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オリジナル小説【全校集会での出来事】


【あらすじ】

主人公の相楽悠は保健室で出会った美形同級生の柳理央が忘れられず、彼を探してみるも見つけることができずに1週間が経過した。全校集会で個人戦優勝を果たしたことから表彰のため壇上に呼ばれたが、学年中に『別れた直後でも優勝する鋼のメンタル』と噂されて困惑していたところに彼が現れて…。

【本編】


保健室での出来事から1週間以上が経過し、それ以降彼の姿を見かけることはなかった。
月1回ある全校集会に参加するため、廊下に出て名簿順に並ぶ。
6組の集団から彼を目で追って探すも、人混みで見つけることができなかった。

「おーい、誰か探してるん?」

前から圭介がやってくる。

「列、乱すなよ」
「か行とさ行なんて誤差やん。ちゃんと前後の人に許可とったから大丈夫。お前ら俺を除け者扱いして許さん」
「いやいや苗字は不可抗力だから」
坂下さかした相楽さがらに続いて烏丸からすまから佐田に苗字変更しようかな。そしたら暗刻あんこになるよな」
「おっさん、前進んでるぞ」

広々とした体育館も全校生徒が集まると圧迫感を感じる。
理事長と先生のつまらない話が続き、3年生に向けた話が7割で内容は進路、受験、生活習慣といったものだった。
始めは意識がはっきりしていたが、先生方の話が段々と子守唄と化していく。
朝練後の副作用か、話を聞いているだけの状況になると眠気が襲いかかる。
頭が次第に重くなり、目の前にいる大貴の背中に預けた。
意識が夢と現実の狭間で行き来する。
話し声が暫時的に遠くなり、保健室での出来事が頭の中で流れ始めた。
優しく柔らかい声、色素の薄い髪の毛と肌、グレー色の瞳、眠ると途端に幼くなる顔。
外見だけでなく、内面の彼を知りたい。

「…、…ぅ。ゆ…、う。悠!起きろ!呼ばれてるぞ」

大貴の背中に預けていた重力を一気に戻され、意識がはっきりとしないまま壇上の方へ向かう。
歩いている最中に飛び交っていた会話の内容が耳に入り目が覚めていく。

「相楽って一年の時からずっと表彰されてるくない?」
「すげーよな。今回も優勝したらしいけど、彼女と別れた直後だったらしい」
「まじ?すげー、メンタル強すぎん?自分だったら試合どころじゃないわ」
「鋼のメンタルよな」

彼女と別れた事実が隣の組に広まってたのは知っていたけれど、2学年ほぼ全員に周知されていたことを今になって気付く。
中学、高校とみんなの前で表彰されるのは素直に嬉しかった。
ただ、今回は優勝よりも『別れた直後』がクローズアップされ、人前に出るのが恥ずかしく、穴があったら入りたい。

「最後、2年6組柳理央」

彼の名前が呼ばれた瞬間、黄色い声援が上がった。
壇上へ向かう彼の姿は重厚感のある雰囲気を纏いながらも足取りが軽やかで、自然と周囲の目を惹きつける。
表彰者が全員揃い、理事長が一言一句読み上げる。
再び名前を呼ばれ、ネタにされるのを覚悟で理事長の元へ歩いたが、笑う人は誰一人もいなかった。
次々に名前が呼ばれ、流れ作業で各々が表彰状、トロフィーを受け取る。
そして、最後に彼の名前が呼ばれた。

「○○ピアノコンクール、銅賞、柳理央」

この場にいる全員が彼の存在を捉えた。
彼の一つひとつの動作が洗練されていて視線を攫っていく。
どんな姿でピアノを弾くのだろうか、弾く姿はきっと絵になるんだろうなと思っていると、彼と視線が合った。
微笑みかける彼に、心臓の鼓動が早くなる。
表彰者一同が横になり、理事長、全校生徒に向けて礼をした。
一足先に階段を下り、彼のことを待つ。
彼の両足が地面についたことを確認して駆け寄った。
3〜4センチほど目線が上がり、下からのアングルでも美形なことにある種の感動を覚える。

「柳くん銅賞おめでとう。ピアノやってたんだね」
「ありがとう、相楽くんも個人戦優勝おめでとう。ピアノはね、3歳の頃から習ってるんだ」

優しい声のまま、笑っているのにどこか苦しそうに感じて、胸が締め付けられる。

「柳くんだと他人行儀みたいだから理央って呼んで」
「同じく相楽くんじゃなくて、悠で」
「わかった。宜しくね、悠」

彼の手を取って握手した。
照れくさそうに笑う彼の姿をみると、氷の王子というあだ名に違和感を覚える。
彼の表情や雰囲気はこんなにも柔らかくて、温かいのに。
元居た列の場所に戻ると大貴は後ろを振り返り、不思議そうな顔をしていた。

「悠、おかえり。柳と何話してたん?」
「ただの挨拶だよ」

そうっと言って、大貴は再び前を向く。
それから数分理事長の話を聞いて、全校集会が終わった。
帰り際、女子生徒の間で聞こえてくる会話が彼のことで持ちきりだった。

「氷の王子がピアノコンクールってやばくない。惚れるしかないよ」
「本当にそれ。しかもあのコンクール難易度高いの知ってる?」
「そうなの!知らなかった。王子が王子すぎて心臓足りない」
「わかるー。今日さ、初めて王子が笑ってる姿見て死にそうになった」

女子たちの話題に共感しながら、鋼のメンタルネタから掻っ攫ってくれた彼に感謝した。

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