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[ミステリ大賞]青崎有吾『地雷グリコ』ぶっとび頭脳バトル開幕

女子高生、射守矢真兎の華麗なる大逆転、痺れるぅ……
『地雷グリコ』年間ベスト最有力候補に入ることはもちろん、僕の中のオールタイムベスト入りを果たすだろう大傑作。
ストーリー構成・読み応え・意外性・キャラ・テンポすべてがハイレベル。

僕は作家、青崎有吾さんの大ファンで、今のミステリー界を引っ張っている存在の一人だと思っています。
新作『地雷グリコ』は謎が出てきたり、探偵が出てくるミステリーではなく頭脳バトル物で『ライアーゲーム』や『嘘喰い』的な感じ。
しかし、ミステリー作家経験が生かされているであろう、推察力と意外性はこの作品にヒシヒシと伝わります!!

小説で頭脳バトル物があまりないのは、情報源である語り手がプレイヤーだと戦略などの思考が読者に筒抜けだから、どんでん返しとか作りにくいのかなーと思ったりしていたが、単純に僕の想像力が足りてないだけでした。

脳汁ぶっ飛びます、面白すぎる。
衝撃作です。

物語は文化祭で1つのクラスだけが学校屋上にてお店を出すことができる権利を巡って『地雷グリコ』という頭脳戦が行われることから始まります。
ゲームを簡単に説明するとジャンケンをして勝った人が階段に上がることができる『グリコ』というお馴染みのゲームに特定の段に地雷を指定することで、相手がそこに止まったら下へ落されるというルールを追加したゲーム

戦いの代表として選ばれたのは女子高生の射守矢真兎(いもりやまと)
彼女はギャンブラーでもなく、ゲームが好きなわけでないですが、ただ勝負ごとに強いからという理由で推薦されます。

『地雷グリコ』に勝った真兎はそれからどんどん身の回りに起こる勝負事に巻き込まれることで話が展開されて、最終的には因縁の友達との頭脳戦にも発展するスケールになっていきます。

章は全部で5つあり、それぞれゲーム内容がまったく違いますのでアイディアの消費量にとにかく驚かされます、作者の想像力が凄すぎる。
面白すぎて一気読みしてしまいましたが、1章50Pくらいにまとめられているのもキリが良く読みやすい。

そして、カイジの『限定ジャンケン』のように既存のゲームにとある要素が追加された仕様になっているので初見でもわかりやすいのと、図で説明してくれることも多かったのでゲームがイメージしやすかったです。

頭脳バトル物でも他の作品と明確に違うところがある。
それは主人公が頭脳バトル物に多い『ギャンブルが大好き!』や『借金や命を落とす危機があって勝負せざるを得ない状況』という要素が一切ないことです。

真兎は、相手を打ち負かす時には狂気の顔を見せたり、早口でまくしたてることはせず、いつもけだるそう。
『地雷グリコ』に参加した理由も友達に頼まれたからというもの。
負けたところで文化祭で屋上に出店できる権利を失うだけ、他の戦いの動機も変わり者の生徒会長に勝負を吹っ掛けられたり、昔の友達に謝罪させるという理由でお金はあまり関係がないのです。

さらに高校を舞台にした学園モノということもあり、お金を賭けて勝負をする戦いもあるのですが何千万や何億ではなく何十万から始まっています。
現実的にありえる額であると同時に高校生の視点からすると想像も絶する大金なんだろうと感じることもできます。
頭脳バトルの緊張感もありながら日常描写やちょっとした百合要素もあって緩急がとても良い。

お金が関わらない頭脳バトルは見ていても熱くならなさそうじゃない?

もしかしたらそう思われる人もいるかもしれません。
しかし、この物語の面白さは真兎の武器と常に真剣勝負をする根本的な理由にあり、大金を賭ける面白さを排除しても上回る凄みが構築されています。

真兎の武器はいち早くルールを理解した上で、相手の性格や癖を見極め、勝負の展開を予測し、時にはルールを追加して制約を増やしているように見せながらも、実は有利に進めるための布石でルールの裏をかいてズルもするため、聡明さと狡猾さを兼ね備えています。

そして、彼女の必勝パターンは相手に勝負に乗らせ、油断させること。
勝つためなら、その過程の負けは必要経費だと割り切り、最後に即死の一撃を食らわせ、一発逆転を図るために全神経を注ぎます。
常に戦いの大局を見通しますが、ゲームが始まる前から揺さぶりや油断を仕掛けにいくため番外戦術の達人でもあります。

名前の通り、自分は弱い兎だと思わせながら実は狩られる側ではなく、獲物が兎に喰らいついた瞬間を射るハンター、とんだくわせものです。
その活躍は是非一読ください。
真兎(まと)と的(まと)をかけているのも面白い。

そして真兎がどんな勝負にも本気で挑む理由はどんな小さい1つの負けや譲歩がいずれ大きな災難に繋がる可能性がありその被害は予測できないことを危惧しているからでした。
つまり人間のみならず、生物が持っている潜在的な生存本能を問う作品にもなっています。(こんな大きなテーマで描かれていることはないですが)
そのバックボーンが描かれていたり、それが最終決戦の因縁に繋がることにもなるのでストーリー性も熱いです。

最後に『地雷グリコ』以外の4つのゲームを紹介します。

・坊主衰弱
神経衰弱を百人一首の絵札で使用し『坊主めくり』のルールを混ぜたゲーム100対0で勝つと完全勝利宣言をした真兎の活躍をご覧ください。

・自律式ジャンケン
グー・チョキ・パーに2人のプレイヤーが考えた手(独自手)を追加して行われるジャンケン
考えられた独自手はどの手に勝ち、どの手に負けるのか設定できるのはもちろん、制約を設ければどんな手を設定することができるため、プレイヤーの発想力と相手の独自手にどんな効果があるのか予測する情報収集力が試されます。
1章だけで終わってしまいましたが戦略が無限にありそうなので2次創作が見てみたい。

・だるまさんがかぞえた
ベースはだるまさんが転んだですが、あらかじめ振り返る側(標的)「だ・る・ま・さ・ん・が・か・ぞ・え・た」と言って振り返る言葉数、
近づく側(暗殺者)は歩く歩数を審判に申告してその申告通りに進めるゲーム、相手の数字を予測した上で駆け引きが行われます。
標的と暗殺者に分かれているゲーム性は一番真兎のキャラと親和性が高く、的確に表現されている章な気がします。

・フォールーム・ポーカー
3枚で行うポーカー、破棄した分のカードはプレイヤーが自らスート(柄)が表示された部屋に入り交換を行い、役を作っていく。
さらに、交換を行う時間は交換するカード以外に触れることさえしなければ何もしてもOKという作中屈指の難易度と自由度を誇ります。
ルールが難しいので真剣に読むことを勧めます。運・知力・記憶力・発想力・洞察力が試される究極の頭脳ゲームです。

個人的には自律式ジャンケンとフォールーム・ポーカーがお気に入りです。
青崎有吾さんを知らない人もミステリーを読まない人も是非読んで欲しい作品です。
こういう頭脳バトル小説今後増えていくんじゃないかってくらい革命的な作品だと思っています。

また、青崎有吾さんの作品はこちらの記事で紹介しているので気になった方はこちらも読んでいただければ嬉しいです。


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