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コロナと展覧会と閉じたシャッター

7月18日からの東京都現代美術館での展覧会に参加しています。現在、東京都外への不要不急の外出自粛が出され、4段階のうち最も深刻な「感染が拡大していると思われる」となっている状態です。

ウイルスの脅威の中での再開

参加しているのは「おさなごころを、きみに」展(2020年 7/18〜9/27)。当初予定の会期から一週間ほど遅れたものの、この時期にはめずらしく、ほぼ予定通りの会期だ。ウイルスの危機がなければちょうど東京オリンピックと並走するはずだった。

3月頃に美術館から出展依頼をもらってからの緊急事態宣言発令で作業はストップしたが、6月に感染者数が一桁台に下がったことで突然の準備再開の連絡、そして開催となった。

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今回、自分は「のらもじ発見プロジェクト」のメンバーとして参加している。プロジェクトの活動内容は、ウェブサイトでほとんどが見れる。

のらもじ発見プロジェクトとは
古い町並みにある個性的で味のある文字を「のらもじ」とよび、それを 発見 → 分析 → フォント化 を進めていく活動です。
のらもじとはこんな文字

足を運んでこその美術館

展示を行う際、プロジェクトのチームメンバーの間では暗黙の考え方がある。「現場でしか体験できない、なにかしらをつくる」ということである。

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最初の美術館展示では肉眼でしか味わえないテクスチャを見せるため、風雨に晒されて劣化した看板を運んできて展示したり…

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天井の高い長崎県美術館では、長崎の商店の文字を参考につくった大きなバナー看板を吊り下げたり…

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オーストリアのリンツ市の巨大な郵便集配所跡地では左右幅が20mほどある空間の端から端にTシャツを吊り下げて展示即売会をしてみたり…

場所や展覧会のテーマに合わせていろいろと展示形態を変化させてきたのは、お客さんが美術館に来てまでオンライン上の情報と同じものを見せるのは気が引けるからだ。足を運んで空間の中で実物を見てこその美術館だということが、いつもメンバーの頭にはある。

プロジェクトには形がない

のらもじ発見プロジェクトは「活動」なので、形がない。まちを歩いて看板を探す行為なので厳密には「作品」と言えないし、そもそも「のらもじ」という言葉すら、ただの概念である。もはやハッシュタグのようなものだ。そして、そんな空気のようなふわっとした概念を中心とした活動は、それに関連したほとんどがオンライン上で見れてしまう。

なので「展示する意味はなにか」という問いにぶつかってしまう。その問になんとか回答すべく、毎回オンラインにある情報をオフラインに変換することにチームみんなで労力をかけることになる。

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一方、現在ウイルスの脅威に対して世界中で行われている工夫や対策は真逆だ。これまでオフラインだったものを、いかにオンラインで提供するかをみな知恵を絞って取り組んでいる。ここへ来て、自分たちが逆走していることをほんのり感じながらの作業だった。

サイト・スペシフィックな思考

「サイトスペシフィック」という言葉がある。これは作品とそれが展示される場所を切り離さない考え方だ。

サイト・スペシフィック
芸術作品やプロジェクトの性質を表わす用語で、その場所に帰属する作品や置かれる場所の特性を活かした作品、あるいはその性質や方法を指す。
サイト・スペシフィック | 現代美術用語辞典ver.2.0 より

地域芸術祭などで美しい田んぼの真ん中に彫刻を設置したり、空き家ごと加工して芸術作品にしてしまうなどもそれだ。つまり、美術館やギャラリーの真っ白なホワイトキューブ空間に作品を置くのではなく、場所と作品が一体となることに価値を見出す考え方だ。自分はこの考え方が好きで、とても影響を受けている。

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大地の芸術祭で見た作品

矛盾に苦しむ

パンデミック中に展示空間にお客さんが足を運べない、ということでヴァーチャルギャラリーを公開する動きがある。

これは基本的にはホワイトキューブだ。とても、よくできてて箱庭的なかわいさもあって、わくわくする。(普段見ることのできない「ドールハウスを表示」視点があってとても楽しい)

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一方、サイト・スペシフィックな展示は、当然鑑賞者もその場所にいかないと鑑賞ができない。不要不急の外出自粛との相性がとにかく悪い。

ウイルスの脅威の中ではとにかく外出をせず、家でできることに注力するべきだと自分は考えていた。しかし、この展覧会の再開で大きな自己矛盾にぶつかってしまった。わざわざサイト・スペシフィックな思考で展示をつくり、美術館に来てほしいと考えている自分たちがいる。しかも、外出自粛の状況下では「Art」みたいなものは、最も不要不急とも言えてしまうもののひとつだろう。

当然こんな悩みは自分だけが悩んでるわけではないし、今に始まったことでもない。「Art」は不要不急かもしれないけど、芸術家を大切にするドイツではいち早く緊急支援策を打ち出して作家たちに勇気を与えたのは記憶に新しい。実は不要不急のものこそ、人にとって人を人らしくする大切な要素なのだろうか。

自分には、まだわからない。

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で…結局、何をつくったの?

結局、今回のらもじ発見プロジェクトは、美術館の「シャッター」を使わせてもらった。

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普段の状態の美術館のシャッター

1Fと2Fと合わせて5面ものシャッターを使用し、のらもじを使ったポスター計20枚以上をシャッターに掲示している。サイト・スペシフィックとまでは言えないけれど、美術館の一角が開店前の商店街のようになるはず…。よい場所をおすすめしてもらえてありがたかった。どのようになっているかは、行ってからのお楽しみ。

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ポスターは主にチームメンバーの若岡伸也が制作している


前座をつとめさせて頂きます

実はこれらはすべて展示会場に入る前の通路のシャッター。1Fには大きく「よ」「う」「こ」「そ」の文字を設置しつつ、のらもじ電飾看板も設置。始まる前から、のらもじでお迎えします。(展示室内には、活動の説明しかおいてないのです)

いろいろ書きましたが…
自分たちはいち参加作家でしかない…ということで、やはり東京都現代美術館はじめ迎え入れてくれるみなさんの徹底した感染対策に支えられて参加させてもらっています。実はメンバーは、一度も現場に行っておらず、リモートで準備させてもらえたのも美術館と施工を担当してくれたみなさんのおかげです。本当に感謝しております。

ご来館されるみなさまにつきましては、マスク着用しつつ…社会的距離保ちつつ…ぜひ安全に楽しんで頂きたいと思っています。

2020年7月18日(土)〜 9月27日(日)
10:00〜18:00(入場は閉館の30分前まで)
東京都現代美術館 企画展示室 3F

東京都江東区三好4-1-1


ここまでお付き合い頂きありがとうございました!








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