「5億当たっても仕事は辞めないな。」
「宝くじは買った?」
家族や友人との会話ではない。それはピラティスのレッスン中に、先生が発した言葉だった。先生は、こんな風な世間話を絶妙なタイミングで組み込み、場を和ませてくれる。昨日はキャットポーズの変形版で肩甲骨をストレッチしているときに、宝くじネタだった。
「当たったらみんな何したい?」そんな投げかけに、脇腹から腰にかけて心地良い伸びを感じながらちょっと考えてみる。とりあえず寝具を整えたい。そして旅に出たい。あっ、引っ越しもしたい。
当の先生はというと、電動自転車を買うらしい。
そしたらレッスンを持っているスタジオのほとんどが自転車で通えるんだとか。坂が多くて(余談だけど、東京は坂が多いと関西出身の方に指摘されるまでわたしも気づかなかった事実)夏場は汗だくになってしまうのが悩みという先生らしいチョイス。
「普通仕事やめない?」
だけど、その話を旦那さんにしたところ言われてしまったらしい。電動自転車で職場に行くって仕事を続けるってことでしょ。先生は笑いながらそのときの会話を話してくれた。そして続ける。
「だけどね、5億当たっても仕事は辞めないな。楽しいから。」
先生の仕事とは、もちろんピラティスを教えることに他ならない。持っているスキルを与える喜びや生徒の成長は、どんなにお金を積まれても手放したくないほど価値があるものなんだと思う。
素敵だ。そして毎週のレッスンがそれまで以上にありがたく思えてきた。先生からの愛を全身でキャッチする。
とはいえ、こういった世間話はレッスンとはまったく無関係に降ってくる話ではない。
「さあ、手の先に5億当たった宝くじがあると思って!1ミリでも遠くに手を伸ばして!!」
先生は巧みな技で、生徒たちをその気にさせてしまうのだ。そしてまんまと乗るわたし。
5億当たったら?
ただ使うだけの生活なんて、わたしもまっぴらごめんだな。
憧れの街への引っ越し資金とさせていただきます^^