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イスを変えたら学習効果は高まるの?ーー新座キャンパス図書館で、バランスボールを貸し出してみたら・・・

立教大学ボランティアセンターでは、学生が身近に感じる社会的なバリア(障壁)や課題に着目し、その解消を目指す「バリアフリープロジェクト」に今年度から取り組んでいます。

今回は、大学内の学習環境(設備)による”学習姿勢(身体的な疲労や痛み)への影響”に着目した「慣行のバリア」チームが、1/17(火)〜24(火)の8日間、新座図書館 2階しおり(ラーニング・コモンズ)にて、「ストレスフリーな学習空間の検証」を実施しました!

学生が作成したポスター

バリアフリープロジェクトって何?

ボランティアセンターが今年度から取り組んでいる「バリアフリープロジェクト」は、学生が身近に感じる社会的なバリア(障壁)や課題に着目し、その解消を目指す取組みです。

5月下旬からメンバーを募集、8月に実施したキックオフミーティングを皮切りに、【事物のバリア】【制度のバリア】【慣行のバリア】【観念のバリア】の4チームに分かれて、それぞれが感じる「社会のバリア(障壁)」の解消に取り組んできました。

8/2に実施した「キックオフミーティング」では、身近にあるバリアについて共有した

大学内の教室にある机や椅子は、”当たり前”?

「観念のバリア」をテーマにしていたこのチームは、まず日常生活で自分たちが感じるバリアを共有することから考えを深めていきました。

そこで着目したのが、「机と椅子が整然と並べられた各教室で椅子に座ったまま学習するという習慣・日常」です。
もちろん大学の各教室は、多くの学生が快適に学習できるようにデザインされているのですが、学習場面によってはグループワークなどの協働学習を実施しづらいこともあります。
また、大半の学生が快適に利用できていたとしても、身体的・個人的(特に少数派)な特性と机や椅子など設備が合わないことで、疲労や痛みが生じたりすることもあるのではないかということについても想像を巡らせました。

昨今は、コロナ禍の影響に後押しされる形で、社会的にリモートワークが普及・定着、それと同時に「作業姿勢」の改善・見直しにも注目が集まっており、環境の改善によって集中力をあげたり、ストレスを軽減したりすることの重要性は社会的にも認められてきています。

そこで、「観念のバリア」チームでは、本学の学習環境においてストレスフリーな状況を整備することを目指し、そこで使用されている備品やその配置などに変化を加えることへの挑戦をスタートさせました。

”既存の学習環境”に潜む「バリア(障壁)」って?どう調査すればいいの??

まず取り組んだのは、その学習環境をどのように変化させればより良い効果を生み出すのかを検証することです。
当初は学内外でWebフォームを用いたアンケート調査を実施し、これまでの学習の場での経験(小学校〜大学)を聞くことで、良いと感じた学習環境を把握しようと取り組みました。
しかし、従来の学校で「良い」とされる学習環境には、机や椅子などの備品だけでなく様々な要因が絡んでいます。そのため、具体的に「何」が学習効果に対して良い影響を及ぼしているのかを特定することができないのではないかという課題に直面しました。

Webアンケートでできる調査の限界を知ったことにより、調査の場をオンラインから実際の現場へと変更することにしました。
元々自分たちが日常的に使用している学内の学習環境から、解消したいバリアを設定していたことに立ち返り、立教大学内のどこかのスペースを使用することで、実際にその空間の備品に変化を加えた実証実験を行うことができないかと考えました。

どこで実証実験をすれば良いの?

イメージの整理

学生たちは、実際にキャンパスを歩いて実証実験ができそうなスペースを探しました。
「そもそも人が集う場所でないと検証できない」「そこに人が集っていたとしても学習効果を検証する場として適当なのか」「そもそもそこの備品を変えられるのか」「検証の許可をもらえるのか」など、検証のイメージが具体的になるにつれ様々な疑問や課題が出てきましたが、いくつかのスペースを検証場所の候補として絞ることができました。

その後、自分たちの目的や検証イメージ、そして目指すものを落とし込んだ企画書を完成させます。
さらに、ボランティアセンターを通し、候補となった施設を管轄する担当部署に打診し、検証実施に関する提案の場をいただけました。

ここでの提案を経て実現したのが、池袋キャンパスにある「メーザー・ラーニング・コモンズ」での検証です。
この検証については、すでに別の記事にて公開していますので、そちらをご覧ください。

新座キャンパスでの検証へ・・・!

