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空間をのびのび使うスロベニア|スロベニア日記#3

スロベニアに来て、日本との違いとして気づいたことの一つに、空間の使い方にゆとりがあって贅沢に使っている、というのがある。

生活のなかで私にそう感じさせた例をいくつか上げたい。

洗濯物の干し方
これは大学の課題で洗濯のプロセスについてリサーチしていて気づいたこと。日本では竿やロープがあったら、それにハンガーやハンガーが連なったプロダクトをかけて使うのが普通かなと思うけど、スロベニアではロープに直接干す。もしくは室内でラックを使うにしても、ラックの棒に直接干す。そしたらロープや棒の長さ分しか干す領域として使えないじゃん、って思うけど、それでいいらしい。その分ロープをたくさん渡せばいいという発想。

干すのにハンガーを使っているのを見たことがない。クローゼットに入れるときはハンガーを使っているんだけど、干すのには使わない。絶対ハンガーで干してそのまま入れたほうが楽だと思うけどなあ。生活用品店に行っても、ハンガーが連なったやつとか、靴下とか小物を干す用の洗濯バサミがいっぱい付いてるやつとかは売っていない。


これは想像がつきやすいかもしれない。スロベニアに多く走っている車は空気抵抗が少なそうな流線型で、かつ乗る人も大きい分、車体も大きい。(スロベニアと書いたけど、スロベニアのカーメーカーはないので、ヨーロッパ全体の傾向として言えると思う。ただ私はヨーロッパ全域を見てきたわけじゃないので、スロベニアと書いておく)一方、日本では箱そのもの!みたいな車もよく見かける。さらには軽自動車というオリジナルの規格まで作って、そのなかで最大の空間効率を目指そうとしている。これについては原研哉さんの「日本のデザイン-美意識がつくる未来」の記述がわかりやすい。

「軽自動車」という規準が日本にはある。長さ三・四メートル、幅一・四八メートル、高さ二メートル、排気量六六○cc以下。税金が安いし車庫証明も不要という手軽さゆえ、日本では三台に一台以上が軽自動車である。とりわけ日本が狭いわけでも、日本人の体格が小さいわけでもない。一合徳利四本にも満たない排気量に経済性と合理性を追い求めたのだ。その結果、この規準を最大限に活用しようという長年の工夫が実って、単に小さいだけではない、知恵と技術が凝縮した「四角いかたち」が育まれてきたのである。日産の「キューブ」は軽自動車ではないが、四角いかたちをそのまま設計思想にしたクルマである。おそらくはこれから、世界に認知される「JAPANCAR」のひとつの典型をなす形である。

原 研哉. 日本のデザイン-美意識がつくる未来 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.288-296). Kindle 版.

コンセントの形状
ヨーロッパのコンセントはC型と呼ばれるもので、こういう8cm四方の枠に囲まれた、4cmほどの円形のくぼみ部分に円形のプラグを挿す形式になっている。

円!?、、、円なんて、かわいいけど一番空間効率低い形状が、汎用的な規格に採用されてるってどういうこと!?ってびっくりしてしまった。これまでにも旅行でC型タイプには出会ったことがあるはずなんだけど、住んでみないと気づかないことがあるものだ。3個とか並んでいたらかなり目立つ。日本で使われているA型に比べたらなんて堂々としているんだ。

A型タイプは日本で開発されたものではない。けれど、調べてみたら、大正時代に日本電熱工芸委員会という組織が統一しようという動きが出た際、当時日本ではC型とA型の製品が流通していた状況において、A型を採用したらしい。やはり当時の人たちがコンパクトなほうを好んだからなのではないかと思う。

・・・

こういうのを間に当たりにして、
いや、空間効率もっとよくできるのでは…!と思ってしまった。

他にも例えば、ライフスタイルが西洋化する以前の家づくりにおいては、日本では布団を使うことによって寝室にも書斎にもなるような家の考え方があった一方で、ヨーロッパでは部屋ごとに役割が明確に定められている。やはりどこか空間への向き合い方が異なる気がして、もう少しその感覚のギャップについて考えてみた。

国一つひとつの面積はそんなに大きくないのに、なぜヨーロッパの国々はこんなに空間に余裕のある使い方をしているのか。逆に言えば、なぜ日本は、世界的に見ると面積はそこまで狭くないのに(上から61番目)随所でコンパクトな空間のなかに最大効率を求めた設計になっているのか。

ここからは私の仮説でしかないのだけれど、大陸に位置し、領土の奪い合いが絶えず、またかつては帝国主義を掲げていた集団の意識として、土地というものは広げようと思ったらいくらでも広げていくことができるという感覚が潜在的に働いていて、それがこういった余裕のある空間の使い方に反映されているのかも?と思った。

対して日本は、世界と比べたときに相対的にこの列島がどれくらいのサイズ感なのかもわからなかったし、四方を海に囲まれて限界は明確。自然災害も多いし全域に安定的に居住できるわけではない。その面積をどう使っていくか、という意識が潜在的に働いていて、ちょっとずつ使っていこうと思って、できるだけ空間効率を高めた設計をしていくようになったのかなと思った。お弁当箱とか、公的機関のスライドとかも、もしかしたら根底に流れるマインドは共通しているのかも??わからないけれど。説得力のある研究とか知ってる人いたら教えてください。

ただ、そもそも家のつくりも日本は小さめなのかなと思って調べてみると、持ち家の面積はそんなにヨーロッパと比べると変わらないみたい。ますます不思議だ。

本当は広い日本の住宅 / NTTコムリサーチ


さいごに、余裕感覚とは関係なく、空間の使い方についてもう一つ。
下の写真は住んでいる家の共用キッチンのカトラリー類収納の引き出しなんだけど、この右側のエリアに注目してほしい。先端側が大きい調理器具が収納されることを想定して赤ラインの仕切り部分を斜めにしておいて、ナイフと小さいスプーンが入っている部分を台形にすることでそのひずみを吸収するという納め方、なかなか日本のプロダクトデザインでは見かけない気がするんだよなあ。わかってくれる人いるかな?

カバー画像は住んでいる家のリビング。クリスマスデコレーションを始めている。今週木曜日にシェアメイト4人で集まって、みんなでもっと飾る予定。楽しみ🎄


参考:四半世紀における電気工学の変貌と発展 1938〜1963 / 電気学会
http://www2.iee.or.jp/ver2/honbu/jec/jec100/doc/jec100-03.pdf

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