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背負うだけで、強くなれる気がした

同じ番号を継いだとき、少し誇らしくて嬉しくて、背中から目一杯、その力にあやかった。

#背番号のストーリー

自由に遊べる姉

私の二つ年上の姉、つまり「7人兄弟の5番目の子」は中学時代、バスケ部の副キャプテンだった。

そして私が記憶している中で、彼女のドリブルは贔屓目抜きで心地が良かった。もちろんそのスピードも、多彩さも。

床との距離5cmも行かない低さで彼女がボールを弾ませていたかと思えば、あっという間に相手の身長よりも高くボールを上げ、その目線を盗んだ刹那、相手の股の下をくぐらせてチームメンバーにパス。また受け取ってノールックで別のメンバーにタップパス。

こちらが予測もしないリズムで、予測もしない位置で、華麗にゴールまでつないでいく。

姉がバスケをする姿は何というか、ある一定のレベル以上を習得した者だけに許される「自由な遊び」を見ている感覚だった。

彼女はそのスキルの高さから、後輩からはもちろん、他の中学のチームからも注目されていたように思う。

その姉が着けていた背番号が、5番だった。


ジンクスにすがる私

私も姉と一緒にバスケの練習をしていたのだけど、残念ながら、私は下手くその部類だった。

とにかく試合になると毎回緊張していたし、練習でできていたことでも、私は些細なことでミスを連発していた。

例えばフリーのレイアップやゴール下のシュートチャンス、要は「確実に決めなきゃマズイ」ってときにはことごとくそれを外してきた。そもそも試合のコートに立つだけで軽くパニックになっては明後日の方向にパスを出すし、1回のミスをその試合中ずっと引きずってしまう癖もあった。

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今考えたらパフォーマンスを安定させる方法はいくらでもあったのだろうけど、当時の私はなぜか改善策として、ジンクスじみたことをよく信じていたのだった。

例えば、

ユニフォームの色が青と白の二種ある中、青を着たときの試合はスリーポイントが良く決まる。(青を着る機会が多かっただけ)
お弁当のおかずに唐揚げを入れてきた日は速く走れる。(レンチンで楽だっただけ)
左足首にサポーターを巻いた日はパスが良く通る。(これは謎すぎ)

サポーターに至っては怪我なんてひとつもしてないのに、しばらく着用し続けていたくらい。

ポイントガードとしてある程度形になってからも、とにかく私はメンタル面において、実力以外の何かにすがりまくっていた。



代替わり

だからなのか自分の代になって、スキルに定評のあった姉と同じ背番号5番のユニフォームをもらったとき、私はかなり胸が高鳴った。

そして一番大きな拠り所をもらえた感覚と同時に、嫉妬していたより何倍もの憧れを、この番号の姉に抱いていたことに気付くのだった。
私はこの番号に恥じない動きをしなければならない。何かスイッチが入った気がした。


「……練習しなきゃ。」

このときから私は、より一層バスケにのめり込んでいたと思う。

シュートモーションまでのステップの踏み方、ドリブルの低さ、目線の高さ、パスのライン。
さらには後輩への気遣い、試合中のメンバーへの声かけ。
あらゆる場面で姉を真似し、意識するようになっていた。
(これを見越して私に5番を当てがったのなら、顧問の先生凄すぎる)



最初は単なる形だけだったのに、徐々にその意図も汲めるようになると、純粋にプレーで褒められることも増えた。

冷静にコート全体が見えるようになったし、俗に言う「ゾーンに入る」状態も経験できるようになっていた。チームとしても、練習試合での勝ちの数が着実に増えていた。


姉の型は、次第に私のものになった。
姉の5番も、「私の5番」になった。

いつの間にか私は、姉の背中を追わなくなっていた。


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背番号を継いでいくことは、単に同じ数字を身につけるだけではないと思う。
あのとき確かに、姉と同じ番号のおかげで私には少なからず責任感が生まれたし、はじめの一歩を踏み出すきっかけが得られた。

私たちのチームは、最後の地区大会の決勝戦で惜しくも敗れたけど、平均身長151cmのちびっ子チームにしては、大健闘だった。

背負うだけで、強くなる。

書きながら、また久しぶりにバスケがしたくなった。
私は今でもことあるごとに、「5」という数字を、大事に大事に使っている。






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