『Sing street』を観て
二人の間の関係性に形はなく名前はつけられないけど、お互いを大切に思っている微妙な感情を表現している小説や映画が好きだ。単純に言えば友情以上恋人未満だけど、もっと美しくあやふやで、言葉にして名前を付けたとたん風に吹かれて消えてしまうような儚い関係。
小説なら『愛を詠む人』。映画だとソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』や『ゴーストワールド』も好き。
『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督もそんな関係を描くのがうまい監督の一人。『はじまりのうた』もよかった。どちらの映画も主人公がミュージシャンだったり音楽業界に身を置いている人物だが、監督本人もその昔バンドを組みベースを担当していたんだとか。
数年前にジョン・カーニー監督の「Sing street」という映画が公開されたことを知り、amazon primeで観た。
ちょっとイケてないあどけなさの残る高校生が主人公。ひょんなことからバンドを組むことになり、みるみる大人びてカッコよくなっていく。この作品はあやふやな関係ではなく、純粋なラブストーリーだけど、やはりその儚さや痛みを描いているのは前作と共通している。
3作とも冴えなくてスポットライトの当たらない人生を歩んできた主人公が主役のサクセスストーリー。軽快にサクセスしていくストーリーの中にも心をぎゅっとつかまれるようなセリフや、人生のどうしようもない悲しみ、大切な人との別れが切なく描かれている。
人生に疲れ心がささくれ立っているときに観ると、優しく穏やかな気持ちにさせてくれる。観終わった後前向きな気持ちになっているはず。
音楽ってありふれた景色を、真珠のような素晴らしい瞬間に変えることができる。でも年を取ると、その真珠のような瞬間に出会うことがなかなかない。
『はじまりのうた』で主人公が言うセリフ。(だいぶ前に観たので多少違ってるかも?!)
このセリフに出会えただけでも、この映画を観る価値があると思えるほど素晴らしい。爽快感あふれる青春の甘酸っぱさにもキュンとさせられたが、人生経験を重ねた渋みのあるおじさんだから言えるセリフが心にずっしりと響いた。
日常で真珠のような瞬間に出会うことはなかなかないけど、映画の中では結構たくさんそんな瞬間に出会える。やっぱり映画って素晴らしいですね!
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