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2021年インプットまとめ(書籍編)

こんにちは、りきくんです。せっかくnoteを作ったので去年自分がいろんなものを観たり聴いたり読んだり遊んだりして感じたことをまとめようと思いました。

実際色々書き起こしてみたらめちゃくちゃ長くなってしまったのでメディアの種類ごとに分割して投稿します。自分は文学的であるという見栄を張りたいので初回は本の話です。

ノンフィクション

Matthew Collin - 『RAVE ON』

2020年明けに読み始めてからちまちまと進めてようやく去年の春に完読しました。出張で訪れていたロンドンでふと入ったレコ屋に置いてあったのを衝動買いしたという、出会いにもちょっとした思い出がある書籍です。

筆者Matthew Collinが自ら世界各地のクラブやフェスに赴いて現地の主要人物をインタビューしたりしてその地域のダンスミュージックの歴史を語る本です。文化的な時代背景には留まらず、例えばデトロイトについては自動車産業の崩壊による経済悪化を説明した上でアンダーグラウンドなカルチャーとして生まれたものがテクノであることや、ベルリンでは冷戦終結と壁の解放で新しく東西の文化交流が開花したことなど、場所によってはコミュニティの政治状況という文脈をしっかりと紹介しているのがとても印象的でした。現行のダンスミュージックは割と無思想的・非政治的なものが主流になってきているかと思いますが、元を辿れば人種やセクシャルマイノリティの差別に対抗するカウンターカルチャーであったことを当事者の目を通して改めて感じさせられました。

(残念ながら和訳はなさそうです。)

さのかずや - 『田舎の未来』

さのかずやさんの7年に渡るブログを一冊の本にまとめたものです。普段からツイッターnoteで活動を拝見させていただいていたのでトーチのウェブストア開設を機に買いました。

本人が試行錯誤しながら様々な事業や活動を経て田舎での創作、経済、生活などについて語る様子はストリートっぽいリアルさというかカルチャーという概念の真髄を感じさせらせます。さのさん行動力マジですげぇって素直に関心すると同時にそれは自分への葛藤ともなり、田舎とまではいかないものの札幌という地方で音楽活動する身として創作とどう向き合うのかと自分へ問いかけるきっかけにもなりました。

宇沢弘文 - 『社会的共通資本』

さのかずやさんレコメンで購入しました。

コモンズ思想の入門書という感じで文中の主張もそんなに強くなく読みやすい反面、個人的には既存の社会問題や課題に対しての批評が弱いというか物足りないというか、論を落とし込む具体的なコンテクスト提示が欠けている気もちょっとしました(今友人に貸し出していて手元にないので確認できず、自分の読解力が至らなかっただけの可能性も大いにあります)。とは言いつつ政治・経済において日本語での教養がほぼない自分にとって勉強になりました。

宇沢弘文の思想をコロナ禍という現代に当てはめた下記の記事が上述の自分が感じた物足りなさをうまい具合に埋め合わせてくれたので共有します。「UBIがうまくいかない理由」は目から鱗でした。

斉藤幸平 - 『人新生の資本論』

アジカンのGotchが著者インタビューをツイートしているのをみて知り、記事に共感できる内容が多かったので本書を手に取りました。

初手から「SDGsは「大衆のアヘン」である!」というめちゃ挑発的な発言で始まりおったまげました。要は現行の資本主義的思想に則り利潤拡大を目的としたDevelopment(開発)はSustainability(持続可能性)とは根本的に対立しておりSDGsという概念自体が矛盾を孕んでいるため地球環境変動に対して有効な対策にはなり得ないということなのですが、続く章で論だけでなく統計データなどを用いてその考察を展開していきます。自由市場に任せっきりでは環境変動の軌道修正は無理だというのが本書の主張です。

全体的に環境問題と資本主義の関係について自分が既に持ち合わせていた思想からそこまでかけ離れたことは書いていなかったので個人的には納得しやすかったですが、人によっては衝撃的というか受け入れ難いことも多い内容なのかなと思いました。しかしそういう人たちからこそ感想を聞いてみたい気持ちだし、自分の知識では及ばない視点や批評がたくさんあるはずなのでいろんな人に読んで欲しい一冊です。前述のインタビューでも掲題されていますが、資本主義社会の中では既存権力構造以外の世のあり方を想像することすらできなくなるというのは身の回りの人との会話などでひしひしと感じていて、失われている想像力を養うきっかけがこの本にあるのではと考えています。

ちょっと余談になるのですが、本書と2021年に出会えたのが特に意味あることとなったのがNFTブームです。海外ではすでにNFTに対する課題点、問題点が様々な場所で論じられていますが、日本ではその批評がされないまま広まり、海外にも人気がある日本IPや国内クリエイターがNFT進出を発表しては海外ファンの間で大炎上して取り消す、という事例をすでにいくつか見かけています。

ここで話すと長くなってしまうのでNFTの問題点についてこちらのnoteがわかりやすくまとめているので読んでみてください:

要約するとNFTは環境問題に加担しているだけでなく資本主義の良くないところを極限まで加速させた利潤・投機のシステムとしか個人的には感じられず、『人新生の資本論』の中では直接の言及はないもののNFT及び仮想通貨にまつわる議論と本書の内容が自分の中では直結されました。

