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米澤穂信『冬期限定ボンボンショコラ事件』読書感想~小市民シリーズ完結作~

小鳩常悟朗と小佐内ゆきが性分を隠して小市民を志し、互恵関係を結ぶものの日常に潜むミステリーに巻き込まれ、時には自分達から関わろうとして解決していく推理小説『小市民シリーズ』
ついに、今年シリーズ完結作『冬期限定ボンボンショコラ事件』が発売されました。

僕はこのシリーズが大好きです。
今年になり続編が発売され、さらには7月にアニメが放送されるという大きなニュースが立て続けにあったため、まさに今年は小市民シリーズイヤーと言っても過言ではないくらい晴れやかな年です。
1月にシリーズの魅力を語った記事も書いているので是非ご覧ください。

読み終えた今はただ、シリーズ完結編を読めた喜びと完結してしまう寂しさでいっぱいです。
間違いなくオールタイムベスト作、僕にとってのミステリー小説遍歴に一つ終止符が置かれ作品です。

これまでのシリーズでは推理したいけど、おせっかいをして人間関係を乱したくない小鳩くんと、弱みにつけこんだり、カウンターを食らわせたり、強者を追い詰めたいけどその中で自分も傷つきまくっていることを知った小佐内さんが互恵関係を結び、平穏な日常を求める中で、やっぱり事件を解決してしまうし、復讐をしてしまいながら、一度は関係が破綻することがあったりするものの、それでも惹かれあい絆を強めていきました。

そんな2人の高校生活も終わりを迎え、本格的な受験シーズンを迎える高校三年生の冬に突入します。

小鳩君と小佐内さんは高校を卒業しても同じ道を進んで関係を続けるのか、もしくはそれぞれ別の道を進むのか気になるところですが、ある日2人はひき逃げに遭います。
その結果、小佐内さんをかばった小鳩君は骨折、全治半年の重傷を負ってしまいます。

小鳩君は事故のせいで大学進学への現役合格の道が閉ざされるのです。
急いで受験勉強をする必要がなくなった小鳩くんはベッドの上で轢き逃げ事件について推理します。
そんな時、事故現場は中学時代に自分が捜査した同級生のひき逃げ事件の事故現場とまったく同じだったことを思い出し、今回の事件と関係があるだろうと、過去の事件を思い出しながら事件を推理していきます。

そして、過去に起きた轢き逃げ事件こそが、小佐内さんと出会い、一緒に推理をするきっかけを作った事件であり、あれこれ人間関係を探ってしまえば他人も自分も傷ついてしまうから性分を隠そうと、2人が小市民を志すきっかけになったルーツとなった事件であるという、シリーズ完結作にして小市民シリーズエピソード0的な原点回帰の物語になっていきます。
まさにシリーズ集大成に相応しい物語、とても粋です。

小鳩君は骨折しているから動くことができないので物理的に安楽椅子探偵ポジションになっており、ベッドの上で過去の記憶と入院中に起きる異変から推理していくのが本作品の注目点。
一方、小佐内さんも小鳩君が轢き逃げに合い、ただ心配しながら受験勉強をしているわけではありません。
彼女も過去の事件の関係性に気が付き、自分の足で捜査しては、病院に忍び込み小鳩君に助言を与えます。
小佐内さん視点のシーンはありませんが、彼女がとっても怒っていることがわかるのも面白い。
果たして小鳩君を轢いた犯人は誰なのか、そして過去のひき逃げ事件の真相はなんだったのか、必見です。

そして、事件解決後には完結作ということもあり2人が進路について話し合うシーンがあります。
1年の浪人が確定した小鳩君は今後どうするのか、また事件に遭わなければ本当はどうしたかったのか。
京都の大学に進学すると話していた小佐内さんは、そのまま進学して引っ越してしまうのか、それとも小鳩君と足並みを合わせるのか……

2人の関係は一緒に登下校したり、甘いものを食べたり、はたから見れば付き合っているような関係ですが、当人はあくまで本性を隠すために監視しし合い、本性が爆発しないために時にはガス抜きをしてもらうため、自由になるのを許しもする関係で絶妙な距離感でした。
小鳩君は時に小佐内さんに関して互恵関係以上の気持ちを抱いていることも見受けられますが、有耶無耶になっており、心情表現自体も少ないです。

そんな感じで2人の恋愛模様は最後まで引っ張っていましたが、最後の会話はエモの極みです、もう本当に鳥肌が立ちました。
小市民シリーズという物語の終着点はこれしかなく、これ以上のシチュエーションも会話も考えられないくらい素晴らしい。

シリーズが終わってしまうというのは完全燃焼してしまうのが個人的にベストだと思っていて、だけど最後のその炎が強烈な火花を散らしてくれればくれるほど、心に残ると思っています。
だから、もうこの先の話は見られないんだと寂しさを感じつつ、シリーズを思い出しながら、別の作品に出会うための出発点になります。

まさにこの作品は自分の中でいい意味でちゃんと燃え尽きた作品になっていると思います。
でもスピンオフとか、大学生活編とかあってもいいからね。




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