見出し画像

地獄のぜい肉退治~仙台松島往復マラソン(後編)~

みなさんお待ちかねの後編です.これにて完結します.いや別に待ってねえしさっさと終われよクソがと思われた方,申し訳ありません.
noteド初心者の私をどうか温かい目で見守ってやってください.

(続き)
芦ノ湖(仮)に別れを告げ,再び勾配に立ち向かう.もう海を目指すあのワクワク感は無いが,ゴール後には温泉が待っているのだ.友人Gはその自慢の肉体美を温泉で見せびらかしたくてウズウズしている.そのウズウズ感がエネルギーなのだろう.加えてさっきのお菓子もエネルギーとして体内で燃えてゆくのを感じる.私たちは火あぶりの刑に処されるずんだメロンパンの阿鼻叫喚を聞いて悦に浸っていた.もうドMとは言わせない.
しかし,ドM度の減少と痛みへの耐性はトレードオフの関係にある.序盤に発症したひざの痛みは着実に増しており,ペースは落ちた.そしてそれ以上にGのペースダウンも激しい.脂肪だけじゃなくペースまで落としてんじゃねえよこの筋肉バカという罵詈雑言もイマイチ響かなかった.屈強極まりない彼も限界か...
往路と同じくドライバーたちのイラつきを背に受けながら走り,なんとか歩道のあるところまで戻ってきた.
この時点で28kmほど走っており,最大の山場を迎える.フルマラソンを走ったことがあるから分かるのだが,30km手前あたりから本当に足がもげそうになる.一番辛いところだ,さあ一段と気合を入れていくぞ!と士気を上げにかかったものの,無情にも雨が降り始めた.私はこう思った.

クソが!!!!

この世で最もシンプルな悪口を天に向かって吐き散らかし,上げた直後の士気が急降下した.しかも雨が降り出してから寒さがぐっと増した.

昼には暖かくなって走りやすくなるぞお~

なんて思ってた自分をぶっ飛ばしてやりたい.過去の自分にメガトンパンチをぶっ放した私たちは塩釜まで戻ってきた.中編では塩釜~仙台間はダイジェストみたいに短く書いたが,距離としては十分長い.さらにひざ痛,疲労,雨の三重苦である.

ふと横を見るとGの走り方がおかしい.普通は足を後ろに蹴りだして前方に進んでいくものだが,Gは痛みのせいか前ではなく上にぴょこぴょこ跳ねるように走っており,全然進んでいない.映像としてはかなりシュールだった.

マッチョぴょこぴょこみぴょこぴょこ 合わせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ

クソくだらないギャグもどきが浮かんでニヤニヤした頃,多賀城市に入った.もう脳みそも疲れ始めている.
往路で多賀城をテキトーに扱ったバチが当たったのか,雨は強さを増した.もう靴の中もびしょ濡れだ.寒さで足も手もかじかんでしまって感覚が無い.完全無感覚Dreamerである.
しかもペースが落ちまくっているせいで,走っても身体が温まらない.これがなかなか辛く,冷たい雨がどんどん私たちの体温を奪っていった.
とにかく寒い.でも足が痛くてこれ以上速く走れない.どうにかして身体を温められないか.疲れ切った脳みそを絞り出して我々が導き出した答えは

「腕立て伏せで身体を温める」

という脳筋的解決法であった.
足が痛いのなら,上半身を動かせばいいじゃな~い.
マリーアントワネットが筋肉バカだったら絶対同じことを言っていたはずだ.私たちは高架下の乾いた地面を見つけては腕立て伏せで温まり,また走るという奇行を繰り返していた.完全に変質者である.

令和のアントワネットを自称したバカ2人は職務質問されなくて良かったという最低レベルの幸せを噛み締めながら走り続け(速度的には徒歩と大差なかったが),遂に多賀城市を制覇した.ようやく仙台まで戻ってきたのだ.走路の横には仙台うみの杜水族館が見えた.家族連れやカップルの幸せそうな声に心を折られかけるが,耐える.
寒くない寒くない少しも寒くないわ.アナ雪を一回も観ていないくせにそんなセリフを吐き散らかし,進む.冷たい雨が顔面に絡まる.

最後の高架下を曲がったところで最終ストレートに差し掛かった.残り数kmでゴールだ.
―が,この残り数kmがとてつもなく長い.マラソン大会であれば沿道の応援で頑張れるものだが,当然そんなものは無い.相変わらず寒いがもう腕立てをする体力も使い果たした.走る,歩く,また走る.あと少し,あと少し―

***
出発地点の温泉施設が見えた.これまで数々の勇者たちを葬ってきた魔城のようにそびえ立っている.顔面の水分を拭い,ラストスパートをかけた.
もう歩いたら走り出せない気がしたので,完全にGを置き去りにした.あのカーブを曲がればもう駐車場だ.往路と違って箱根駅伝感はゼロ.それでもこのゴールの瞬間は何物にも代えがたいだろう.

ーなどとドラマチックに締めくくろうとしたところで特にゴールテープがあるわけでもなく,スタート同様締まりの無いゴールとなった.何物にも代えがたいなどという先程のイキった文章は撤回する.
数分後にはぴょこぴょこ走法を完全に自分のものにしたGもゴールした.感動よりもシュールな面白さが勝っていたというのはここだけのお話.

応援してくれたチームメイトもインタビュアーもいないので,暖をとるため一目散に軽自動車へと駆けていった.というかもし美人アナウンサーによるインタビューがあったところで,彼女をぶっ飛ばしてでも軽自動車に直行しただろう.
オラさっさと中入れんかいゴラァ!と大阪府警のガサ入れ並みの気迫でドアを開け,暖房をMAXにする.びしょびしょの靴下を脱ぎ捨て,真っ白に萎縮した足を温風にかざした.じんわりと血が戻ってくるあの快感を私は一生忘れない.

しばらくして身体が温まり,ようやくゴールしたことを実感した.仙台から松島まで走って往復したのだ.私たちはやったのだ.もうこれから何があっても大丈夫な気がする.100kmも走るウルトラマラソンに比べたらゴミクズのような実績だが,ものすごい達成感に包まれていた.
所要時間約5時間40分,総走行距離は約45キロで,フルマラソン以上を走ったことになる.Gのスマホには総消費カロリーがおにぎり約22個分と表示されていた.米の塊の個数で表されると大したことをしていない気がする.

さて減量実験の結果であるが,温泉施設で測ったところGの体重は4キロほど減っていた.水分補給をしていたのにこの数字,恐るべし.
そして待ちに待った温泉である.しかし全身が痛く,私たちは生まれたてのキリンみたいなガタガタの動きで脱衣所から現れたため,たいへん気色悪がられてしまった.Gはその視線を自分の筋肉へと向けられた羨望のまなざしと思っていたらしい.多分違うぞ.

その他塩サウナで顔面に塩を塗りたくった結果眼球にしみまくったり(もちろんム●カ大佐のモノマネ付き),休憩所で今流行りの鬼滅の刃を読もうとしたところ,全部借りられててキングダムで妥協したりといった具合でそれなりに楽しんだ後,温泉を後にした.

帰りがけに寄ったびっくりドンキーでえげつない量の肉を平らげた後無事帰宅し,文字通りバタンキューといった感じでベッドに倒れこんだ.

翌日はもちろん筋肉痛で全身バッキバキとなり,前日とは打って変わって家から一歩も出られない超インドアな大晦日になりましたとさ.

~後編終わり~

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?