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前略 作品、受け取りました #小平奈緒選手

今回の北京オリンピックで、改めて「結果の受け止め方」について、考えさせてもらった気がする。

小平奈緒選手と私

2018年の平昌オリンピックでテレビに映る小平選手を初めて見たとき、私は思わず息を飲んだ。
あまりに顔が私に似すぎているのだ。

何なら7人兄弟の誰よりも、もちろん母よりも、父よりも、ダントツで小平選手と私の顔は似ていた。

気になった最初のきっかけはそれだけだったけど、その人間性や、彼女の綺麗なスケーティングを見れば見るほど、私は彼女のことが好きになっていった。

当時私が仕事で「大型クライアントとのアポをカレンダーに入れ忘れてすっぽかす」という大ミスをやらかし、この上なく叩きのめされていたのとほぼ同時に、彼女は世界新記録を樹立した。

「自分はなんてダメな奴だ」と思うことがあった時、くじけそうになった時、その勝ち続ける努力やスケートへの愛を感じて、何回私は背中を支えてもらったことだろう。

だから今回の北京オリンピックでの雄姿も、絶対に見逃せる訳がなかった。


4年間が38秒に

去年の年末から調子が悪いと聞いていた。500mが始まる直前のインタビューで、「良い感じに調整はできています。あとは大好きなスケートを楽しむだけです」と言う声が、心なしか上ずっているような気がした。何も知らない私は、「さすがに緊張するよな、頑張れ」くらいにしか思わなかった。

500mがスタートしたと思ったら、もう一瞬だった。実況の方が「スタートは良いぞ!!」と言ったっきり、それ以外の言葉は正直覚えてないくらい、あっという間に小平選手の500mが終わった。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。私はただ見ているだけなのに、頭が真っ白になった。

結果、500mは17位、1,000mは10位。


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終了後のインタビューで、彼女が右足首を捻挫していたことを知った。北京オリンピックの直前2週間、練習できていなかったことも、スタート時にいつもとは違う左足で踏み込んでいたことも、その時初めて知った。


彼女は500mが始まる前、一体どんな気持ちで、あのインタビューを受けたんだろう。

自分が怪我をしていて、万全じゃなくて、不安も後悔もすでにあって、でも滑る前からネガティブなことは言えるはずもなくて、応援してくれる大勢の人を前に、連覇が期待されている中で、笑顔を見せて。
勝ちに行くことから、楽しむ姿を見せることに目的を変えた、と捉えるのは、浅はかだろうか。


明確な意図

そんなことを考えていたら、終了後のインタビューの中で、小平選手が自分のスケーティングを「作品」と表現していた記事を発見した。

「ちょっと不格好な作品にはなってしまったんですけど、自分なりの、乗り越える、まさに今を乗り越える滑りができたと思いました」

「悲しい姿を見せることは、同じように悲しくなる人がいると思う。ここまで挑戦したことを自分自身も納得したいし、周りにも同じような気持ちで五輪を締めくくってほしいという思いで胸元で拍手しました」

小平奈緒選手インタビューより

「今を乗り越える作品」という表現に思わずハッとする。彼女は競技がスタートする前から、一度結果を受け入れていたんだ。


たとえ怪我をしていなくてもその重圧は図り知れないのに、この精神力と、この状況でも忘れない周りの方々への配慮に、私は思わず泣きそうになった。

多分心のどこかでは、小平選手に思いっきり、恥も外聞も無く、悔しがって欲しがっている自分もいたと思う。

それでも、

不恰好でも、結果が思わしくなくても、この瞬間を精一杯生きている。
明確な意図を持って、彼女は「今」、競技に向き合っていた。


メダルが取れなかったら終わり、じゃない

これまで、テレビでオリンピックのダイジェストを見れば、必然的にメダル獲得した選手だけがフォーカスされ、私はその情報を追うだけに過ぎなかった。私は確かに、4位以降の選手になど気にもしない人間だった。

でも、今回の小平奈緒選手スケートと、結果の受け止め方を見て、改めて思うのだ。

メダルが取れなかったからもう終わり、なんてことは全くない。その競技に対してどんな意図を持って今後どう付き合っていくのかも、どこを目指すのかも、全て、これから本人が決めていくことなのだから。

この事実は今会社を退職したての私にとって、大いに優しく寄り添ってくれた。
今をどう解釈して、これからどうしていくか。
私も私なりに、考えていこうと思う。





前略
作品、拝見しました。とても勇気をもらいました。私も今を乗り越えるために、もう少し足掻いてみようと思います。
そして欲を言っていいのであれば、またぜひ小平さんの作品が見たいです。
その場所がオリンピックじゃなくても、大きい大会じゃなくても、どこでも良いから、小平選手がのびのびとスケートを楽しむ姿が、テレビや新聞、直接でも見ることができたなら、私はこの上なく嬉しく思います。
引き続き応援しています。

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