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婚約指輪を質屋に。

今日、婚約指輪だったダイヤを質屋で売った。


そのダイヤの立て爪リングと出会ったのは私が22歳の時、
仕事帰りにふらっと立ち寄った丸井のジュエリー売り場だった。

結婚する事は決まっていたし当然婚約指輪はもらえるんだろうと思っていたから、
貰えるなら自分の気に入ったのがいいなと思い下見のつもりで立ち寄ったのだった。

そこで「エクセレントカット」なる0.375ctの立て爪タイプの”THE婚約指輪”らしい君を見つけた。
とてもお得になっている、と店員がいう。
このクラスはなかなかこのお値段では買えない、しかもこの期間ならさらにお安くできる、と。

私は
「これにします。でも一応旦那さんに一言ことわってから買いに来ます。」
そう言って取り置きのような事をしてもらって、数日後。

「お金は出しておいて。どうせ二人のお金なんだからどっちが出しても同じでしょ。俺行けないけど、大丈夫だよね?」
そう彼が言うので私は自分の貯金通帳から三十数万円下ろしてそのダイヤの指輪を買いに売り場にまた一人で行った。
そうして君を手に入れたんだ。


家に連れて帰って指にはめてみた。
サイズはお直しをするまでもなくピッタリで、とても綺麗だった。
何度もつけたり箱に戻して眺めたり写真を撮ったりした。ひとりで笑


でも振り返ってみると指輪として身につけた事、何回あったかな?
多分大切にしすぎてしまい込んでいたんだろう。
そうだ確か、一度指につけて出掛けた時どこかにガリッと擦ってしまってすごくすごく後悔したことがあったんだ。
だからそれ以来ずっと仕舞い込んでいた気がする。
思い出そうとしても、指輪だった頃の君との思い出はそれくらいしか思い出せない。

程なくして君は、何の肩書き?もないただのダイヤの指輪になった。

モノに罪はない。
そもそも自分で選んで自分の貯金で買ったような物だったから、海に投げ捨てたりなんてしなかった。しようとも思わなかった。

でも指輪として身につけるのは何となく「違う」と思ったので、
せっかくのダイヤなのだからとネックレスにリメイクして折に触れて身につけた。

人前に出る時、冠婚葬祭…
どんな時でも派手になりすぎず、でも私が大切に扱ってもらえるように、そっと輝きをプラスしてくれた。
(あーなんか泣きそう。)
大き過ぎず小さすぎず、
それなりのステイタスと品を添えてくれ、鏡を見る度に、
控えめに..でもしっかりとした存在感をもって「貴方は大丈夫」と語りかけてくれた。

でもここ最近は人前に出ることもダイヤを身につけるような冠婚葬祭の場も減り、すっかりタンスの肥やしと化していたんだ。


この3、4年、心境に大分変化があり生活環境やスタイルも変わった。
そして何より自分が、自分の中の”本当の自分”に帰って、
その心に従って生きてみたいと思うようになったんだ。


偽りの自分を演じる事が出来なくなってしまった事で、身体にサインの様な不調が出始めた。それは生まれて初めて経験する、一人では立って歩けないほどの”サイン”だった。
コロナも手伝ってタイミング的にはこれ以上ないタイミング。
しがみついていた東京での暮らしも仕事も手放して、田舎に引っ込んだんだ。


まるで神様がくれた休日。
一年くらいは体内時計や身体の不調を整えることに費やした気がする。
2年…3年…と蓄えを崩しながら、身の回りや家族から貰い受けた不用品を処分したりして食い繋いだ。

そして今日、何点かの不用品を質屋に持って行こうと出かけようとした時何故かふと君のことを思い出して、
長いこと仕舞い込んでた君を引っ張り出し君も一緒に質屋に連れて行った。

君は51000円だった。
正直、思っていたより高い査定金額だった。
さすが君だ。
まぁ買った時の1/6の金額だけど…
持っている間、お金には変えられない思いをたくさんさせてもらったから..充分元は取ったと思えた。


少し考えるふりをして、私は君を売る意思を鑑定人に伝えた。
側から見たらなんてことのないやり取り。


だけどその時、君を手放す事は私にとって、事実上、
それまでの自分からの”卒業”、の様な気がした。

「もう君に頼らなくても”私は大丈夫”と言える自分になれたから」

君を売る意思を口に出したのは、その決意表明の様なものだったと思う。

中身にそぐわないダイヤの輝きをまとったハリボテのような空っぽの自分との決別。
その為の儀式の様だと思った。

君はお札になった。


いつかまたダイヤを手にする時が来るのかな。
その時はきっと、物への執着じゃなく、自分が愛を注いで育んだモノ、想いや愛の依代の様な存在として、愛着をもってそれを身に付けている自分でいたいと思う。

控えめで小さくても、
私の心の底から湧き上がる確かな自信が、そのダイヤを輝かせられるような、
そんな身の丈にあったダイヤを。

さよなら。
今までそばにいてくれてありがとう。
空っぽの私を素敵に見せてくれてありがとう。
君と、私の旅立ちによせて。
愛を込めて💖

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