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現代医療は楽天スーパーセールをも凌ぐ

その薬、いくらですか?

早速ですが、皆さんは買い物をする時、値札を見ますか?
先日スーパーで値段も見ずにお菓子を買い物カゴに入れている裕福な小学生を見かけたが、私はZARAで服を買う時は値札を必死で引っ張り出して割引値を計算して購入を検討する。
殆どの方が何かを買う時、値段を確認するはずだ。

でも不思議な事に外来で患者さんに”お薬出しておきますね”といった時に
その薬いくらですか?と聞かれた事は一度もない。
なぜ? 保険医療は3割負担で常に7割引の楽天をも凌ぐスーパーセールだからか?
これが入院や手術になると、時々聞いて下さる方もいる。
”大体いくら位になりますか?”と
皆とても申し訳なさそうに尋ねられる。

お金と命、どちらが大切なのか?

入院や手術が必要となった時、自分や家族の容態と共に同じ位心配になるのが金銭的な問題ではないだろうか?
費用はいくらになるのか?入院すると仕事ができないが生活はできるか?
現実には全ての病気が命に直結する訳でもなく、数年後に起こるかもしれない病気の予防や手術で取り戻せる片腕の機能などと、来月の生活費を天秤にかけた時どちらを選択するだろうか?
それでも多くの方が費用も聞かずに治療を受ける事を承諾されるのは、身体にとって必要な治療とお金を天秤にかける事への罪悪感があるからではないだろうか?
自分ならまだしも、家族にとって必要な治療を金銭を理由に断ると、自分が罪人の様な気分になるはずだ。

受診をしたら治療は受けて当たり前という雰囲気

病院を受診した際、こういった雰囲気を感じた事がある方は多いと思う。実際に医療現場では受診だけして治療を断ると”何をしに病院に来たのか?治療をしないなら受診の必要はない”などと言う医師やスタッフも見かけるし、昔ながらの医師の殿様商売と言った雰囲気が根強く残っているのが現状である。医療というサービスを提供する施設に、相談にだけ行く、実際に治療を受けるといった選択の自由はあって当たり前だし、診察代は発生しており、無料相談所よりよっぽど高い。
医療をお金という物差しで計る事の患者さん心理を考えると、医療者側から治療内容の十分な説明と同時に、不用な治療はしないという選択を提示する事も重要ではないかと思う。

結局は信頼で成り立つ医療

では、値段が明記され、選択の自由が確保できれば解決するか?
例えば "癌根治術 500万円 5年保証付 失敗時100%返金保証" 
この広告を見て治療を受けたいと思えるだろうか。
または、外来を受診した際、採血項目のオプションとしてCK-MBは580円、ALPは360円ですが検査しますか?と聞かれて判断できるだろうか。
最近では車の安全機能のオプションですら複雑で必要不用の判断が難しいのに、訳のわからない検査項目など患者さん自身が判断できるはずもない。
結局は受診した医師を”信頼”して、先生が必要と判断した検査を受ける事になる。手術についても同様で、失敗時の保証など何もないが、患者さんは皆様執刀医を"信頼”し身を委ね手術を受けられている。
逆に医療者も責任感と使命感を持って職務にあたる方が大半であり、私の知る外科医師達も皆、保証契約などなくとも自分の術後患者さんにトラブルがあれば、最優先で治療にあたり、また問題なく経過したとしても外来で長期間向き合い続けている。
患者さんは価格もわからないサービスへ"信頼"によりお金を支払っている事を考えると、自分の日常業務に更に責任を持って従事しないといけないと身が引き締まる思いである。

複雑な医療費制度

そして最もこの医療とお金の問題を複雑にしているのは国民皆保険と言う制度ではないだろうか。患者さんの負担が0-3割となるため国民の医療へアクセスするハードルがとても低くなる素晴らしい制度だが、これが非常に複雑で、状況により様々変化する。患者さんで病院を受診した際、初診料、自分が受けた検査代、薬代がそれぞれ幾らでその内何割を支払って最終的な金額となったか正確に把握している人は殆どいないはずである。

では医療者側はどうか?
先程入院患者さんの中には入院費について尋ねて下さる方もいると言ったが、ではその方々に私が何と答えるか、、、正直「わからない」である。
医療を受ける機会の少ない若者は特に知らない方も多いが、入院には高額医療費制度と言うものが適応される。これは収入により上限額が変化する。また同じ病名で入院をしても、入院期間、行われた検査、治療の方法でもかなり上下するし、個室代、食事、おむつなどは保険が効かないため個別で計算がいる。とてもその場で返答ができるものではない。検査費や手術費用についても各項目の金額を細かく把握している医師は殆どいないだろう。
つまりサービスを購入している患者さんだけでなく、販売する側も幾らで売っているか正確に把握していないのである。

メディカルスーパーセールの落とし穴

売り手と買い手双方が値段も分からず商品をやり取りするなどビジネスの世界では考えられないが、現状の医療の世界ではそれが当たり前となっている。
買い手である患者さん側からしても、医療は高いと言う概念の下、いざ会計で支払うのはそのごく一部で"想像よりも出費が少なかった"となるし、過剰な検査があったとしても、健康のための検査が7割引で受けられればわざわざクレームを言う人もいない。一方の医療者側も目の前の患者さんに必要な検査を行う事を渋る事もなければ、患者負担が一部であれば、念の為で検査を追加する。セールで買い物に行くと必ず余分な物を買いたくなってしまうが、まさに常に最低7割引の"メディカルスーパーセール"状態である。これが現代日本の医療費を膨大に膨れ上がらせている根本ではないかと私は考えている。
昨今医療費の問題は大きく取り上げられ、世の中の意識改革は起こってはいるものの、結局個人の立場になると国の医療費を気にして自らや、周りの家族に必要な医療を諦める人はいないし、自分の担当患者への検査や治療を取り下げる医師もいないのである。ここにも命とお金を天秤にかけると、誰しも命を優先する不変の心理がある。

それでも保険適応が年々厳しくなり、検査や治療をある程度限定しなければ病院の運営が成り立たなくなってきている昨今の医療現場をみると、国民皆保険制度の限界も近いのではないかと身をもって感じる。

最後に
最後まで読んでいただきありがとうございます。微力ながら、自分自身の身の回りから少しでも医療をよく出来ればと思い、noteへの取り組みを始めました。一個人の偏った意見ですが、コメントなど頂けると大変励みになりますし、今後記事を書き足していく上で何か医療に関する話題を提供して頂けると嬉しいです。


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