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高枝電動のこぎりの巻 【与太話・2901字】

 伸び放題の木を剪定するというミッションに終わりはない。さすれば、粛々と進めていくしかない。今週は、高枝電動のこぎりに挑戦する。
 先々週は、電動のこぎりなるものを生まれて初めて使ってみた。先週は、チェーンソー(家庭用)に挑戦した。これらの挑戦で分かったことは、木の剪定中にひやっとするような場面が割とあるということだ。まず、刃物は危ない。言わずもがな。そして、はしごは怖い。脚立でも怖い。地面から少しでも浮くと、ふわふわする。
 こんなご時世、怪我でもして病院のご厄介になるのは本意ではない。そこで、なるべく安全に作業できる道具を使っていこうということになった。

・トリセツ

 高枝電動のこぎり、初めて使う道具である。作業を開始する前に、説明書を読む。読んでいくと、この高枝電動のこぎりの説明書に、こんな説明文があった。

「ガードを押し当てながらストロークを稼働させて切り始めます。」

 はてな。この文の意味が分からない。文を分解してみる。

①ガードを押し当てる。
②ストロークを稼働させる。
③切り始める。

 ①をしながら、②をして、③をするという感じか。
 まず、①。ガードを押し当てる。説明書には、高枝電動のこぎりの各部の名称が書かれているページがある。そこを見ると、この道具には「ガード」と名前のついている箇所があった。この「ガード」を切りたい木に押し当てるということだな。分かった。
 次、②。ストロークを稼働させる。「ストローク」という名前のついている箇所があるのかなと思い、道具の各部の名称が書かれているページを見るが、ない。なんだろう。分からない。「ストローク」を稼働させる?

 「ストローク」の意味を辞書で調べる。

ストローク〘名〙(stroke)
①ボートで、水中でのオールの一掻き。また、時間に対する漕ぎ数。
②ボートの艇尾に最も近い漕ぎ手。整調。
③水泳で、腕で水を掻くこと。一かき。
④テニス・卓球・ゴルフなどで球を打つこと。また、ゴルフでは打った打数のこともいう。
※テニス(1923)〈熊谷一彌〉三「総てストロークは、サービスを除く外は、フォワー・ハンドとバックハンドの二つより成る」
⑤往復運動をする機械類のピストンやプランジャーが一端から他端まで動くこと。また、その動く距離。行程。衝程。
※ガトフ・フセグダア(1928)〈岩藤雪夫〉四「ウォシントンポンプが鈍重なストロークで船底をゆすり初めた」
⑥タイプライターのキーの時間に対する打ち数。打数。
⑦ギターなどで、和音を弾くときの、弦をかき鳴らす手の動き。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版(コトバンク)

 ⑤だな。「往復運動をする機械類のピストンやプランジャーが一端から他端まで動くこと。また、その動く距離。行程。衝程。」というところ。

 要は、「ストロークを稼働させ」の意味するところは、「電源を入れて」ということですよね。
 説明書の他のところでは、「稼働スイッチ」とか「スイッチを押して稼働」と書いてある。それなのに、「ストロークを稼働させ」と急に出てきたものだから、「ストローク」という名前の箇所があるのかなと思うではないですか。思わないですか。私だけか。

 いや、分かるのですよ。意味は分かるのです。いや、正直にいうと、意味が分からなかったのです。いや、でも、分からないことはないのですが。
 「いやいや、この程度のことは説明書なんか読まなくても分かるでしょ?」と言われたら、「んぐっ」となります。説明書は、読みたい。近頃は説明書が付いていないものも多くて、難儀することもしばしばあります。

・説明が欲しい

 例えば、このキティちゃんのストラップ。

 キティちゃんの頭のところにぶら下がっている小さな黒い棒、何だかご存じですか?
 これはイヤホンジャックカバーとか、イヤホンジャックキャップとか、イヤホンジャックアクセサリーと呼ばれるものです。スマホなどのイヤホンの差込口に挿入して使うものです。
 説明書には、小さな部品が付いているので小さなお子様が飲み込まないように気を付けてねということは書いてあるのですが、この小さな黒い棒の使い方については何も書いていないのですね。だからこれが何なのか分からなかった。私だけか。
 こういうのは、まあ別にどうでもいいといえばどうでもいいのですが、全く気にならないといえば嘘になります。気にしない、気にしない、でも気になるな、といった感じです。

・未知との遭遇

 いつの放送だったかは忘れてしまったのですが、テレビで落語を聴いていたら、こんなお話がありました。桂伸治お師匠さまの「粗忽の釘」の枕の部分です。

 ……うちの師匠がね、そそっかしかったんですよ。十代目文治。われわれ、いろんなところからお仕事をもらってね、あるプロダクションから師匠のところへ電話がかかってきましてね、「もしもし、文治師匠ですか。来月の3日なんですがね、銀座のクラブの余興をお願いしたいんです。よろしくお願いいたします」、ガチャンと切った。前の日になりますとね、確認の電話ってかかってくるんですね。「もしもし、師匠ですか。この間お願いした銀座のクラブ、あれ、キャンセルです。よろしくお願いします。すみませーん」、ガチャンと切ったんだね。当日になって、うちの師匠が、銀座中を、「キャンセル」という店を探して歩いたんだそうです。これ、伝説になっております……

 十一代目桂文治お師匠さまが、「強情灸」の枕で同じ話をしているのを聴いたことがあります。

 ……うちの師匠は江戸っ子でしたからね、内弟子だったから、もう悪いところは全部見てますよ。うちの師匠は、「ごめんなさい」「すみません」、言いたくない師匠でね、江戸っ子ってのはしょうがないもんでね。今はなくなったけど、キャバレーなんてえのが全盛でね、昔、ロンドンなんていうキャバレーが銀座にあったの。そこの余興を頼まれて、何かの都合でその仕事がなくなっちゃって、プロダクションから謝りの電話がかかってきて、「師匠、すみません。本日のキャバレー・・・」「はい、よろしく頼むよ」「実はあの話はキャンセルになりましたんで、あいすいませんが、よろしくお願いします」「ああ、そうかい。分かったよ」って電話を置いてさ。その晩、雨の降る銀座を、「キャンセル」という名前の店を探して歩いてたの……

 なんかこれ、「キャンセル」という名前のお店を探すほうの気持ちも分からないではない。例えば、「キャンセル」ではなくて、もし「リスケ」と言われたら、「リスケ」という名前のお店を探してしまうかも。「利助」かな、「理介」かな。それとも、「鳥介」かな。スケテンテン、私だけか。
 格子状に走る道がどれも同じに見えて、帰り道が分からなくなる銀座。あの銀座のビル群の縁に所狭しと輝く、揉み合い競り合いを勝ち抜いた、色とりどりのクラブの看板の灯りの中から、一つの店を探し出そうとするのは大変だったでしょうね。

・本題

 さて、話を戻します。高枝電動のこぎり。

 朔風、激しく吹き荒ぶ。

 これはもう少しイメージトレーニングしてから挑戦しようと思います。

 炬燵に蜜柑。冬至は柚子湯。
 作戦を練りながら、一陽来復を想う。

 へたれ。

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