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61 彼女の涙をむだにしないで:修学旅行3

2年生の3学期、翌年の修学旅行に向けた準備が始まり、各クラスの修学旅行委員を中心に話し合いが始まった頃でした。クラスでちょっとした問題が起こりました。学級での話し合いで司会をしていた委員の女子生徒が涙を流したのです。生徒たちの中に話し合いに協力せず、他人任せにする生徒がおり、話し合いがうまく進まなくなったからです。

修学旅行はどの生徒にとっても楽しみな行事です。でも、旅行のルールを自分たちで決めたり、自主行動のコースを考えたりするのは面倒だという生徒がいないわけではありません。友だちとわいわい言って楽しめればそれでいいという生徒もいます。それに2年生のこの時期に来年度のことまで考えるのは面倒だという生徒もいます。でも修学旅行は学習の一環として行われます。出来合いのツアー旅行とは違います。楽しむだけで終わるのではなく、学ぶことも重要です。そのために多くの時間をかけて準備します。教師たちも準備の段階から生徒に関わってもらい、自分たちの手で旅行を計画し、実施してもらいたいと思っています。楽しいところだけ「つまみ食い」する旅行にしてほしくはありません。だから中心となる人たちを選び、話し合いを進めます。そんな中で発生した問題でした。以下は翌日に学級通信に書いたことです。

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昨日の話し合いにしっかり参加していた人ならば、そしてクラスメートの心を気遣う優しさを持つ人ならば彼女の涙に気づいたはずです。あの涙をみんなはどんな気持ちで受け止めましたか。自分の話に耳を傾けてくれない人に対する憤りもあったでしょう。悔しさもあったでしょう。でも一番大きかったのはクラスのみんなが一つになれなかったという悲しさだったのではないかと私は思いました。「みんなでつくる修学旅行なんだからみんなでやらなくちゃだめでしょ」と言いながらあれだけ一生懸命にみんなをまとめようとしてくれた人に涙を流させてしまった責任はみんなにあります。そして彼女を十分にバックアップできなかった私にも責任があると思っています。

みんなはこれまでいろいろな行事に携わってきました。そのたびに実行委員としてリードしてくれた人たちがいました。
リーダーを引き受けてくれた人たちです。立候補した人もいます。選ばれた人もいます。仕方なく引き受けた人もいます。リーダーになれば大変な仕事が待っています。乗り気でない人がいても不思議ではありません。でも最後には「みんなのために」という気持ちを優先して引き受けてくれました。そして大変な仕事をこなしてくれました。そんな人たちに私はすごく感謝しています。

でも、そうした人たちに対するみんなの態度はどうでしたか?「リーダーが頑張ればいい」「リーダーになりたいからなったんでしょ」なんて思っていませんか? 選ぶだけ選んだらあとは知らん顔をしていませんか? そうだとしたらあまりにも無責任ではないですか? リーダーになった人はみんなの代表であって、主役はみんなです。そんな当たり前のことを忘れている人がいることを私は残念に思いました。

集団の先頭に立ってみんなをリードするのはとても大変です。リーダーとなった人たちは毎日のように会議をして原案をつくり、みんなの意見を聞き、さらにそれを持ち寄ってまた会議を開くということの繰り返しを続けています。みんなが帰ったあとも遅くまで会議をしていることをみんなは知っていますか? その苦労をわかってあげる感性がみんなにはありますか? 自分たちのことなのだから協力するのは当然です。これまでの様々な行事であれだけまとまって活動してきたみんなです。修学旅行でそれができないはずがないと私は思っています。彼女の涙が無駄にならないことを願っています。


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