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ミステリー小説のおすすめ5作品を紹介する巻

今回はおすすめミステリー小説を紹介したい。
その中でもネットで【ミステリー おすすめ小説】と検索しても上位ランクインor定番には出てこない……?
だけど個人的に大好きで隠れた傑作ミステリー小説を5作品紹介してみる。

最近実写不可能とされながらも人気過ぎてドラマ映像化された名作国内ミステリ『十角館の殺人』や、様々なインスパイアが生まれたと言われる近代ミステリの火付け役『占星術殺人事件』など定番ミステリ―をすでに読了した人や知られざる傑作を知りたい人、とにかくミステリーが読みたい人におすすめ。


1.青崎有吾『体育館の殺人』

密室トリック系とかクローズドサークル系のミステリー作品のタイトルにはとある怪しげで特徴的な館の中で殺人事件が起きる物語が多い事から『○○館の殺人』とタイトルがついている作品が多い。
そのため『館』はミステリー作品にとって個性でありロマンの象徴だ。
それをまさか学校に必ずある施設『体育館』で館要素を補い、密室ミステリーのロジックを確立させ、殺人事件が起きて学校を舞台に推理が繰り広げられる学園モノとミステリーが見事に融合した作品。

密室状態となった学校の体育館で放送部の少年が刺殺されてしまい、その時唯一体育館にいた女子卓球部の部長が容疑者として疑われる。
女子卓球部員の柚乃という生徒は部長の容疑を晴らすために、無許可で学校で寝泊まりしている学内随一の天才であり、アニメヲタクでダメ人間?の裏染天馬が探偵役を引き受け事件を捜査していくという話。

この作品の素晴らしい点は、第一容疑者の疑いを晴らし、改めて容疑者を絞り込み、犯人を突き止めていく展開の盛り上がり方が綺麗な右肩上がりで、ストーリーラインがあまりにも美しく、芸術的だ。

しかも、事件の鍵となり捜査の本筋となっているのが1本の傘というシンプルで興味が惹かれるような展開になっており、とっつきやすい。
探偵裏染がアニメヲタクということもあり、事件とはあまり関係ないけど2000年代~2010年代のアニメのネタをぶっこんできたり、探偵裏染と成り行きで助手(ワトソン)ポジションになってしまう柚乃の掛け合いが絶妙でエンタメ性に富んだ作品にもなっている。

そして、最後犯人が分かるのはもちろんなのだが、最後の数ページに怒涛の展開が待っているので、最後まで謎たっぷりで美味しい。
最近のミステリー作品は犯人が明らかになる展開+それ以上に読者を驚かせる展開があるものがほとんどで多様化が進んでいると思う。
ネタを考える作者的には読者のハードルが高くなっているので辛い思いもしていると感じるけど。
ちなみに、このシリーズで『水族館の殺人』『図書館の殺人』と同じタイトル系統だけどミステリジャンルが公衆にいる人々を目の前に行われた殺人やダイイングメッセージ物など作者の振り幅の広さが伺える。
今僕が一番好きなミステリ作家だ。

2.島田荘司『奇想、天を動かす』

先程出た『占星術殺人事件』も書いており、その他『異邦の騎士』『斜め屋敷の殺人』といった御手洗潔シリーズを手掛けている島田荘司の作品。
島田荘司の隠れた名作とも言われ、本格ミステリー要素がありながら社会派ミステリーの要素もある、かなり噛み応えのある作品。

時代設定は消費税という制度が生まれた年、浅草の出店で浮浪者男性老人が12円の消費税を払うことに腹を立てて女性店員を刺殺する。
さらに警察に逮捕された老人は自分の名前すら名乗らず、一切の黙秘で事件は膠着状態。一見頑固で気の短い(老害)老人の刺殺事件に思えるが、探偵役である吉敷刑事がこの事件の裏には何かがあると1人で捜査を始める。
すると、吉敷刑事はこの老人が数十年前に北海道の列車内で起きた、ピエロに扮した男がトイレに立てこもり、拳銃自殺を図ったうえ、さらにはトイレはおろか列車内から消失するという奇妙な未解決事件と繋がっていることに気が付き、謎多き2つの事件がドミノ倒しのように連鎖的に明らかになっていくミステリーとなっている。

