廃病院

  四国にある、とある廃病院での話なんですけど、心霊スポット巡りが好きなAさんという人がいまして、知り合いのBさんからあそこの廃病院やばいよって聞いたんで一緒に行く事にしたんですよ。

二人とも心霊スポットには行き慣れてるもんで、どうせ大した事ないだろ何て言いあいながら車を走らせてたんですね。
ほら、廃病院ってやっぱり地元なんかじゃ有名になりがちじゃないですか。
結構他所から物見草で人が来るわけですよ。
何で他に人いなけりゃいいな、みたいに思いながら向かったわけです。

暫く車を走らせていると目的の場所に着いたんですよね、廃病院に。
結構雰囲気があって、見るとそれなりに怖いなと、Aさん思ったそうです。
Bさんから聞いた話によると、ここでは火事があったそうなんですよね。
出火場所は最上階らしくて、何人か逃げ遅れて数人亡くなっているそうなんですよ。
事件当時は結構大事になってて、避難口になってた非常扉の前に、使わないベッドとか色々荷物が置かれてたらしくて、扉が開かなくて避難できなかったみたいで、消防法違反だとか言って地元のテレビでもかなり叩かれてたんですね。

で、遂には廃病となってしまったんですよ。
それからなんですね、暫くして変な噂が立つようになったのは。
誰もいない病院の中から人の叫び声が聴こえる、大きな激しい音があちこちから聴こえる。
黒い人影をたくさん目撃した、みたいなね、よくあるやつです。

「おっ車ないじゃん、て事は貸切？」

「いいねえ、やる気出てきた」

Aさん達はなんて事を言いながら、車を降りて病院の中に入ったそうです。
中は結構広くて、二人でじっくりなんてしてたら夜が明けそうだってBさんが言うもんですから、二手に別れて行動する事にしたんですね。
とりあえずAさんは外の非常階段から最上階へ、Bさんは中から最上階を目指す事にしたそうです。
まあいくら心霊スポットに慣れてるとはいえ一人ですからね、流石に怖い。
壁やら階段も所々黒ずんでいて事件の事を思い出させる。
またそこらじゅうに嫌な落書き何かもありましてね、この先登ったら死ぬぞとか、後ろ振り向くな、とかね。
しかも今日に限ってAさん達以外いないもんだからやたらと静かなんですよ。
階段を登る度に足音が響く。
まるで後ろからつけられてるんじゃないかって思って、Aさん何度も振り返りながら階段を登ったそうです。

やがて行き止まりが見えてきて。

「ああやっと着いた……」

何て言いながらAさんは一息着くと、そこで煙草を取り出して一服し始めたんですね。

「眺めいいなあ」

とか言いながら手すりにも垂れて煙草吸ってた。
そうしたら……。

──ドンドンッ！

「うわっ」

突然後ろにあった非常扉から大きな音が聴こえたんです。
びっくりしたAさん煙草落としちゃった。
いや待て友達かもしれない、Aさんそう思ったんですね。
びくびくしながらもAさん扉のドアノブを握った。
ゆっくりドアノブを捻る、すると。

──ドンドンドンドン！

またもやドアを叩く音が聴こえた。
激しく鉄の扉が揺れる。
Aさんびっくりしてドアから飛び退いた。
何だこれちょっとおかしくないか？そう思っていると、ふと思い出したんですよね。
ここに来る前に聞いた病院で起こった事件。
非常階段の扉から逃げようとした人達、ドアが開かずに逃げ遅れてしまった。
その後廃病院で語られるようになった噂話。
大きな激しい音があちこちから聴こえる……。
ひょっとして……。
Aさん一気に寒気を感じた。
おいおいちょっと待ってくれよと慌ててスマホを取り出した。
Bさんに慌てて電話をかける。

「どうしたA？」

繋がった。

「おいBお前今どこに居るんだよ！」

「どこって扉の前だよ？ドアが変形してるみたいで開かないんだよな……」

「な、何だよびっくりさせんなよ……」

あの音、心霊現象でも何でもなかったんですね。
Bさんが開かない扉叩いてただけだった。
Aさんほっとして通話を切った。

「びっくりさせやがって」

そう言って溜息をつきながら再びドアを見たんですね。
確かにBさんの言う通りドアの端が歪んでいる様にも見える。
Aさん仕方ないと思って再びドアノブを掴んで思いっきり開こうとした。
でも開かない。
何度引っ張ってもピクリともしない。

「こりゃ諦めた方がいいな……お～いB、ここ無理っぽいぞ！」

扉越しに声を掛けた、するとその瞬間。

──ドンドンドンドンドンドンドンドンッ！！

「うわあっ！」

ドア中を殴りつけるような音が一気に響いた。

「ビビらせんなよB！無理だって開かないよ！」

するとAさんのスマホが急に鳴ったんですね。
Bさんからでした。

「もしもし！」

Bさんの慌てた声が通話口から聴こえてきた。

「何だよB、お前もしつこいな、だから開かないって、」

「逃げろA！」

「はあ？」

Bさんが突然変な事を言い出したんですよ。
それでAさん何言ってんだこいつみたいに思った。

「B、お前今扉の前にいるんだろ？ドア開かないって言ってたじゃないか」

そしたらBさん。

「俺がさっき言ったのは下の階の扉だよ！今諦めて最上階に上がったら、何か黒ずんだ奴らが非常階段の扉に集まって扉叩きまくってんだよ！いいから直ぐ逃げろ！！」

それを聴いてAさん、もう声も出せずに死に物狂いで階段を降りたそうですよ。

上からは扉を激しく叩く音がずっと鳴ってる。
Aさん振り返りもせずとにかく走ったそうです。

やがて車の側まで逃げると、後からBさんが走って戻ってきた。
もう二人共ガタガタ震えながら急いで車に乗った。

「早く出せよB！」

「うるさい分かってるよ！」

そんな風に言い合いながら、二人は病院を後にしたそうです。

それからというものAさん、心霊スポットにはめっきり行かなくなっちゃったそうなんですよ。
やっぱりこの間の事がかなり堪えてたみたいなんですね。
そしたらある日、他の友人達から電話があったそうなんです。
お前ら最近心霊スポット行ってないみたいじゃないか、俺たちこの前面白いとこ行ったんだけど土産話聞かせてやるよ、今から行くからいいよな？みたいな感じでね、電話があったそうです。

Aさんもせっかくの休みでも暇だったから、ああいいよ、宅飲みでもしようや、みたいに返事を返した。

暫くして家に友人達が現れてね、飲みながら話が盛り上がったそうです。
そしたら友人の一人がね。

「そうそう、俺達この前昼間にさ、噂の廃病院行ってきたんだよ、知ってるだろお前も？火事で燃えちまったあの病院だよ」

Aさんその話聴いてドキッとした。
でも友人達の前ですからね、強がって、ああそうなんだ……って返事を返した。
そうしたら友人が。

「最上階のさ、非常口の扉？あそこが一番ヤバイって噂で俺達行ったんだよ、写真も撮ってきたけどかなりやばいぞ、ほら」

そう言ってスマホの画像見せて来たんですね。
それ見てAさん青ざめたそうです。
写真には病院の中から撮った、非常階段に繋がる扉が写ってたんですね。
その扉には、真っ黒な無数の手形が扉中にびっしり着いてたんです……。

以上がAさん達が体験した話らしいんですけど……その廃病院、後に取り壊されたんですよね、だけどそこにまた新しい病院が建つ予定らしくて、大丈夫……何ですかね？って、Aさんは今もそう心配されているそうです。