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リアルな恋がしたい!

私は真壁 ハル、22歳でモデルの端くれとインフルエンサーをしている。
主な収入はインフルエンサーの広告費。
事務所所属で売り出す最後の機会として「リアルな恋がしたい!」という恋愛リアリティ番組の出演を促され、参加することになった。
全国ネットの放送で2話構成で放送される。
男女2名ずつでお気に入りの場所にデートへ行くというものだ。
2話の時点で告白をするルールがあり、緊張感に包まれている。
早速顔写真撮影があり、今日はスタジオに向かう。
沢山の有名作を世に出していることもあって、世間も新作発表を楽しみにしている様子だ。
正直私は芸能の仕事で売れる最後のチャンスだと事務所側に言われていることもあって、相当攻めの姿勢に入らないといけないというプレッシャーを感じている。

私は元々ティーン向け雑誌のモデルをやっていた。
なかなか芽が出ず、事務所からも期待されていないのが分かっている。
だからこそ今回のリアリティショーを確実にモノにしてやるんだと意気込んでいた。
「恋をモノにするインフルエンサー」
何の捻りもないキャッチフレーズが私の顔写真と共に広告に掲載されていた。
期待されてないのがハッキリと分かってしまい辛い。
事務所のマネージャーから台本を受け取ると、電車で自宅へと向かった。
もうすぐ春だというのに肌寒い。
「とにかく積極的に参加!」
雑過ぎる台本の内容にため息が出る。
とにかく目立ちたいし、視聴者に覚えてもらうぞと意気込みながらメイクや衣装をポチった。

遊園地に行き、第一印象で気になった方に話しかけてアトラクションに乗るというものだった。
遊園地デートでは露出の多い真っ赤なワンピースを着て参加した。
かなり積極的な肉食系女子として売り出そうと自分の中ではイメージをしている。
そもそも第一印象で良いからって話しかけるのはかなりハードル高くない?と思いながらも、番組の進行に合わせて相手に声をかけてみる。
声をかけた相手はモデルのソウタ。2人で並ぶと映えるかなと思っただけだった。
メリーゴーランドに2人で乗って楽しんだ。
見た目はかっこいいが中身がなく、話も全然盛り上がらなかった。
顔が良いだけの人って苦手なんだよなとネガティブな感情になりながらも、楽しんでいるフリを演じる。見どころのあるシーンが撮れないのでカットになりそうだなぁとばかり考えてしまう。
「暑くなってきちゃった。」
上着を脱いで、谷間ががっつり見えるように演出した。
カメラはすかさず、私の体の方へ視線を向けてくれた。
ソウタもまんざらでも無さそうだったが、あくまでも番組で多く出演するための演技なのでソウタはどうでも良かった。
番組をリアルタイムで確認するとしっかり私の紹介をされて「肉食系インフルエンサーは無敵」だと取り上げられ、男性陣の反応はかなり良い。
女性視聴者からあざとい、肉食すぎて怖いなどと書かれていて評判が悪かった。

好きな人を探すというより、自分を偽っていることが何よりも違和感を感じて仕方がない。
こんな事を続けても意味がないし、本当の自分ではないと思うようになった。
最後のチャンスではあるけど、無理をして好きでもない相手と付き合いたくない。
嘘をついて芸能界に残るのは自分らしくないと思い、告白をしないことに決めた。

2話目では告白する人を発表する。
正直良いと思った人は居なかった。
最後は私らしく爪痕を残そう。
部屋にメンバー全員が呼ばれると、気になっている相手をみんなの前で報告する流れになった。
「はるちゃん、どうぞ!」
「…告白したくありません。」
みんなが顔を見合わせて驚いた表情だ。
「芸能人として最後のチャンスを事務所から貰いました。好きな人を作る目的ではなくて、売れたいから参加したまでです。この番組を見ている関係者の皆さん、真壁ハルに仕事をください!」
メンバーはざわついている。相手の男性もイラついている様子だ。
「ハルちゃん?一旦落ち着こう?」
MCがこれ以上話すなというようなニュアンスで声をかけた。
「結論は2話では出せないです。嘘をついて参加するのはもっと失礼だと思いました。」
「いやいや、演出とか考えようよ。芸能人になりたいならさ。だから売れないんじゃないの?」
ソウタは目を細めて睨むような表情で話す。
「そう思いたいなら勝手に思ってて。今まで有難うございました。」
お辞儀をして部屋から出ると、廊下は別世界のように静かだった。
深呼吸をすると、スタッフに挨拶をしてそのまま帰宅した。
次の日事務所からは契約解除の連絡があった。自分は後悔がなかったので、最後の挨拶をして事務所を後にした。

2話の放送後、電話やSNSの通知が鳴り止まなかった。
賛否両論あったが、正直な発言が良かった、応援したいという人が続出したのだった。
事務所に縛られて自分を偽るより、自分らしく生きる方を優先して良かったと思う。

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