ミステリー小説には大きく2つに分けるとトリックを追求した本格ミステリーと社会問題を取り上げた社会派ミステリーがある、この本を読むまでは2つのジャンルは完全には両立しない、両立していても割合的に本格ミステリー+社会派ミステリー=100%が限界だと考えていた。
しかし『奇想、天を動かす』はどちらの魅力も100%に引き出していると言える傑作。

僕は大学時代にミステリー作品にハマっていて、これを読んでミステリー小説の限界を読んでしまったと錯覚してしまい、それから一時期ミステリーを読まない時期もあったほどだ。
島田荘司さんのミステリーはどの作品もトリックが斬新でかつ簡単にイメージできる、だけど絶対に読んでいる途中に気づくことができない。
この作品は時刻表や路線図を頭にイメージしながら読み進めなければいけない箇所はあり、難解な方だが、やはりトリックを知った時は気持ちがいい。

ちなみに、当時僕は本屋は地元の書店や大学近くにある書店に行って買っていたが、この本がどうしても見つからなかった。そこで種類が豊富と噂で聞いた池袋のジュンク堂に行った、そしたらすぐに見つかった。
この本は僕が一番好きな書店、ジュンク堂の出会いをきっかけを与えてくれた本でもある。

3.ホリー・ジャクソン『自由研究には向かない殺人』

この作品は2021年に発売して2022年には翻訳部門の本屋大賞第2位に選ばれている、なので既に定番になりつつあるが大好きなので紹介。

きっかけは、イギリスの小さな町で5年前に起きてしまった大きな事件。
少女が殺害され、その交際相手も死んでしまう。交際相手の男子が自殺とも捉えられる死に方をした事から、少女を殺して自ら命を絶ったと事件は被疑者死亡で処理されたが、その男子の幼馴染である主人公のピップは事件に不審な点が多い事から彼は少女を殺していないし、何者かに殺されたと仮定して独自に自由研究として捜査を始めるのだった。

普通の女子高生が殺人事件を調べるのは周りから不審がられそうだが「自由研究で事件を調べていて~」と説明することで皆納得して5年前の事件を話し始める。少々強引かもしれないが、住民は平穏な小さな町で起きた事件にゴシップを望んでいると感じとれるのでこれがまた面白い。

ピップは住民から事件を聞き回る他にSNSを駆使して隠れた関係者がいないか捜査したり、怪しい人に自分のスマホを忍び込ませて位置共有アプリで追跡したりと捜査方法がかなり現代的である。
現代社会ではツールを使えば誰でも探偵みたいなことができてしまう。

ピップは捜査で気が付いたことや、手に入れた資料はレポートに纏める癖があり、読者もそれを共有できるので非常に分かりやすい、海外小説は読んでいて「あれ……この人誰だっけ?」ということが起こりやすいがあまりそのストレスがなかった。
また、ピップが真相に近づこうとすればするほど何者かが「これ以上の捜査はやめろ」と警告をする展開があり、不穏な展開が待ち受けることを予感させてくれる。

ピップが捜査をしていく内に身近な人たちも事件に関わっていたことを気づき始めるのだが、その裏には10代の恋愛や青春、飲酒や違法薬物系のキケンな遊び、嫉妬心などが渦巻いていて海外ティーン向けドラマのような展開になっていくのがこの作品の特徴、そういうドラマが好きな人は絶対ハマる。

4.アントニイ・バークリー『毒入りチョコレート事件』

これまで特徴な作品であるが、あくまで王道的なミステリー作品を紹介してきた。しかし、ここからは少しテイストが変わる。

実業家のベンディックスが新商品と紹介されたチョコレートをもらい受ける。それを夫人と食べたところ、そのチョコレートには毒が仕込まれておりご主人は一命を取り留めたが、夫人は亡くなってしまった。(今の時代夫人とか主人とか言わないほうがいいかもしれないが、物語ではそう紹介されているので今回はこのまま表現する)
しかし、このチョコレートは本来ベンディックスの友人ペンファーザー卿という男に向けて送られた物で、預かっていた物を誤って食べてしまったのだった。
犯人は誰なのか、そもそも誰にチョコレートを食べて欲しかったのか、という謎がメインのかなり単純なテーマである。
しかし、解法手段が面白く、この作品は事件の謎を解くのは犯罪小説家であるロジャー・シェリンガム氏が立ち上げた『犯罪研究会』のメンバーだ。
『犯罪研究会』はミステリー好きが集まるクラブ組織でメンバー達は自慢の推理を披露していく。