これまで、池袋・新座の学生が同時に検討・準備を進めてきましたが、先に池袋キャンパスでの検証が決まったことで、キャンパスごとの動きが明確になり、それぞれ独立した活動も多くなりました。

新座キャンパスでは、それまで施設内の通路脇に設けられた机・椅子のあるスペースでの検証を検討していましたが、池袋での検証を参考にしつつ、学習空間として設置されている場での検証を目指した結果、「新座図書館 2階 しおり(ラーニング・コモンズ)」を候補とすることになりました。

ボランティアセンターを通して設定した新座図書館ご担当者との打合せで実際に提案したのが以下のような内容です。

いざ提案!その検証の内容とは?

もともと授業を受ける時に学習環境に着目するところからスタートしたこの検証ですが、池袋キャンパスの企画チームは、検証場所である「メーザー・ラーニング・コモンズ」の特色・利用実態も踏まえながら、「協働学習」と学習環境の影響を検証しました。

それに対し新座キャンパスの企画チームでは、検証の前提として「個別学習時」に以下のような課題が生じるのではないかと考えました。

1.身体的な特徴・個人の特性の差異から生じるストレス
現在の教室環境においては、車いす用の席(空間)を除き、学習者が使用する机や椅子の選択肢はほとんどない。
しかし、身体のサイズや骨格などは皆一様ではなく、それぞれ差異があり、身体的なしょうがいによって既存の机や椅子を使用することで痛みや精神的苦痛が発生する場合もある。学習環境の多様化においては、既存の机や椅子が想定する身体モデルと異なる状況に置かれている学生に対しての支援が求められる。

2.机や椅子の固定的な配置による学習者の活動の制限
⻑時間の連続的な学習において、既存の机や椅子では学習者の姿勢の変化をつけることが難しい。学習姿勢の制限(固定化)は、エコノミークラス症候群に代表されるような悪影響を身体に及ぼすため、学習効果や集中力の低下を招く一つの要因であるといえる。

これらを改善していくために設定した企画の軸が以下の2点です。

  • 既存の学習環境において、身体的な差異に対応できるような備品の選択肢を確保し、学習者が自身の状況に合わせて使用備品を「選択できる」ようにすること

  • ⻑時間の連続的な学習を想定し、学習姿勢を制限・固定化させないような備品(椅子)を設置すること

この2点を実現させるため、「新座図書館 2Fしおり(ラーニング・コモンズ)」において、その場を利用する学生に対して「バランススツール」「バランスボール」「クッション」の貸し出すことはできないか、という提案を新座図書館のスタッフの方にさせていただきました。

学生が事前に準備した資料

実施目的から実施内容まで企画の詳細を記載した「企画書」のほかに、実際に備品を貸し出す際に使用したい「貸し出し表」、検証の肝になる「アンケート」など、事前に実施時の動きなども確認し、資料に落としこんだことで、提案時により具体的なイメージを共有することができました。
その後、新座図書館のスタッフ全体で協議してくださり、無事検証実施が実現することになりました!

検証スタート!・・・利用した学生の反応は!?

検証期間は、新座図書館の利用者が増加する試験前期間に設定し、休日も含む8日間実施しました!

貸し出し備品の種類

実際に貸し出しを行った備品は以下の通りです。

  • 「バランススツール」×2
    座面が前後左右にフレキシブルに可動するため、自分に合った自由な体勢で学習することができます。机の高さに合わせて、上下にも可動させることができます。

  • 「クッション」×2
    既存の椅子の上に置くための低反発クッションです。人間工学に基づいた三次元形状となっており、お尻にかかる負担をやさしく受け止めながら、自然な姿勢で座れることができるようになっています。

  • 「バランスボール」×2
    体幹を意識しながら座ることができ、体勢を自由に変えることができます。体勢を工夫すればその座り方の種類は無限大です。高さ(大きさ)を変えた2種類を用意しました。

貸し出し場所に置いてある備品

利用手順

各備品は、以下のような手順で利用することができるようにしました。

〜借りるとき〜
(1)「グループ学習室4」から借りたい備品を選ぶ
(2)受付カウンターで、貸出表に「備品のID」「利用開始時間」を記入する
(3)「アンケート」を受け取る
(4)手続き完了!備品を借りて利用開始!

