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いつか笑える時がくる

新幹線の切符を初めて「片道」で買ったのは今から15年前のこと。大学を卒業し社会人になる手前の、何者でもなかったとき。

目に入るもの全てがグレーに映る。この暗澹たる思いは、何を予兆しているのだろう。

行き先は大阪。

目的は新入社員研修。

あの3週間は、これまで生きてきた中でもトップクラス級の過酷な日々だった。

でも今なら笑える。

新卒で入社した会社は大阪に本社を置くベンチャー企業。といえど、社員は何百人もいて、事業内容こそ当時は珍しかったけど規模はすでに中小企業レベル。ただそういう会社には、”あく”の強いカリスマ社長がつきものである。人事部のヨイショも素晴らしい。

4月1日は月曜日だった。最初の5日間は六甲山の山頂で合宿。本社からはバスで移動。車内ではずっと社長の演説ビデオが流れていた。洗脳?

チームに分かれて毎日対抗させられた。内容はもはや覚えてもいない。携帯の電波も入らず外界とは完全にシャットアウト。同じ釜の飯を食べ、みんなと一緒にお風呂に入る。二段ベットで熟睡なんてできないよ。

「電波が入った!!」

誰かが小声で叫んだ。金曜日に無事”下山”した日の開放感たらない。バスの車内の社長VTRも気にならなくなっているから怖いけど。

とはいえ、片道切符組はあと2週間大阪で過ごさなければならない。梅田のビジネスホテルが生活拠点となる。当然二人一部屋。相手が結構な喫煙者でさ……。

生きた心地がしなかった。

「ごめん、一人でお茶してくる。」

そう言って土曜日に一人でスタバへ行った。カフェラテって、こんなにしみる飲み物だったっけ。ちょっとだけ生き返った。

研修もキツかったけど、自由と孤独を奪い取られることが何より堪えた。

「片道で」

研修を無事に終え、再び片道切符を買った日の喜びは忘れられない。その後は社会人として色んな目にあっていくことにはなるんだけど。

それでもあの3週間はわたし史上過酷な日々だった。

今なら笑えるけどね。



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