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終末には何もないと誰が決めた?

『終末ツーリング』 さいとー栄 読了レビューです。
ネタバレ:一部あり 文字数:約1,700文字


・あらすじ

 21世紀の真ん中あたり。

 理由は分からないけれど人類は滅びた。

 この物語は崩壊した世界を旅する、人間と人間もどきのお話。

・レビュー

終末いいとこ 二度は来るなよ

 本作はタイトルと表紙から予測できるとおり、崩壊した世界をバイクで旅する2人の物語です。

 最新3巻(※追記あり)においても世界崩壊の理由は定かではなく、なぜ主人公のヨーコと人間もどきのアイリだけなのか、それもよく分かりません。

 似たような作品として、つくみず 著『少女終末旅行』や原作:稲垣理一郎  作画:Boichiの『Dr.STONE』が思い浮かびますし、創作の世界だと人類は滅びやすいらしく。

 崩壊した世界をふたたび復興させようとする『Dr.STONE』に対して、本作は2人旅という点でも『少女終末旅行』と近いように思います。

 荒れ果てた場所に栄えていた文明の名残を見るのは、宮崎駿 著『風の谷のナウシカ』でも描かれていますけれど、最新3巻まででヨーコとアイリは生きた人間に出会っていません。

 まだ文明が内包している意味までは失っていないからこそ、2人が訪れる場所には人間の気配が残っているように感じられ、それが堪らなく悲しいのです。


バイク好きホイホイ

 主人公ヨーコが運転するバイクはYAMAHA セロー225を電動化したものだそうで、後継機にあたるセロー250は私も以前に乗っていました。

 人間が自らの足だけで行動できる範囲は狭く、生活に必要となる荷物を運びながらでは、旅に楽しさを感じる余裕はありません。

 同じバイクを旅の友とする作品としては、時雨沢恵一 著『キノの旅』があり、キャンピングカーなら高津 マコト 著『渡り鳥とカタツムリ』と、移動手段は旅にとって重要なのです。

 とはいえバイクとは縁のない方が多いと思われますが、つまりは「自分で漕がなくていい自転車」です。

 吹きつける風の匂いを嗅ぎ、路面から伝わる振動に揺さぶられながら、どこまでも走り続けたい──。

 私のような頭のおかしいバイク乗りは、そんなことを考えながらガソリンの給油を繰り返し、ガス欠という見えない足枷に怯えているのです。

 現代でも短い距離を移動するための電動バイクは存在しますが、本作のように折り畳み式のソーラーパネルで充電できるような機能はありません。

 バイク乗りの夢を具現化したようなバイクが、信号や煽り運転、取り締まりなどのない、ちょっと荒れた道を走っている。

 それだけで本作を読む価値が一部の人にはあると言えます。


いつか覚める夢だとしても

 本作の進行において重要なのが、ヨーコが訪れた場所にまつわる夢や幻を見ることです。

 それは賑わう東京ビッグサイトであったり、海ほたる、モビリティリゾートもてぎと、かつては人と車、バイクが集う場所でした。

 ありし日の光景を追体験し、その夢を見ていたいと思いながらも覚めてしまう。

 戻った現実に広がるのは朽ちた町や施設、乗り物、ロボット、サイボーグであり、彼女たちは何度も夢に取り残されてしまいます。

 『マッチ売りの少女』は夢の中で幸せになった少女が主人公ですけれど、本作は幸せになり損ねた物語であるように思います。

 生きているからこそ旅を続けられる。

 だけどもし叶うなら夢の中に行きたかったのではと感じさせる姿が、現実に苦しめられる今の私たちからすると、ひどく胸を掻きむしられるのです。

 私は人生という旅の終わりに見る夢は、彼女たちが見たような光景であればよいと願っています。


2023/11/2
5巻を購入したので追記

 4巻の最後、あわや主人公が……! という展開で始めて人間が現れたと思ったら実は……でした。

 よくよく考えればアイリと同じように行動できていたわけで、うっすら予感していた結末を迎えてしまい、そういえばと1巻を読み返しました。

 5巻に登場した人物もそうですし、1巻においても「世界に何かが起こった」ということは読み取れます。

 もしかしたら残酷な真実に今後どのような形で近づいていくのか、あるいは語られないままで幕を閉じるのか、今後もチェックしていきたいと思います。




↑ 上記サイトで一部を読むことができます。



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