見出し画像

昼練前の出来事



【あらすじ】

全校集会以降、主人公の相楽悠は柳理央の姿を見かけることなく2週間が過ぎていた。接点がない理央とどうしたら友達になれるのか圭介に相談するも、自分が特殊な環境にいたため全く参考にならない。友達計画を思案している最中に偶然理央とすれ違い…。

【本編】

全校集会以降、彼の姿を見かけることはほとんどなく2週間が過ぎ、段審査の日程が迫る。
合同授業は8組と行うため、6組と関わることはほぼ無い。
友達、弓道部員は1組、2組、3組に集中しているため、6組に用事ができるイベントもほぼ発生しない。

「友達をつくるのって難しいよな」
「なんだよ突然」

圭介が不思議そうな顔をして見つめる。
クラス替えからある程度時間が経ったのにも関わらず、小学生じみた自分の発言に引いた。

「でも、悠の場合はそうだよな。入学時から全中で優勝した人がいるって噂になってたからみんな悠に話しかけるけど、悠から話しかける機会はなさそうだもんな。実際、俺も悠に興味があって話しかけたし。ゴリ系かと思ったら普通すぎて拍子抜けしたけど」

圭介の言葉がトリガーとなって過去の記憶が流れ始める。
幼稚園の頃に通い始めた空手の道場は自分が一番年下だったこともあり、いろんな人が話しかけてくれた。
小学校は幼稚園が一緒だった人を通じて仲良くなり、中学校は大貴と同じクラスで、大貴繋がりでクラスの人と仲良くなった。
友希さんのことも道場の仲間の紹介で出会って、友希さんの方から話しかけてくれた。
思い返してみると、これまで自分から関係を築きにいこうとしたことがない事実に気づく。

「圭介、お前の洞察力すごいな。『拍子抜け』はポジティブに受け取っていい?」
「おう、自信持って受け取ってくれ。プライド高い系イメージしてたから、実物見た時に話しかけやすそうすぎて話しかけたもん」

屈託ない圭介の顔につられて笑った。

「一年の時、俺らクラス違ったじゃん。俺に話しかける時ってどんな心境だった?」
「心境ねえ。全国一位ってそうそういないだろう?ただ興味があって、話しかけただけ。特にないね。誰か友達になりたい人でも居るん?」
「まあ」
「そうなん?もし俺がその人と繋があったら協力するよ」
「ありがとう、でも周りで誰とも繋がりがなさそう。ちょっと考えてみるわ」
「SNSのアカウント知ってたら早いけど、悠はLIMEしかやってないもんなー。これを機に開設したら?アカウント持ってないのお前くらいだぜ」

過去にアカウントを作成したことはあったが情報量が多くて混乱し、すぐに退会したことを思い出す。

「それな、昼練行ってくるわ」

彼との接点がない事にため息が出る。
そもそも自分から関係を築いてこなかった奴が友達になりたいと思って友達になれるのか。
そもそも友達って何だ、いつから友達なんだ。
校舎を出ると太陽が容赦なく全身を照らし、春の残滓ざんしをのせた風に思考が奪われる。
突然後ろから肩を軽く叩かれ、振り向くとそこに彼がいた。

「久しぶり、元気?」

太陽に照らせれている彼の姿は色素の薄さを一層際立たせ、神秘的なものを感じた。
さっきまで彼との接点を思案していたのに、いざ目の前にすると言葉が出なくなる。

「大丈夫?もしかして、僕のこと忘れた?」

至近距離で微笑まれ、あまりの美しさに全身が脈を打つ。
こんなにも美しい人を忘れるわけがない。

「ご…、ごめん。びっくりして…」
「驚かせちゃったね、これから昼練?」
「しようと思ったけど…、気分じゃないからやめる」
「それならその辺に座って話そうよ」

予想外の展開に気持ちと思考が追いつかない。

「理央は…、その…、予定とか入ってない?大丈夫?」
「大丈夫だよ、なんか急によそよそしいね」

緊張した雰囲気を和らげようとする彼の気遣いに申し訳なくなった。
日陰のある場所を探し、近くにある段差に腰をかけて一息つく。

「額の傷は治った?」
「まだ若干残ってるけど、あと数日経ったら完治しそう。その節はありがとうございました」

二人の間に沈黙が流れ、それを破るように彼はポケットから何かを取り出す。

「これあげる」

そう言って渡されたのは、いちごみるくの飴。

「あ…、ありがとう」
「弓道で集中する分カロリー消費してると思うから、これで少しは補えるといいんだけど」

弓道を覚えてくれていたことや自分に対する気遣いに驚きと嬉しさで胸がいっぱいになる。
話したいのに、緊張で話題が出てこない。
大貴と圭介にはいつもどう話して、何の内容で盛り上がっていたのか。
どうして大貴たちには普段通り接することができるのに、彼を目の前にすると緊張するのか。
考えれば考えるほど、底無しの沼から抜け出せなくなる。
彼は話しかける時、過剰に意識していないはず。
ふと横顔を見ると、機嫌が良さそうな雰囲気を感じ取った。
保健室での出来事を思い出す。
機嫌が良さそうな彼を見ていると、嬉しさと心地よさが混在する。
彼のことを、もっと知りたい。

「あのさ、俺…、もっと理央のことが知りたい」

驚いた彼の表情見て、何の脈絡もなく放った言葉に自分自身が驚く。
豪速直球を投げたことを自覚してすぐに後悔した。
穴があったら入りたい、今すぐここから逃げ出したい。
言葉の刃から身を守るため防衛本能で座っていた状態からうずくまる。

「嬉しいこと言ってくれるね、ありがとう」

俯いた顔を上げると、初めて見る満面な笑みに時が止まった。
彼の表情一つで自分の感情や思考がひとりでに動き、コントロールできなくなる。

「今週の日曜日空いてる?手当のお礼がまだだからしたい」
「お礼なんていいよ。その日に審査があって17時前後に終わる予定なんだけど、その時間帯でも大丈夫?」
「大丈夫だけど、疲れない?別の日にしたほうがいい?」
「全然問題ない!」

食い気味に反応してしまったせいか、彼は笑っていた。
笑っている彼の姿を見て自分も笑う。
もっと、彼の笑顔が見たい。
昼休みのチャイムが鳴る少し前に、彼と共に教室へ戻った。

(タグまとめ)
#小説
#オリジナル小説
#恋愛小説
#アオハル
#青春
#一次創作
#平凡
#美形
#美形平凡
#弓道
#LGBTQ
#バイ
#ゲイ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?