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どこにいても何かを思い出す


 地元民になるコツはこうだ。

 見知らぬ街並みに沿って気の向くままにあっちへ行ったり、こっちへ行ったり、時には少し戻ったりもして目に焼き付けておく。空気の振動に乗って漂ってくるゆるやかな人々の波長もしっかりキャッチする。

 ここでは大通りでも、信号が赤でも、車の流れを見て渡っていいのか。今日は晴れてるからみんな足並みを揃えてビーチに向かっているようだ。こんな嵐のような雨の日にでもバレンシアの試合にはちゃんと足を運ぶのだな。

 それから、街角の、見晴らしのいい場所にあるカフェを見つけたなら迷わず飛び込む。頼むのはcon leche、カフェ(コーヒー)にレチェ(ミルク)を入れた日本で言うところのカフェラテみたいなものだ。cafe soloを頼むとエスプレッソが来てしまう。

 天気が良ければテラスの席に座って、ただ座っている。いつもの友人との会話に花を咲かせる者もいるし、何かが起こるのを待っている者もいる。店員とamigo(友人)、もしくはhermano(兄弟)になれればもう立派に街の一部だ。

 何もしないをする、なんて贅沢な時間だと思って座っていると、このカフェからすぐ目と鼻の先にある小学校の下校時間らしく、親、保護者の方々がたくさん門が開くのを外で待っていた。とは言っても、かれこれ30分近く待っている気がする。あるいは、近くのカフェにいてだらだらとやり過ごしていたりもする。

 それで、「どうしてそんなに待っているのか。」と聞いてみたら、「どこにいても一緒だろ、待っているのは待っているのだから。」と言われて、そうかと思った。


 今いるアカデミーには、あらゆる国からスペインで上を目指そうと意気込んで来ている年頃のchico(男の子)たちがたくさんいる。そして、そのほとんどは現状に満足していない。自分には才能があると思っているし、もっとここ以上の場所が与えられるべきだと思っている。

 しかし、スペインにおける彼ら(もちろん自分も含めて)の実績は全くないし、クラブ側、クラブにアテンドするエージェント側からしても実力はほとんど知らないに等しい。

 この葛藤に対する反応はそれぞれであり、これもまた一興であった。

 早くに寮を出て自分の生活を確保し自律の中でコントロールする者もいるし、周囲にも気を遣ってリーダーシップを発揮し己の存在価値を表現する者もいる。あるいはサッカー以外の場所で、つまりは自分で書いたリリックを音に乗せて作曲したり、グラフィックでTシャツを作るなどと言い出したりしてうまく遊んでいる者もいる。

 一方で、やはり大半は現状に対する不満を顕にしてしまうことが多い。練習参加先のクラブを替えてくれ、なんでこのレベルで試合に出なければいけないんだ、などという類のものは日常茶飯事だし、練習や語学学校に来ない者、来ても適当で済ませてしまう者もいる。

 しかし、そういった問題をチコたちが抱えるのは当然のことだと思った。まだ彼らは18,19、もしくは16といった年頃で、ここにやってくるお金だって全て親が面倒を見てくれている。

 22の自分がここに来て感謝したのは、大学での4年間だった。日本一を目指している大学の4年間がどれほど厳しい環境だったか。それに文句を言っている暇もなく、それだけひたむきにやっても結果が出るとは限らないというまた厳しさ。

 ただ自分の中にある感情は、今ここでサッカーができていることへの喜びと感謝だけである。そして、この初心を忘れてはいけないと、練習帰りの車の中で反芻する。

 厳しい環境と要因はどこにでもある。あることには目を瞑ってやり過ごし、あることには死んでも食らいついていかなければならない。

 今ここには、スペイン語の単語帳とスパイクと筋肉痛の身体がある。これだけで戦っていくには十分である。

 それ以外のことは、考えてもしょうがない。実際のところ、どのクラブに行こうが、人から称賛されようが、それは全てあってないようなものである。上に行くのも下に行くのも、決めるのは自分ではなく、そんなものに心を動かしても意味がないのである。

 どこにいても自分のやることには変わりはないと、時にはそんなことをカフェにいて教わることもある。

 問題は、忙しくなっているうちにそんなことにも気が付かず、自分もうっかり騙されてしまうことだ。

 そうならないようにと、神様はコーヒーを用意してくださった。特に、食後に1杯のコーヒーを飲むことは、何にも増して僕の目を開かせてくれる。カフェインと、空白の時間による効能。

 スペインにいると、つい信心深くなってしまうが僕はカトリックではない。その代わりにコーヒーは好きだ。

 それから、できれば自分の好きなコーヒーを好きな時に淹れることのできる、自分の家が欲しい。


Hostia!: マジかよ!、クソ!




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