フィクション

Ted Chiang - 『Stories of Your Life and Others』

アメリカの作家テッド・チャンのSF短編集で、邦題は『あなたの人生の物語』。表題作は映画『メッセージ』の原作です。

「SF」という総括的なカテゴリの中で死生観、社会学、宗教心、科学の哲学など、様々なテーマの物語を描いていて読み終わると頭を使いまくったけど心は豊かになった気持ちでした。短編集なのでちょっと複雑なストーリーも結構咀嚼しやすいです。『メッセージ』が好きだった人はもちろん、全般的にSFというジャンルが好きな人にはオススメしたい一冊です。

僕は原語の英語で読みましたが、和訳もあるようです。

村上龍 - 『愛と幻想のファシズム』

初めて村上龍作品を読みました。

1980年代に書かれたものとは思えない、現代に照らし合わせれる内容でびっくりしました。特に2016年ごろのアメリカのトランプ大統領当選にまつわるフェイクニュースの話題、政治的カリスマ崇拝、選民思想や排他的ポピュリズムのファシズム的傾向、陰謀論などなど、村上龍は預言者か?と感じるほど近年実際に起きた事象を彷彿とさせる物語です。フィクション味を感じさせない一番怖いタイプの政治フィクションでした。

エヴァの「鈴原トウジ」「相田ケンスケ」の名前はこの作品が元ネタらしく、作中「シナリオ」という単語がめっちゃ多用されていて出てくる度に「SOUND ONLY」を連想してちょっと笑ってしまいましたが庵野秀明が監督として映像化されたら面白そうだなと思いました。

Frank Herbert - 『DUNE』

劇場でドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の新作映画を観てからすぐに買いました。1965年初版、SFの名作で後に続く様々な作品の先祖的存在、インスピレーションの元であることを読みながらじわじわと感じました。西欧ファンタジーというジャンルにとっての『指輪物語』みたいな位置にあるのかなと。内容も「科学的フィクション」というよりは中世ヨーロッパの貴族社会と権力争いのドラマを宇宙という設定に移した「空想的な科学技術が登場するファンタジー」って雰囲気なのでその連想が安易にできるのかもです。

率直に言うと映画鑑賞の体験よりは原作を読む体験の方が楽しめた気がします。というのも、原作は映像では表現しきれないような概念的、観念的な描写(キャラクターが感じる「時の流れ方」など)や、一本の映画にはとうてい収まりきらないストーリー背景(政治勢力図、惑星生態系の包括的な解説、など)が綿密に描かれており、文章というメディア特有な表現手法が多くて今まで度々耳にした「原作に忠実なDUNEの映像化は無謀」という評判がついている理由をようやく理解できました。「主人公視点の物語の進行」という面では今回の映画は原作を誠実に再現できていますが、割と表面的というか(ハリウッド映画というフォーマット上しかたのないことかもですが)SFアクション要素が強調された反面、個人的に原作でとても面白みを感じれた「文章ありきの表現」につまっていた独特な雰囲気が抜けてしまったような気がしてちょっと残念です。現代SFの元祖で影響が幅広かったがゆえに、ストーリーだけをなぞると今時の感性では「ありきたりなSF」に見えてしまうというのもあるのかなと思います。

デイヴィッド・リンチ監督による1984年の映画化、そしてそれ以前の映画制作途中で中止されるまでに至った過程を記録したドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』も観てみたいですね。

(補足までですがこの本も英語で読みました。)

マンガ

宮崎駿 - 『風の谷のナウシカ』

初見ではないのですが、3000円でボックスセットが売られているのをみつけて衝動買いして久しぶりに一気読みしました。ご存じない方がいるかもなので一応説明するとアニメ映画版は漫画7巻ある内の2巻目までのストーリーをアレンジしたもので、設定や展開に結構違いがあります。映画版よりはかなり色濃く宮崎駿の思想を感じ取れる作品になっているので宮崎駿ファンにとっては必読かなと思います。

同時期に『人新世の資本論』を読んでいる途中だったので『ナウシカ』の設定の「産業文化の崩壊した後」=「資本主義による環境変動がとりかえしのつかないことになった世界」という連想、また、後に『DUNE』を読んで惑星総体のエコロジーに関しての文中に『ナウシカ』で示唆される生態系論と似通っている思想を感じました。

赤井さしみ - 『たそがれにまにあえば』

絵柄、テンポ、雰囲気、総合的に自分好みな超短編マンガをツイッターでいつも拝見していたので単行本が発表されたら即買いました。他に言いたいことはなくてただの布教です。

最後に

以上そんな感じです。それぞれの本を手に取った当時は特に意識していたわけではないんですけどまとめると「SF」と「思想」という趣向がめちゃハッキリと現れていますね…改めて振り返ってみたら時代も出版国もバラバラな諸作品に通ずる思想の絡み合いが感じれて面白かったです。

完全に蛇足ですが記載したもの以外にも休日にネカフェに入り浸ってワンピースを最初から読み直したりしていました。2021は数年ぶりに日常的な読書を嗜めたので今年も色々読みたいと思います。「SF」・「思想」じゃなくてもいいのでオススメ本教えてください。

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