嘘ってついちゃいけないの?②嘘は悪いことじゃない寂しいこと
前回は嘘はダメだって指導しているのに、どうして嘘をついてしまうのかいう理由と正直に話せるようになる指導法についてお話ししました。
まだ読まれていない方は、まず下の記事をお読みください。
上の記事に書いたように、私自身は、「嘘はついちゃダメ」と厳しく指導されてきましたし、自分が教師となってからも、子どもたちに同じように指導をしてきました。
そう堅く信じていました。
でも、あるとき、一冊の本との出会いをきっかけにしてその考え方がぐらぐらと揺さぶられることになったのです。
その本は、重松清さんの『青い鳥』という作品の中に収められている「カッコウの卵」というお話です。
この話を読むまでの自分は下の○に何を入れますか?と尋ねられたら、
『嘘は悪いこと』とそう答えていたでしょう。この話を読むまで、私は『嘘は悪いこと』そう信じて疑っていませんでした。読者のみなさんはどんな言葉を入れられますか?答えを決めると、学びが濃くなります。今の自分の答えを決定してから読み進めてください。
まずは『青い鳥』のあらすじを確認してみましょう。
『青い鳥』のあらすじ
帯にはこんなことが書いてあります。
国語教師なのに吃音を抱える村内先生が主人公です。文庫の裏には物語の要約がこのように続きます。
村内先生は、言葉がつっかえてしまうので、授業をするのも大変。時に、教室の子どもたちが心配してしまうほどです。中にはバカにする生徒もいますが村内先生は気にしません。
村内先生は特別な先生で、村内先生のことを必要としている生徒のところにやってきて寄り添います。言葉がつっかえてしまうので多くは語りません。でも、本当に大切なことだけを、懸命にその子に伝えます。その子が、言葉を受け取り立ち直り始めたところで、村内先生は風のように去っていきます。次に村内先生を必要としている子の待つ場所へと。
各章ごとに悩みを抱える中学生が登場し、村内先生との出会いをきっかけに再生していきます。どのお話も感動的で、教師としての教育観を揺さぶられるだけでなく、自然と涙がこぼれ落ちます。
その中でも特に心を揺さぶられたのが冒頭でお話しした「カッコウの卵」です。
「カッコウの卵」
カッコウの卵のあらすじ
カッコウは自分の卵を自分で育てずに、他の鳥に育ててもらうのだそうです。
それになぞらえて、虐待され、捨てられた男女2人の子どもたちが物語に登場します。
主人公のてっちゃんは両親の離婚・再婚など複雑な家庭環境の中で虐待をされながら育ち、中学時代には非行にも走ります。大きくなり、児童養護施設で知り合った「智恵子」と結婚。2人での生活が軌道に乗ってきた頃、中学の時に自分を支えてくれた村内先生を町で見かけ、会いたくなります。
そして、てっちゃんが、村内先生に会いに行った中学校で騒動が起きてしまいます。
主人公てっちゃんとの出会い
主人公のてっちゃんという男の子は、中3で非行に走っていたときに、非常勤講師の村内先生に出会います。村内先生は、てっちゃんの境遇を知りつつ、名字の「松本」ではなく、これからは「てっちゃんと呼ぶ」と本人に語りかけます。
この話を読むまでは、私は、基本子どもたちのことを苗字で読んでいました。それは、初任校で指導を受けた時に、「人それぞれ名前の呼び方が違うのはよくない。苗字で呼びましょう」と指導されていたからです。そういうものか、と特段深く考えることなく、従っていました。
ああ、そうか。名前を呼ぶということは贈り物でもあるのだと気づきハッとしました。「あなたのことを大切に思っていますよ。あなたは1人じゃないですよ。」というメッセージでもあったのです。
それから、私は子どもたちのことを下の名前で呼ぶようになりました。
村内先生に会いにきてトラブルになるてっちゃん
中学卒業後、てっちゃんは、児童養護施設で知り合った「智恵子」と一緒になります。そして工場で働くのですが、あるとき、村内先生を町で見かけて会いたくなり勤めている中学校へ行きます。
中学生たちは、村内先生がいることを伝えるのですが、そのボス格の「玉井」が、吃音のある村内先生をバカにするようなことを言ったので、てっちゃんはカチンときて玉井の胸ぐらをつかみ、詰め寄ります。その日は、それ以上なにもせず、玉井たちも逃げ帰りました。
数日後、てっちゃんが再び村内先生に会うために中学校に向かうとトラブルになります。
