲などを組み込んだ既製品も扱っているけれど、オーダーメイドも可能らしい。

 どこか不思議な雰囲気を持つ店主は、どんな曲もできるという。

 店を訪れた客たちが耳にすれば、たちまち心をうるさく、ざわつかせてしまう曲だとしても──。

・レビュー

 本作の舞台となる町は運河のある観光地で、読み進めていくと「北国」や「北の果て」などといった表現が出てきます。
 他にも6月下旬で厚手のコートや上着が必要だとか、その時期の気温が20℃を越える本州の人間からすると、どうにも首を傾げる場所のようで。

 これたぶん、いやきっと北海道は小樽のことではないかと。

 作者の瀧羽麻子さんは兵庫県の出身だそうですが、旅行などで訪れたときに着想を得たのかもしれません。

 私も北海道を旅した際には、やはり小樽に行ってみようと決めていました。なんといっても札幌から約35kmですから、自転車でも2時間くらいで行けるのです。

 「なぜ自転車?」と思った方は、私の自己紹介に目を通してくだされば。

 そのときの写真がコチラ↓

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運河を挟んだ反対側に倉庫が立ち並んでいます。
人が近くにいない場所を選びましたが、運河近くには人だかりが見えます。

 札幌から日帰りで行ける範囲にあるためか、観光地として賑わっているのはもちろん、倉庫などを利用した街は適度に静かで、歩くだけでも楽しかったと記憶しています。

 作中では街の名前を明言していないものの、自分にとって思い出ある場所を舞台にしているとは、本を手に取るまで知りませんでした。

 オルゴール店を訪ねる客たちも同じで、始めから目的を持っていたわけではなく、たまたま目についたとか、向かいにある喫茶店に入った流れで、という偶然の来店です。

 しかし、彼らは私と同じように、意識せずとも引き寄せられていたのかもしれません。

 店主のオーダーメイドが良い例で、指定せずとも思い出の曲をオルゴールに組み込み、それを聞いた客の心は動揺します。
 受け取ったものから頼んだのとは別の曲が流れたら、誰だって「え?」となるでしょう?

 ですが店主の組み込んだ曲は、決して客と無関係ではないのです。

 オルゴールの音色そのものは静かで優しく、グラスを弾いたような高音の連なりは、ときに哀愁さえ感じさせます。
 心が騒めき波立って、巻いたぜんまいが切れるまで、何度も繰り返されるのです。

 本作に収められた7つの章の中で、私は特に地元に暮らす、とある客のエピソードが好きです。

 いずれこの土地を去っていく人間と親しくなっても、不毛なだけじゃないか。かといって、一生ここで暮らそうと思い定めている相手と地元愛、、、を確かめあう気にもなれない。

『ありえないほどうるさいオルゴール店』 瀧羽麻子 第3刷 186頁

 この心情に「わかる」と理解を示すのは失礼かもしれませんが、もしかしたら死ぬまで周囲との関係が変わらないのは、息が詰まると感じる一瞬もあるように思います。

 その客のために作られたオルゴールの音色は、そのままでいいと語りかけるようにも、そっと背中を押すみたいにも感じられます。続く結末も含めて、とても気に入ったエピソードです。

 こうしてnoteで本作の読書レビューを見かけたのも、たんなる偶然に過ぎないのかもしれません。
 それでも、読んだ人に何かしら感じてもらえたのなら、ここで店を構えるように、書き続ける意味もあるかもしれません。

・おまけ


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