〜返すとき〜
(1)受付カウンターで、貸出表に「返却時間」を入力する
(2)記入済みアンケートを提出する
(3)借りた備品を「グループ学習室4」に返却する

備品貸出

検証時の様子

検証期間中は、企画学生が毎日検証場所を訪れ、備品のメンテナンスを行いました。検証初期は、貸し出しを行っていることの認識がなかなか広まらず、ポスターを貼る場所を増やすなどして広報を強化しました。

また、検証終了後に、貸し出し手続きをしてくださったスタッフの方などに利用学生の様子をお聞きしたところ、効果を実感してリピーターになっていた方や新座図書館1階に運んでまで利用してくださった方がいたそうです。
検証が終わってからも「備品を借りたい」という声があったそうで、想像以上にニーズがあったことを実感しました。

★アンケート結果から分かったこと

今回の検証では、利用者の方にアンケート調査への協力をお願いしていました。
ここでお聞きする情報に加え、「貸出表」に記入する「備品ID」「学部・学科」「学年」「利用開始時間・返却時間」を整理することで、学習空間におけるストレスの実態と実際の効果を明らかにしていきます。

実際に配布したアンケート

ここからは、アンケート調査で得られたデータの一部をご覧ください。

a.回答者の属性

検証期間中に、備品(バランススツール・バランスボール・クッション)を利用した学生は、29名でした。
利用学生の所属学部の偏りは少なく、大学院生の利用や普段池袋キャンパスに通っている学生の利用もありました。

b.貸出日ごとの利用備品数

検証期間中で最も貸し出し(利用)数が多かったのは、19日(木)でした。
全体を通して、「クッション」の利用者が最も多く、次いで「バランスボール」の利用者が多かったです。

c.貸し出し用の備品を借りようと思った理由

今回の検証では、「既存の備品を変えたい(別の備品を借りたい)」と考えている人に焦点を当てるため、あえて備品をあらかじめ変えておく(設置しておく)のではなく、「貸し出し」という方法をとりました

利用者からは「既存の備品を変えよう・別の備品を借りようと思った理由」として、以下のような意見が寄せられました。

・姿勢が悪くなってしまうのが悩みだったので、それを解消したいと思った
・長時間座るとお尻が痛くなるのを解消したかったから
・腰の位置が悪いのか骨盤を痛めることがあったため
・気分転換のため。固い素材の椅子に座ると、お尻がよく痛くなってしまうため試してみようと思ったから
・ストレスが軽減されると思ったから
・図書館の椅子が硬くて座り心地が悪いから
・今日の気分的に新しいことをしてみたかったから
・前回借りて良かったため
・広告を見て興味をもった。海外の企業などで立って仕事をする、バランスボールで勉強するといったことを知り、実際にやってみたいと思っていた

※回答の一部

身体への影響を期待している声が多かった他、精神的な影響を期待する声も複数ありました。
また、実際に利用した方が、その効果を実感して別の機会に再び利用するということもありました。

d.各備品を選んだ理由・期待した効果

利用者が各備品を選んだ理由・期待した効果として最も割合が大きかったのは、「身体疲労の軽減(=26.8%)」で、次いで「環境の変化(=25.6%)」でした。
元々想定していた「身体疲労の軽減」「身体の痛みの軽減」は、どの備品でも高い割合を示していますが、その2点以外にも「環境の変化」「色やデザインが魅力的」など、精神的な面における効果を期待して利用した学生も多くいたことがわかりました。

e.各備品を使用して感じた効果・いつもの学習との違い

全ての備品において、実際に「疲労軽減」「痛みの軽減」があったという回答が多く得られました。
また、「バランススツール」や「バランスボール」といった既存の椅子の代わりに使う備品については、「姿勢が自由になった」という回答の割合が大きく、既存の椅子よりにはない効果をもたらしていたことがわかります。