中学校の戸田先生から不審者として見とがめられ、一触即発の事態になります。
村内先生に会いに来たことが分かると、事態は好転するかに見えたのですが、そこで例の玉井が登場。「てっちゃんに殴られて、お金を脅し取られた」と戸田先生に嘘をつきます。
警察を呼ぶ、呼ばない、てっちゃんの勤め先に報告する、しないなどと揉め、事態は悪化します。
智恵子という家族を抱え、最悪の事態を避けたいてっちゃんは、ぐっと我慢して平謝りするのですが、玉井の言葉を信じる戸田先生も譲りません。
嘘は悪いことじゃなくて寂しいこと
ここで村内先生が登場。てっちゃんと、玉井と、戸田先生とで話し合いになります。あくまでも警察に訴え出ると言う戸田先生に対し、村内先生は、こう言います。
ひとりぼっちなっちゃう子が、嘘をつく???私は、嘘は自分を守るためのずるいこと、悪いことだと思っていたので混乱しました。続けて村内先生はいいます。
この言葉は、「嘘は悪いこと」と堅く信じて疑っていなかった私にとっては衝撃でした。
と同時に、どうして子どもたちが嘘をついてしまうのか、その背景まで想像力を働かせることをしてこなかった自分を情けなく思いました。そして、今まで関わってきた子どもたちに申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
嘘つきだった過去のてっちゃん
てっちゃんはどうしてバレバレの嘘をつき続けたのでしょうか。
両親を守りたかったのでしょうか?読者のみなさんはどう考えられますか?答えが決まったら、続きを読んでみて下さい。
てっちゃんが嘘をつき続けたわけ
てっちゃんの嘘は両親をかばってのことではありませんでした。その嘘を認めてしまったら、「誰も自分のことを愛してくれていないと認めることになってしまう。ひとりぼっちになってしまう」そう思っての行動でした。
この物語を読む前に、そこまで想像することができたかといえば全くできていませんでした。ただ機械的に、「嘘は悪いこと」と指導する人間です。きっと、この場に居合わせていたら、てっちゃんを傷つけていただろうと思います。
教師は何があってもその子を一人ぼっちにしちゃいけない
お尻からはみ出たお守り一つで、ここまで想像力を働かせられる村内先生に驚嘆しました。
自分はこれほど思慮深く物事を捉えることができていない。目には入っているが見えていない状況です。
物事を捉える深い洞察力を鍛えたいと思いました。村内先生のその深い洞察は続きます。
ごつごつして傷だらけの手は
その後、村内先生とてっちゃんが会議室に残ります。
身長が伸びたことを報告するてっちゃんに対し、村内先生は、「手を比べてみよう」と言います。溶接をやっていて、ごつごつして傷跡だらけの手に触れて、村内先生は、話します。
ああ、もし自分がてっちゃんだったら、こんなふうに言葉をかけられたら。もうグッときて涙が止まりませんでした。
自分も村内先生のように相手を丸抱えで受け止め、勇気づけられる言葉を紡いでいきたい。そんな言葉を届けるために自分を磨いていきたい。言葉も研いでいきたい、そう思いました。
そして、我々が携わっている教職というのは、そういう大切な仕事なのだと再確認することができました。日々仕事の中で大変なこともありますが、本当にやりがいのあり素晴らしい仕事だともう一度思いを新たにすることができました。
まとめ
最後に、「カッコウの卵」の中で心に響いた言葉を書きます。
みなさんの心に響いた言葉はなんですか?コメント欄で教えていただけたらうれしいです。
重松清さんの『青い鳥』とても素晴らしい作品です。興味を持たれましたらぜひ本を手に取って読んでみて下さい。
今回は引用などもあり、6000字超え。いつもの倍ぐらいの長さになってしまいました。
長文なのに最後まで読んでいただきましてありがとうございます。記事の内容がよかったらスキやフォロー、していただけるとうれしいです。跳びはねて喜びます。
今回の記事は、教職に携わる多くの方に読んでいただきたい内容です。記事を読んでよかったら、SNSでシェアしていただけるとうれしいです。
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次回は、嘘シリーズ第3弾「いい嘘と悪い嘘の違い」について考察します。お楽しみに!
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