メンバーの推理方法もそれぞれで、犯行方法に焦点をあてる者、動機から考える者、人間関係から考える者と、アプローチ方法が違い、メンバーのキャラクターが出てくる。
しかし、推理はどこかしらに矛盾が生じているため他のメンバーによって論破され、次の探偵が推理を披露していくため6人6通りの推理が述べられる。

すべての推理にはロジックが通っているのに真実ではない、真実は1つであるというミステリーの大前提を否定したミステリー小説。

ミステリー作品は探偵の頭脳が明晰すぎて、犯人が探偵の手によって明かされるのではなく、探偵が指を差した人物が犯人であると皮肉を言う人もおり、僕もただ読者を驚かせるために作られた作品は好きではない。
『毒入りチョコレート事件』はミステリー小説ながらミステリー作品を否定したアンチミステリ作品にもなっている挑戦的であり自由な作品。推理小説を読み漁っていた時代にこの本に出会った僕にとって衝撃的だった。
この本がすでに
ちなみに作者のアントニイ・バークリーはアンチミステリ派ではなく、様々なミステリ作品を生み出している。
本の表紙がとても芸術的で本棚に入れておくと格好がつく気がする。
個人的にはこれは重要

5.野崎まど『死なない生徒殺人事件』

不死であるはずの人間が殺されるという矛盾が事件のテーマとなった本作品。読んで貰えばわかるが、本格ミステリー作品といったら物議が生まれるトリックだ。
僕がこの本を読んだのはミステリー作品に手を出して間もない頃だったから「こういう作品もあるんだな」という感じで読んでいたのでもしかしたらミステリ脳になってない人が読んだ方が抵抗がないかもしれない。

しかし、2020年のM-1グランプリで優勝したマヂカルラブリーの漫才が、これは漫才なのかと物議をかもしながらも、新たなジャンルを作り上げるのも漫才の面白さだと言う人もいて、漫才界隈が盛り上がったように、ミステリー作品の歴史に新たな一手を投じた先進的な作品だと思っている。

物語は教師である主人公伊藤がとある女子高に着任して「永遠の命を持った生徒がいるらしい」と噂を聞くところから始まる。
そんな都市伝説どこの学校にもある、と軽く受け止めている伊藤の前に実際「永遠の命を持った生徒」と名乗り出てくる不思議な女子生徒が現れる。
そして、そんな出会いも束の間、自称不死の少女は殺されてしまう。
じゃあ、不死じゃなくてイキっている生徒じゃん……と思うかもしれない。

物語が面白くなるのはそれからだ。なんとその事件の後、伊藤の目の前に見た目は違うが殺された少女を名乗る女子生徒が現れる。
伊藤は悪ふざけと思いつつも、話し方や雰囲気は殺された女子生徒のままであったため完全には否定しきれず『不死の謎』に興味を持ち始める。
少女は伊藤に自分を殺した犯人を捜して欲しいと依頼をして伊藤は半信半疑のまま捜査を進めていく内に永遠の命の秘密も明らかになっていく。

一応申しておくが殺された女子生徒の魂が他の生徒に移った、というあまりに非現実的なトリックではない。もっと現実的で、だけど現実で再現可能かと問われれば難しい、攻めったトリックとなっている。
野崎まどの作品に『[映]アムリタ』というのがあり、これは『映画の限界』がテーマになった作品なのだが、この『死なない生徒殺人事件』は『○○の限界』がテーマになっていて(○○の部分はトリックに直結するので控えます)野崎まどの作品はスケールが大きい話を日常に結び付けるのがうまい。

この本は叙述トリックではないし、個性豊かな女子生徒が沢山出てきて、エンタメ性があるので映像化もウケそうなのになかなか僕の想いは届かない。

以上、おすすめ5作品の紹介でした。





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