一方で、「疲労が悪化」したという回答もありました。
回答者の自由記述には、「姿勢よく座れてよかったです!しかし、椅子の高さがちょっとアンバランスでした。椅子の座高を変えても、机が低くちょっと合わなかったです」と書かれており、今回貸し出しを行った椅子と既存の備品(机)などとの相性による問題が生じていたこともわかりました。

「利用前に期待した効果と利用した後に実感した効果」を整理すると、以下のようになります。

・身体的疲労に対して期待していた人(22/29人)
→使用後、疲労が軽減した人(27/29人)
・身体的痛みの軽減を期待していた人( 9/29人)
→使用後、痛みが軽減した人(15/29人)
・姿勢の自由度に期待していた人(6/29人)
→使用後、姿勢の自由度を感じた人(13/29人)

貸し出し備品が利用者にとって、期待通りの効果を与えただけでなく、より多くの人に期待以上の良い影響をもたらしていたことがわかりました。

★アンケート結果を踏まえて考えたこと

①日常的な学習環境から生じるストレスの存在を確認!

検証の結果から、利用者の約半数は、学習時の身体的疲労または精神的な気分転換を求め、既存備品の変更(貸し出し備品の利用)を望んでいました。
さらに、貸し出し備品の利用によって、「疲労軽減」「痛み軽減」に繋がったと回答した方が多かったことから、この企画をスタートさせるうえで想定していた「日常的な学習環境において身体的または精神的な要因が学習時のストレスになっている」という状況が実際に存在していることを確認することができました。

「疲労」及び「痛み」が軽減された部位を見ると、全体の割合としては疲労が軽減した部位として「尻(=30.0%)」「腰(=25.0%)」と続きます。
また、備品を使いたいと思った理由として「レポートや課題勉強による上半身の疲労を感じやすい」と身体的疲労を訴えた人もいました。
これらのことから、日常の学習空間では、主に「尻」や「腰」に対する負担が大きく、疲労や痛みを生じさせていることがわかりました。

②本学の授業時間(=100分)に適した学習姿勢についての考察

授業時間の100分を基準に、利用時間が「100分以上」「100分未満」に分けて以下のように効果に関する回答を抽出しました。

※頭・目・首については回答がなかった

「疲労軽減」については、「100分以上の利用者(n=14)」の方が、「100分未満の利用者(n=13)」に比べ、大きな効果が出ていることがわかります。
「痛みの軽減」については、回答者の母数に偏りがあるものの、「100分以上の利用者(=9人)」に対して効果が大きかったことがわかりました。

★学生はどのような学習空間を求めているのか

ここで挙げたデータは、今回の検証で得たものの一部ですが、検証全体を通して、以下のことを確認することができました。

備品を自由に”選択する”ことができる空間

備品を選んだ理由として、「身体疲労の軽減」「身体の痛みの軽減」と回答した人を合わせると39%にものぼることがわかりました。
もちろん各教室や施設は、多くの学生が快適に利用できるようにデザインされているわけですが、あくまでも多数者に適したデザインであり、そこに含まれない少数者にとっては、自身の身体的な特性との相性が悪く、それ故にむしろ疲労や痛みを生じさせてしまうバリア(障壁)に他なりません。

一方で、今回の検証では、備品を利用した目的の2番目に「環境の変化」があがりました。この備品の選択は決して「身体への疲労・痛み」を感じている少数者のみならず、精神的な効果を求める人にも良い影響を及ぼしていたのです。
「ラーニング・コモンズに限らず、既存の椅子を変えられる選択性があった方が良いと思うか」の設問に対しては、9割以上の学生が「はい」と答えていました

このことから、学習環境における椅子などの備品について「選択性」を実現することが、身体的ストレスを感じている少数者を含めた多くの人にとってよりストレスフリーになるのではないか、学生が求めている学習環境となるのではないかと考えています。

今回の検証では、上記の他に「集中力の低下(精神的バリア)」「学習時の椅子・机の高さと身体の不一致」などについても課題として確認できました。
ここで得た回答や気づきをもとに、これから立教大学の学習空間をより良くしていけるような提案をしていきたいと思います。

検証に協力していただきました、新座図書館の皆様、利用者の皆様、ありがとうございました。